トヨタ自動車の新型「クラウン」は4つのボディタイプで登場したが、クラウンの本丸ともいうべき「セダン」の出来栄えは気になるところだ。「ニューフォーマル」を打ち出す内外装の特徴は? 水素で走るFCEVはクラウンの新タイプにふさわしいのか。試乗してきた。
ロングホイールベースのFRはセダンの証
クラウン(セダン)はハイブリッド車(HEV)と燃料電池自動車(水素で走るFCEV)の2種類。今回は両方に試乗してきた。
セダンがほかのクラウンと全く異なっているのが「FR」(フロントエンジン・リアドライブ)の駆動方式をとっていること。プラットフォームはFR用の「GA-L」で、先代クラウンをはじめトヨタ「ミライ」(FCEV)やレクサス「LS」なども採用している。
ボディサイズは全長5,030mm、全幅1,890mm、全高1,475mm、ホイールベースは3,000mmと堂々たるもの。数字的にはLSとミライの中間とはいえ、実物の押し出し感はなかなかの迫力だ。
クラウン(セダン)の内外装をチェック!
最近のトヨタ車ではおなじみの「ハンマーヘッド」デザインに縦基調の大型グリルを組み合わせた顔もなかなか魅力的だ。近づくと、桟の間に日本の伝統工芸を感じさせるような精緻な意匠が施されているのがわかる。
ヘッドランプ、ロアグリルやベルト部分の各モール類、フェンダーガーニッシュなどは漆黒メッキで加飾。渦巻き型の20インチアルミホイールにはブラックスパッタリング塗装が施してある。精悍なブラックパッケージのボディは、これまで王道とされてきたフォーマルな佇まいとは明らかに一線を画す仕上がりだ。
インテリアはブラックにウッド調パネルを組み合わせる。水平基調で落ち着いた雰囲気だ。ショーファーカーとしての使用を考慮したリアはゆったりとした空間。長いホイールベースをいかした足元は広さ十分だ。リアアームレストにはオーディオ、エアコン、リアパワーシート(左右)のリクライニング、リフレッシュモード(座面内のエアブラダー=空気袋をふくらませて押圧してくれる)などを操作可能なタッチパネルを搭載している。
電動式リアサンシェードと手動式リアドアサンシェードも用意されているので、後席のプライバシー確保も完璧。実際に試してみると、足を伸ばし切るオットマン機能までは付いていないものの不満なしといったところで、シートの使い方を熟知している富裕層も、これなら十分に満足できるのではないかと思った。
FCEVとHEVの走りはどう違う?
FCEVのシステムはミライと同じ。3本の高圧水素タンクと、水素を燃料に発電する燃料電池(Fuel Cell)によって、最高出力134kW(182PS)、最大トルク300Nmのモーターを回して駆動する。電気で走るという仕組み自体は電気自動車(EV)と一緒だ。乗り心地は静かで滑らか。過去の直列6気筒モデルなどが実現していたクラウンらしい正統派セダンの乗り心地をしっかりと引き継いでいる。
車重2トンのボディに対して184PSのモーターは非力なのではないかと思ったのだが、発進時から最大トルクを発生させられるので加速力に全く不満はない。動き出してしまえば全長5mオーバーの巨体を走らせているという感覚は薄れ、ドライバーとボディが一体になったような走りが楽しめる。とにかく、どんなシチュエーションでも過敏な動きを見せないので、リアシートに乗せたVIPも快適に過ごしてくれるはずだ。
水素はわずか3分で充填できる。満タンにすれば計820kmを走行可能だというから、近くで充填できるなど使用環境が許すのであれば、積極的に選ぶ価値はある。
HEVのパワートレインはトヨタ初搭載の「マルチステージハイブリッド」だ。縦置き2.5Lエンジンとモーターからなるハイブリッドシステムの後段に、4速の変速機構を組み合わせて後輪を駆動する。同システムの採用によりパワーの伝達効率が高まるとともに、エンジン最高出力を使用できる車速が従来の140km/h以上から43km/h以上に拡大し、低速域からでも最大のパワーが発揮できるようになった。
「スポーツ」モードを選択すれば、有段変速するかのような4発エンジンとモーターを併用するパンチ力のある走りが楽しめる。「リアコンフォート」モードを選択すれば、AVS(減衰力を制御する装置)によるゆったりとした走りへと表情を変えるのが確認できた。後席に大切なパッセンジャーを迎える時にも安心だ。
FCEVでは3本の水素タンクを積んでいたスペースには82Lの大容量ガソリンタンクを搭載。18.0km/L(WLTCモード)の燃費で計算すると航続距離は1,400kmを超える。
クラウンはシティポップを目指す?
話を聞いたトヨタMSデザイン部の宮崎満則室長によると、セダンのエクステリアは「日本人がかつてのクルマに持っていた美意識」に思いを込めて作ったのだという。
例えば、過去に日本で流行ったハイソカーは、タイヤの直径に対してアンダーボディが薄かった。セダンを横から見た時の長く水平に伸びるベルトラインには、そうした過去の日本車へのオマージュが込められている。デザインを実現するためには、燃料パイプの経路を見直すなど技術的にかなりの苦労があったそうだ。
インテリアは「長く、飽きることなく乗り続けてもらうため」に、あえて派手さを抑えたとのこと。例えば64色から選べるアンビエントライトも、欧州の高級車のようにギラギラした輝度・彩度・色調ではなく、「行燈のように」控えめな色にしてある。車内に大きすぎる画面がないのも欧州モデルとの違いだ。
ここ最近、少し前のジャパニーズ・ポップス(シティポップ)が海外で流行している。日本人が日本人だけを意識して作った心地よくて美しいサウンドが、今やインターネットを通じて世界中で聞かれるようになり、愛されるようになった。宮崎さんもシティポップが大好きとのことで、「今回のクラウンも、そんな展開になれば嬉しいんです」と話していた。
クラウン(セダン)からは開発陣の本気度が伝わってくる。試乗してみて、さすがはトヨタのフラッグシップだと実感できた。