◆ 野球ゲームの移り変わりから見るプロ野球史~第37回:アイラブベースボール
「愛称、ビッグ・エッグ。さて、それはどこ?」
答えはもちろん東京ドーム。これは懐かしのアーケードゲームが楽しめる筐体イーグレットツーミニのアーケードメモリーズVOL.2収録『ゆうゆのクイズでGO!GO!』(タイトー)での問題である。もちろん、“ゆうゆ”とは元ヤクルトのユウイチのことではなくタレントの岩井由紀子……という平成レトロネタは置いといて、91年から街のゲーセンで稼働していたクイズゲームで「ビッグ・エッグ」は、知ってそうで知らない人もいる絶妙のネタになっていたのだ。
ちなみに『ゆうゆのクイズでGO!GO!』には、全7000問が用意されており「スポーツ」ジャンルを選択すると運が良ければ野球クイズと遭遇できる。でも、もっとがっつりプロ野球クイズだけをやり込みたいんだよなあ……。そんな野球狂に紹介したいのが、『アイラブベースボール プロ野球をこよなく愛する人達へ』(サミー)である。2004(平成16)年7月29日発売という、あの球界再編騒動の真っ只中に世に出たPS2ソフトだが、パッケージには緊張感の欠片もない。
アニメ調トゥーンシェードで細部まで描かれるコミカルな選手たち、オープニングムービーは全12球団バージョン搭載で好きな球団だけ選んで再生可能……って予算をかけるところを間違っているんじゃと思わなくもないこだわりの数々。ド金髪で登場する中村紀洋(近鉄)とか、完全に酔っ払ってる赤ら顔風の下柳剛(阪神)ら特徴をとらえたキャラ描写は20年近く経った今見ても斬新だ。
投げる打つの基本ゲームシステムはシンプルで極めて普通。数分もプレイしたら慣れるだろう(外野の打球が跳ねすぎてエンタイトルツーベース多発という突っ込みどころもあるけど)。全600枚の野球カードがゲーム中にあって、例えば巨人のベテランサウスポー工藤公康からツーベースを放てば「40歳の意地」カードを入手というように、カードごとの条件をクリアしてコンプリートを目指す。ただ、個人的にはこの野球ゲームのウリはそこではなく、ズバ抜けたクイズモードの充実である。
◆ 変化球すぎるクイズが連発かと思えばガチめの野球クイズも…
説明書によると、なんと「クイズは1000問以上、覚えてもムダですよ」と強気のユーザーへの挑戦状。これこそ野球ファンが長年探し求めていたリアル野球クイズソフトなのかと、期待に胸を膨らませてプレイすると思いっきり度肝を抜かれる。
まず1回表裏の攻防。「オリックスの萩原淳選手の萩原から、まったく関係ありませんが俳優の萩原健一の愛称は何?」っていきなり野球と関係はない宣言の早押し四択問題をかまされ面食らっていると、「日本ハムの芝草宇宙選手の趣味は熱帯魚飼育。では89年レコード大賞「淋しい熱帯魚」のwinkで“しょうこ”といえば?」なんて強引すぎるこじつけ……じゃなくて変化球すぎるクイズが連発される。
かと思えば、「02年オフにFA宣言をしたセ・リーグの選手は何人?(答え:7人)」とか「2004西武ライオンズカレンダーの9月を飾っている選手は平尾・中島・上田選手と誰でしょうか?(答え:大島裕行選手)」というガチめの野球クイズもぶっこんでくるから油断ができない。えっと次は「巨人の高橋尚成選手の奥様の名前は?」って知ってたら怖いよ! いや、ここは当時の選手名鑑には、まだ家族の名前や年齢まで掲載されていた時代背景込みで楽しみたい。
他にも問題を紹介すると、「中日といえば名古屋、名古屋といったら東芝EMIから発売されていた名作「名古屋はええよ!やっとかめ」。ではこれの作詞作曲者は?」という問題の四択は、「山本正之、つボイノリオ、小田和正、みうらじゅん」。「阪神の関本健太郎選手の出身は奈良。奈良といったらシカ、シカといったら鹿せんべい。なんと実は鹿せんべいは登録商標。この鹿せんべいの主成分は?」で、四択は「トウモロコシ、米ぬか、きなこ、鹿エキス」ってナチュラルに程よく難しい。
一応、クイズに正解したらカードを1枚引き、「ヒット」や「二塁打」なら進塁し、「三振」や「アウト」のカードならカウントを取られ、3イニング制で得点を競うルールが存在するが、あまりの問題の多彩な変化球ぶりに圧倒されて得点経過どころではない。
◆ 万人ウケする名作ではないが制作側の“熱量”を感じる熱い野球ゲーム
2000年代前半のスター選手問題も豊富で、「阪神の金本知憲選手の誕生日が4月3日。声優の富永みーなと同じ誕生日ですが、彼女は03年現在TVサザエさんで何役の声?」とか、「巨人の上原浩治選手が投手に転向したのはいつ?」なんて絶妙なバランスの出題が続く。
近鉄のジェレミー・パウエルの出身地繋がりで、当時カリフォルニア州知事のシュワルツェネッガーに関連する映画問題もあったり、あの頃の渇いた空気感もしっかり味わえる。気がつけば、クイズモードばかり連続で遊んでいる中毒性の高さだ。
20年近く前に発売された本作は、令和5年12月現在、中古ゲームショップだと1000円以下。いや店によっては数百円のジャンクコーナーでも発見できるかもしれない。
年末年始のこの時期、家族や友人で集まったら遊ぶのは定番のニンテンドースイッチと見せかけて、懐かしのプレステ2を引っ張りだして野球クイズゲーム大会で盛り上がるのはいかがだろうか。……いやゴメン、盛り上がる保証は全然ない。間違っても万人ウケする名作でもなければ、クイズゲームとして完成度が高いわけでもないから。それでも、『アイラブベースボール プロ野球をこよなく愛する人達へ』には、作り手のこだわりがある。こだわりとは、とどのつまり制作側の“熱量”である。いつの時代も俺らは熱い野球ゲームをやりたいのだ。最後に本作から、もう一問紹介して終わりにしよう。
「近鉄の水口栄二選手の出身は愛媛県ということで、愛媛の松山祭りには平成元年から、新しい踊りとして「野球サンバ」なるものがあります。その「野球サンバ」の作曲者は誰でしょう?」
文=中溝康隆(なかみぞ・やすたか)