5月に配信されるとすぐに日本で連日1位を獲得し、世界50以上の国と地域でもTOP10入りするなど、正に“2023年を代表するドラマ”として国内外で注目を集めたNetflixの大ヒットドラマ『サンクチュアリ-聖域-』。12月にはアジア圏最大級のコンペティション「Asian Academy Creative Awards」のBEST SCREENPLAY(脚本賞)にて日本代表に選出され、アジアの作品と戦い、最優秀賞を受賞するという快挙を成し遂げた。
そんなAACA授賞式登壇のためにシンガポールを訪れた脚本家の金沢氏にインタビュー。シンガポールの街並みを巡りながら、『サンクチュアリ』で大事にした2つのツカミや思い入れのあるキャラクター、そして実際に起きた出来事と重なる点や回収されていないストーリー、続編について話を聞いた。
実現するのか不安な中書き上げた『サンクチュアリ』
――金沢さんが脚本を手掛けた『サンクチュアリ』が、アジア圏最大級のコンペティション、Asian Academy Creative AwardsのBEST SCREENPLAY(脚本賞)で日本代表に選出され、最優秀賞を受賞しました。率直な感想を教えてください。
今回いただいたのは脚本賞なのですが、あくまで選ばれたのは作品全体だと思っています。キャストやスタッフに申し訳ないなという気持ちもあって。
――X(Twitter)でも「選出はうれしいことですが、サンクチュアリは監督、出演者の皆さん、スタッフさんの力が重なってできた作品です」と投稿されていましたね。改めて作品への思いを教えてください。
『サンクチュアリ』は、第一に役者の肉体ありきの作品です。構想を練っているときから、「この作品、本当に成立するの!?」と、力士のビジュアルが実現するのか不安に思っていました。ただ、作品というチームの先陣を切るのは脚本。脚本がないと何も始まらないから、まずは自分に「絶対にできる!」とマインドコントロールをかけて何とか書き上げました。その後コロナ禍に突入し、何度も撮影中止に見舞われたので、構想から3~4年経って「完成した」と聞いたときは本当にうれしかったです。
――力士役の体作りには相当な準備期間が必要だったとか。その準備期間を確保するため、力士役は新人俳優さんたちを中心に起用したのでしょうか。
そうですね、有名な俳優さんをキャスティングする方向性もあったようなのですが、スケジュールを押さえられないということで、新人俳優さんたちを起用することになりました。でもそもそも僕は、これから自分の人生を変えていきたい新人の方や無名の方とお仕事をしたいという思いを持っていて。僕は元芸人なのですが、芸能界を去ろうとしたときに、ネプチューンの堀内健さんから構成作家をやらないかと声をかけていただいてここまで来られた。自分も同じように、人生が変わるようなチャンスを誰かに与えることが使命だと思っているんです。
このままでは日本のクリエイティブが死んでしまう
――自分の書いた脚本が日本代表になり、海外で評価されるというのはどんな気持ちですか。
シンプルにうれしいですね。世界への挑戦は、ずっと目標の一つでした。日本はクリエイターのギャラが安いんです。問題は安いこと自体ではなく、安い=評価が低いということで、このままでは日本のクリエイティブが死んでしまう。でも海外にも作品を発信していくことで、作って終わりにならず、海外のエンタメ業界の方から連絡をいただいたり、今回のように海外の賞にノミネートされたりと、そのあとの展開が変わってきます。新たなマーケット拡大のチャンスにつながるなと感じました。
――海外のエンタメ業界の方とのお話で、考えが変わったことはありますか。
世界で評価を受けている制作チームは、構想段階から「この作品は世界的なヒットコンテンツになるかどうか」をものすごく精査しています。スタートから意識しているかどうかで、そのあとのすべてが変わるじゃないですか。ただ山登りがしたいなと思うことと、あの山に登りたいと具体的に目標を定めて行動するのとでは、リュックに入れるもの、装備や準備が全く違うものになる。僕もこれからは、最初から「これは世界に発信できる作品なのか」と自問自答しながら作品を作っていこうと思いました。
――『サンクチュアリ』も世界を意識してはいたが、そこまでは精査していなかったと。
相撲は世界的にもメジャーなスポーツなので、これでダメだったら何を作っても無理だろうと思ってはいましたが、世界である程度評価されたことで、もっと明確に「世界を狙うとはどういうことなのか」と考えさせられましたね。『サンクチュアリ』がNetflixの世界トレンドに入ったとき、そのあとの日本の作品もトレンド入りしていました。作品1つじゃ、日本のエンタメ業界を取り巻く環境や、世界から見たイメージは変わりません。韓国は、全体の水準が高いからNetflixから大きな投資が下りています。「『サンクチュアリ』すごいね」ではなく、「“日本の作品”すごいね」と思っていただかないと未来は拓けない。だから、日本のエンタメ界が一枚岩にならないと世界で勝てないと思うんです。
作品の選手宣誓にあたる2つの“ツカミ”
――そんな中で、『サンクチュアリ』の脚本はどんなところを評価されたと思いますか。
妥協しなかったことじゃないでしょうか。僕は作品の始まりの部分に“ツカミ”を2つほど用意するようにしています。『サンクチュアリ』では、先輩力士からのシゴキのシーンと、主人公たちがトイレに呼ばれて先輩力士のウンコを見せられるシーン。ツカミは「この作品はこういう世界観ですよ」と表明する選手宣誓でもある。特に2つ目は『サンクチュアリ』のツカミとしてすごく重要だと僕は考えていたのですが、カットしようという話も出たんです。でもNetflixの坂本プロデューサー(坂本和隆P:『全裸監督』『今際の国のアリス』『First Love初恋』などを担当)が「これは大事なシーンだから、絶対切っちゃダメだ」って戦ってくれて。熱い男なんです。信頼できる方と作品作りができてるんだなと感じましたね。うちの母ちゃんは、あのシーンで「気持ち悪い!」って離脱したんですけど(笑)。
――(笑)。Netflixで作品を作るという経験はいかがでしたか。
かなり多くの人が携わる作品になりましたが、僕は顔を合わせたスタッフが少なかったので、Netflixだからどうだったと実感が湧かなくて。脚本も、僕と、監督の(江口)カンさん、Netflixの坂本さん、その三人を繋いでくれたアルファエージェンシーの荻沼(統)さんの四人で脚本を練り上げていきました。たくさんの人が関わると、尖った企画も真ん中を取って円になっていきがち。四人だけで作らせてもらえたので、余計な意見が入らず、尖ったままの作品になったんじゃないかなと思います。