新型スズキ「スペーシア」の最新情報まとめはこちら
人気のスーパーハイトワゴンの中でも存在感があったスズキの「スペーシア/スペーシアカスタム」。2代目モデルはライバルに一線を画すスタイルと低燃費で販売台数TOP3の常連でした。2023年11月に発売されたばかりの3代目モデルはその人気を受け継げるのでしょうか。自動車評論家の萩原文博さんの試乗インプレッションをお届けします。
ダイハツの不祥事でN-BOXとスペーシアが市場を分け合うか
2023年の年末に自動車業界を震撼させる出来事がありました。タントやムーヴキャンバスといった軽自動車の人気モデルを販売しているダイハツで、車両の安全性に関する認証試験での大量不正が発覚しました。不正が確認されたのは64車種、174件にのぼり、安全性などが国の基準に適合しているかどうかが判断できるまで、国内外の販売されている全車種の出荷停止となっています。
2023年11月の軽乗用車の新車販売台数を見てみると、2位にタント、5位にムーヴ、7位にミラがランクインしています。出荷停止により、12月25日から工場での生産が止まり1月も生産休止ということなので、1月以降の新車販売台数ランキングは大きく変わることでしょう。ちなみに11月の軽販売台数NO.1はホンダN-BOX、3位はスペーシアと相変わらずスーパーハイトワゴンが市場を席巻しています。しかもN-BOXとスペーシアはフルモデルチェンジしたばかり。タントの失速により今後はこの2車種が軽自動車市場の上位を占めていくことは間違いありません。今回は11月にフルモデルチェンジをしたばかりのスズキスペーシア/スペーシアカスタムに試乗することができました。ベストセラーカーであるN-BOXとの比較を行いながらインプレッションを紹介しましょう。
カスタムのスタイルが精悍になった
今回試乗したのは、車両本体価格170万5000円のスペーシアハイブリッドX 2WD車と207万3500円のスペーシアカスタムハイブリッドXSターボの2台です。新型となったスペーシア/スペーシアカスタムのセールスポイントはいくつもありますが、最大の変化はカスタムのスタイルが精悍になったことでしょう。
先代の2代目モデルはスーツケースをモチーフとした雑貨系デザインで標準モデルが人気を集めましたが、カスタムはライバルに比べて今ひとつな販売成績でした。今回はモチーフがコンテナとなってスーツケースよりも「強そう」になったことがカスタムに有利に働いている印象です。フロントデザインのオラオラ感も抑えめで幅広いユーザーから人気を集める予感がします。
リアシートの「マルチユースフラップ」や安全装備の進化もトピック
走りに関しては搭載されている自然吸気エンジンが最新版に変更されたこと、そして操縦安定性や室内空間の静粛性、快適な乗り心地を実現させるために環状骨格構造や減衰接着材を使用していることが挙げられます。インテリアの注目点はリアシートにオットマンなどに使える「マルチユースフラップ」を採用したことでしょう。スズキ車で初めてミリ波レーダーと単眼カメラを組み合わせた衝突被害軽減ブレーキ「デュアルセンサーサポートII」が全車標準となり、アダプティブクルーズコントロール(ACC)にカーブ抑制機能、車線維持支援機能(LKA)も採用など安全装備にも多くのトピックがあります。
ライバルも認める「スズキは軽い!」
試乗は標準モデルのスペーシアハイブリッドX 2WD車から行いました。軽自動車最大級の室内空間を確保し、リア両側スライドドアなど快適装備が充実したスーパーハイトワゴンのスペーシア。試乗前にあらためてスペックを確認して驚いたのは、試乗したハイブリッドX2WD車の車両重量が880kgに抑えられていることです。N-BOXは910kgなので30kg差です。わずか30kgですが、エンジン出力に制限のある軽自動車では加速性能などに結構な差が生じます。N-BOXはホンダ独自のセンタータンクレイアウトを採用し低重心を実現していますが、そのために軽量化を最優先できない事情があります。
スペーシアは軽量・高剛性で定評のあるハーテクトと呼ばれるプラットフォームを採用。このシャシーの軽さはライバルメーカーも認めるところで、新型スペーシアも走行時の無駄な揺れや車内入ってくる騒音を抑えるために、環状骨格構造や減衰接着材を追加しているにもかかわらずライバルよりも軽く仕上がっているのはスゴイと改めて実感しました。
新型エンジンとマイルドハイブリッドは静かでスムーズ、そして好燃費
標準モデルは自然吸気エンジンのみ、新型のR06D型を搭載しています。さらに最高出力2.6ps、最大トルク40Nmを発生するモーターを組み合わせたスズキご自慢のマイルドハイブリッドシステムを採用。ブレーキ時に発生するエネルギーを回収し加速時などにはその電力でモーターを駆動させスムーズな走りと燃費改善に貢献します。
車両重量が重いスーパーハイトワゴンの自然吸気エンジン車は発進時にパワーを出すためにエンジンが高回転まで廻り、耳障りな音が発生しがちです。しかしスペーシアに搭載された新型エンジンは発生する音質が低いこともあって、それほど気になりません。またモーターによるアシストもあるので、それほどエンジン回転数を上げることなく、スムーズに流れに乗った走りが可能です。N-BOXに搭載されている自然吸気エンジンと比べると最高出力は低くなっていますが、エンジン音はスペーシアの方が抑えられています。モーターのアシストもあるのでスムーズな加速性能はもちろん、WLTCモード燃費は22.4km/LとこのクラスでNo.1を実現しています。
実は「レッグサポートモード」が最高に使える
軽スーパーハイトワゴンは多彩なシートアレンジが行えますが、その影響でリアシート座面の短いモデルが多く、長時間乗っていると少々疲れやすい傾向があります。これを解消するためにスペーシアが採用したのが「マルチユースフラップ」です。リアシートの座面に可動式のフラップを追加し、オットマンモードやレッグサポートモード、そして荷物ストッパーモードという3つのモードが選べます。
この「マルチユースフラップ」の花形機能はアルファードを思わせる(?)オットマンモードだと思っていましたが、実際に使うと座面延長したような効果があるレッグサポートモードの素晴らしさがわかりました。これならリアシートでの長距離移動も大丈夫です。天井にはスペーシア伝統のスリムサーキュレーターを装備しており、空調の面でもどのシートに座っても快適に移動することができます。
N-BOXに機能で差をつけた新しい運転支援
運転支援システムのデバイスを単眼カメラとミリ波レーダーに変更したことも良い結果が出ています。単眼カメラで車両前方の画像から物体の位置や走行車線の形状を把握、ミリ波レーダーは電波を長距離に照射し前方の物体までの距離を把握することができます。N-BOXは単眼カメラだけなので、スペーシアはより質の高い運転支援が行えます。実際に使用して最もスゴイと感じたのは、高速道路でアダプティブクルーズコントロールをONにして走行すると、カーブを認識し、手前で自動に減速してくれるカーブ速度抑制機能です。もう少し、ブレーキングが穏やかになってもらいたいですが、非常に便利な機能と言えます。ただ残念なのは、アダプティブクルーズコントロールがN-BOXは全車標準装備に対して、スペーシアは一部のグレードがオプションとなっていることです。
N-BOXと同等の静粛性を獲得したターボモデル
ターボエンジンを搭載したスペーシアカスタムハイブリッドXSターボは、15インチアルミホイールを装着していることもあり、より走行安定性が高まっています。またパワフルなターボエンジンには余裕があり、あまり高回転まで回ることが少ないので一段と車内の静粛性は高まっています。これなら長距離ドライブも疲れないでしょう。新型N-BOXも特にカスタムは静かな車でしたが新型スペーシアカスタムも全く見劣りしません。
試乗したカスタムハイブリッドXSターボは最上級グレードらしく運転席、助手席のシートヒーターに加えて、ステアリングヒーターまで付いていました。寒い冬の朝などには非常に効果のある装備でホスピタリティの高さも光ります。
カスタムの自然吸気エンジン搭載グレードがお買い得!
N-BOXは「軽自動車でもファーストカー」という開発陣の意欲を感じます。一方、スペーシアは先代までは「軽自動車はセカンドカー」というクルマ作りを感じました。しかし今回試乗した新型のスペーシア/スペーシアカスタムは、ファーストカーとしても十分満足できる仕上がりになっています。
スーパーハイトワゴンはカスタム系が人気なのですが、旧型のスペーシアは標準車が50%のシェアを占めていたそうです。カスタムのシェアを上げるために自然吸気エンジンを搭載したグレードの価格はかなり戦略的となっています。押し出し感を抑えつつ、存在感が増したスペーシアカスタム。自然吸気エンジンを搭載したハイブリッドXSがベストバイグレードだと感じました。N-BOXとの販売台数ほどの実力差はないと言えるでしょう。
※記事の内容は2023年12月時点の情報で制作しています。