米を「食感」で考えると、ぴったりのおかずが見えてくる

米の食感を四つのゾーンに分けると、どんな料理に合うかが見えてきます。
縦軸は「もっちり」と「あっさり」、横軸は「やわらか」と「しっかり」という指標です。それぞれの食感に合う食べ方や料理があります。

注意してほしいのは、これは『おいしさの指標ではない』ということ。食感の違いを相対的に表すものなので、どのゾーンがおいしいという意味ではなく、それぞれ異なるおいしさがあると思ってください。

食感 特徴 合う料理
もっちり・やわらか 味わいがあるごはん 焼き魚にみそ汁など和風のおかず
あっさり・やわらか 後味が残りにくいごはん 洋食、ファミリーレストランでお皿に盛られるライスのイメージ
もっちり・しっかり オールマイティなごはん 家庭料理、総菜、肉料理、炊き込みごはん
あっさり・しっかり 食材を引き立てるごはん 丼物、すし、スパイス系のカレー

皆さんが知りたいのは、四つのグループそれぞれにはどんな品種が入るのか、ということですよね。
うーん、実は図の中心をどの品種にするかで変わるので、「ゆめぴりかはココ、ななつぼしはココ」などと言い切るのは難しいんです。品種それぞれの特徴はあるため、たとえば、コシヒカリは基本的には右上の「もっちり・やわらか」のゾーンに入ると思われます。

お米は奥深くて、食味については、産地や生産者さん、年によっても変わるんです。そこで、金子商店では、店頭で販売する米のそれぞれの特徴をわかりやすくお伝えするために、食味ではなく、食感を軸にしたマップにして説明しています。毎年入荷した米を実際に炊いて試食をして評価したものです。

業界歴20年以上の金子真人さんは、埼玉県川越市にある昭和11年創業の米穀店「金子商店」3代目。五つ星お米マイスターであり、農林水産省の専門委員を務める米のスペシャリストだ

世代に合ったお米がある!?  世代別おすすめの米とは?

米屋としてさまざまなお客様と接する中で、最近特に感じるのは、『世代別に合う米がある』ということです。

仕事に家事に、忙しい働き世代

マップ左側「しっかり」ゾーンのお米は現役世代向けです。仕事、家事、趣味に忙しい現役世代。総菜や濃い味付けの肉系おかずをしっかり食べてパワーチャージするにはもってこいです。忙しい時に丼物で済ませたい時には、あっさりめの米にするのもいいですね。

忙しいからこそしっかり食べたい世代には、肉など味つけの濃い料理にも合う「しっかり」ゾーンの米をおすすめめしたい

そんなにたくさん食べられない。少量で満足したいシニア世代

マップ右上の「もっちり・やわらか」はシニア世代におすすめです。焼き魚など和食のおかずによく合います。また、食べる量が少なくなりがちなこの世代には、一口目からしっかり食べ応えを感じられ、少量でも満足できる「もっちり・やわらか」がおすすめです。

「もっちり・やわらか」ゾーンの米は和食に合う

食べ盛りの子どもを抱える子育て世代

マップ右下の「あっさり・やわらか」は食べやすくて、しかもおいしさを感じられます。洋食にも合い、飽きずにたくさん食べられるのが特徴なので、子供がたくさんおかわりしやすいお米かなと思います。

「あっさり・やわらか」の米は洋食にも合い、子育て世代向け

みんな大好き! 卵かけごはん

ちなみに、あっさりした米は世代を超えて「朝ごはん」向きの米として推したいですね。卵やしょうゆとよくなじんで、朝から食が進むはず。TKG(卵かけごはん)にぴったりだと思います。

日本では約300種類の米が作られているので、迷ってしまいますよね。銘柄と価格を見て何となく選んでしまいうことが多いのではないですか? 

お米はスーパーで買うことが多いかもしれません。でもたまには、「今日のおかずに合うのはどんなお米?」「このお米食べてみたいけど、どんな料理に合うのかな?」といった感じで、お米マイスターと話しながら、ライフスタイルに合ったお米選びを楽しむ、なんてことも試してみてほしいですね。

こんな米が好き、こんなふうに食べたいと相談してほしいです。お米マイスターとして、好みや用途に応じてお客様にあった米を選ぶために張り切りますよ。最近のトレンドは「もっちり・やわらか」系の米ですが、いろいろな食感のおいしさを味わってもらえたらうれしいです。

品種・銘柄と食感は必ずしもイコールではないので、僕たちは食べ方や好みを聞いて、その人にあったお米をおすすめしています。お米マイスターのいる店は全国にあるので、ぜひ気軽に訪ねてみてください。

「認定お米マイスターショップ検索」

金子商店 吟撰米屋「結の蔵(ゆいのくら)」の店内。全国各地から厳選された米が並んでいる

令和5年産米のおいしい炊き方・食べ方

2023年は猛暑の影響で未熟粒米が多く発生し、結果的に等級の低い米が増えています。いつもと同じように炊くと「べちゃっとする」「ハリのないご飯」と感じるかもしれません。未熟粒米といってもさまざまで、見た目にはっきり分かる白いものもあれば、水をたくさん吸い込んでしまうお米ももあります。炊飯の際に少し工夫すれば、おいしく食べられますよ。

柔らかめの米の場合は「水を少なめにして早炊きモードで炊くと良い」と聞いたことがあるかもしれないですね。早炊きモードも悪くはないですが、最近の炊飯器は高機能なので、普通炊きの他にもちもち・シャッキリなどの炊き分け機能がついていたらぜひ活用してみてください。普通炊きしか試したことがない方にも知ってもらえればと思います。

やわらかくなりがちな米の場合は「シャッキリ」系のモードがいいです。未熟粒米が多いやわらかめの米でも、沸騰させるまでの時間や温度帯を適切に調整してくれます。

土鍋で炊く派の人は、今年の米はちょっと難しいと感じるかもしれません。いつもと同じように炊いてやわらかすぎると感じたら、水を少なめにしつつ炊飯時間を少し短くするといいと思います。

水を少なめにする加減ですが、いつもより5%少なくする程度から調整してみてください。ざっくり言えば炊飯器の目盛りで1ミリ程度下にするイメージですね。

日本で作られている米の3割以上を占めるコシヒカリは、暑さが苦手です。一方で昨今の温暖化に適応する、つや姫・さがびより・新之助など、暑さに強い品種が出てきています。猛暑が来年以降も続く可能性が高いといわれているので、高温耐性品種への切り替えが進むと良いですね。

ずっとコシヒカリを作ってきた農家がノウハウのない品種へ変更するのは大変だと思いますが、高温耐性品種はどれも暑さに強い上においしいので、もっと増えてほしいです。今年のような猛暑が続けば、農家の収入への影響も避けられません。猛暑に強い品種を選ぶという考え方が、生産者にも消費者にも広まればと思っています。

高温耐性品種の例。山形県産「つや姫」佐賀県産「さがびより」

おいしいご飯は、関係者みんなのリレーみたいなもの

米に関わるすべての人たちのリレーがうまくいくことが、おいしいご飯を提供できるカギだと思います。生産者、精米工場、流通業者や配送業者、僕たちのような米屋。そして最後のバトンを受け取るのが、実際に食べる消費者です。

今年のような未熟粒米が多い場合でも、このリレーがうまくいけば、いつもと同じおいしいご飯が食べられます。僕ら米屋ももちろんがんばります。

もっともっと米に興味を持ってもらえたらうれしいです。僕たち米屋が取得する「お米マイスター」資格とは別に、一般の人を対象とした「ごはんマイスター★講座」も2024年から始まります。おいしいお米を食べたい、お米についてもっと知りたいという人はぜひ挑戦してみてください。こういった講座をきっかけに、米への関心や農家さんへの感謝の気持ちにつながるといいなと思います。

川越の街並みに溶け込む金子商店「結の蔵」の外観

取材後記

米のおいしさをもっと知ってほしい、おいしい米をもっと食べてほしいと語る金子さんの熱量が楽しくて、いつまでも話を聞いていたいと感じる取材だった。私たちの食生活に欠かせない米は本当に奥深い。生産者である農家はもちろん、精米や配送、そして米屋などの小売店まで多くの人の手を経て、米は私たち一般消費者のもとへ届けられる。そんなリレーの最後を担う消費者として、もっと楽しくおいしく米を食べたいと思った。

【取材協力・画像提供】
一般財団法人日本米穀商連合会(日米連)
株式会社 金子商店