「花の色は移りにけりないたづらにわが身世にふるながめせしまに」は、小倉百人一首の9番目として選出されている有名な和歌。作者は絶世の美女と謳われた小野小町です。
本記事では「花の色は…」の歌について、現代語訳と詳しい意味や掛詞などのポイント、読み方を紹介。決まり字や出典の『古今和歌集』、作者の小野小町についても解説します。
百人一首9番「花の色は移りにけりないたづらにわが身世にふるながめせしまに」とは
花の色は 移りにけりな いたづらに わが身世にふる ながめせしまに
早速、この歌について細かく解説していきます。
ひらがな(読み方)
はなのいろは うつりにけりな いたづ(ず)らに わがみよにふる ながめせしまに
現代語訳・意味
春の桜の花の色は、すっかりと色あせてしまったわ。そして同じように、私の美しさも衰えてしまった。
長く降り続く雨に、むなしく物思いにふけっている間に。
解説 - 理解のポイントは掛詞
この歌は、掛詞(かけことば)を使うことなどにより、いくつもの捉え方ができるようにしているのが魅力の一つ。
掛詞とは、例えば「松」と「待つ」のように、同じ音で意味が異なる言葉を使うことで、同時に二つの意味を持たせる手法です。
それを念頭に、もう少し細かく分解して見ていきましょう。
花の色
ここでは「花」はさまざまな春の花、特に桜を意味しています。しかしそれだけではなく、女性の美しさ、若さという意味も比喩的に込められています。世にふる
「世」にはいろいろな意味があり、世の中や時、男女の仲といった意味もあります。そしてこの場合の「ふる」は、「降る」と「経(ふ)る」の掛詞です。ながめせしまに
「ながめ」は「長雨」と「眺め」の掛詞です。古語での「眺め」は、単に眺望という意味だけでなく、物思いにふけりながらぼんやりと見ていること、という意味があります。
決まり字
決まり字は「はなの」で、三字決まりです。
百人一首の一覧 - ひらがなや作者、かるたのルールや決まり字も解説
出典は『古今和歌集』
この歌は元々、『古今和歌集(こきんわかしゅう、略して古今集)』の春下、113に収録されていた歌です。
『古今和歌集』は平安時代前期に、醍醐天皇の命により編さんされた、最初の勅撰(ちょくせん)和歌集です。
分類は春(上下)、夏、秋(上下)、冬、賀、離別、羇旅(きりょ)、物名(もののな)、恋(一~五)、哀傷、雑(上下)、雑体(長歌・旋頭歌・誹諧)、大歌所御歌(おおうたどころのみうた)となっています。
作者の小野小町とは
小野小町(おののこまち)は平安時代の歌人で、六歌仙、三十六歌仙の一人。特に情熱的で繊細な恋の歌を多く残しています。
絶世の美女だったとされ、クレオパトラや楊貴妃とともに、世界三大美女としても有名です。
こういった背景を知ると、かつて並外れた美貌を誇った小野小町が、いつの間にか衰えていく自身を嘆いている、という描写がよりクリアに感じられるでしょう。
なお小野小町の出生、没年などの詳しいことは不明で、在原業平と恋仲であった、晩年には落ちぶれたなどさまざまな伝説があります。
意味や背景を理解して自分なりの感想を持てば、百人一首も覚えやすい
「花の色は…」の歌は、歌を聞いた人によって、またその人のその時の感情によっても捉え方が変わる歌です。
この歌を情緒的で美しいと感じることもあれば、女性の切実な嘆きに心が苦しくなることもあるでしょう。今は自分がどんなに恵まれていても(逆に恵まれていなくても)、時の流れは誰に対しても平等なのだと感じ、一瞬一瞬を大切にしようと思うこともあるでしょう。
五・七・五・七・七の短い文字数の中に、このようにさまざまな意味が込められているのです。
競技かるたやテスト対策として、百人一首の暗記に挑戦してみようとしている方もいるかもしれません。その場合はただ字だけを覚えようとしても難しいので、このように一つ一つの言葉の意味を理解して、自分なりにどう思うか考えてみると、覚えやすいかもしれませんね。