「1年間投げられたので良かったと思います」。
ロッテの種市篤暉は20年9月14日に横浜市内の病院でトミー・ジョン手術を受け、一軍本格復帰した今季は先発ローテーションの一員として23試合・136回2/3を投げ、シーズン自己最多の10勝7敗、リーグ2位の157奪三振、防御率3.42の成績で今季を終えた。
◆ 「「過去の自分の成績、技術を超えたい」
種市は19年にプロ初勝利を含む8勝を挙げ、翌20年7月25日にプロ初完封勝利を飾るなど、“エースへの階段”を登っていた中で、同年9月に右肘のトミー・ジョン手術を受けた。22年4月13日の巨人との二軍戦で実戦復帰し、同年8月11日のソフトバンク戦では740日ぶりに一軍登板を果たしたが、一軍登板はこの1試合のみだった。
「過去の自分の成績、技術を超えたいなと思っています。なので昔みたいな感覚に戻りたい、19年、20年みたいに戻りたいなというのは思っていないです」。
今季を迎えるにあたって種市は1月にアリゾナのドライブライン・ベースボールでトレーニングを積んだ。19年11月にもシアトルのドライブラインへ行き当時は動作解析でツーシームを取り入れたほうがいいのではないかと助言をもらっていたが、今回のアリゾナでのトレーニングでは「変化球を“たくさんこう握って、こう投げたほうがいいよ”というアドバイスをもらって、色々試しているところです。その中でフォークが一番よかったです」と明かした。
アリゾナで自主トレを行った後は、3年ぶりに鴻江寿治トレーナーが主宰する自主トレに参加。3年前の20年は「投げているなかで、このフォームだったら良いとか、この感じとかだったら悪いとかはわかりました」と当時話していたが、今回も「考え方は一緒ですけど、教えてもらうことは変わったので、新鮮というか色々聞けてよかったです」と振り返った。
石垣島春季キャンプでは「僕の中では野球のことだけを考えられている。動画とか見まくれているので、修正できている。その点については充実したキャンプになったと思います」と、24時間365日野球のことを考えられる種市らしく、野球漬けの日々を送った。
「本島でも抑えられるように頑張りたい」と2月14日の沖縄遠征以降も、2月26日の西武戦で4回・9奪三振、侍ジャパンのサポートメンバーとして先発した3月7日のオリックスとの強化試合では「貴重な経験をさせてもらいありがとうございました」と、4回・48球、0被安打、無失点の好投。マリーンズに戻ってからも3月19日の西武戦は53球中38球がストレート中心の投球で3回無失点、開幕前最後の登板となった3月25日の中日戦は一転して序盤からスライダー、フォークといった変化球も多投して5回・6安打・1失点にまとめ、シーズン開幕に向けた準備は整った。
◆ 復帰後初勝利
4月1日のソフトバンク戦で今季初先発し、4回・89球、4安打、10奪三振、1失点でマウンドを降り、続く4月9日の楽天戦で「単純に初勝利のソワソワ感はありましたけど、初勝利は一つの目標だったので単純に嬉しかった」と、打者1巡目は9人中7人に対して初球ボールと苦しんだが、4回以降はストライク先行の投球で、6回・95球、1安打、7奪三振、無失点で、トミー・ジョン手術後初勝利を手にした。
プロ初勝利を挙げた19年にプロ初勝利は“通過点”と語っていた男は、「今もそれも変わらないかなと思います。たった1勝なので満足することなく投げていければと思います」と3年ぶりの一軍勝利の余韻に浸ることはなかった。
初勝利という目標を達成した種市は「今の目標は完封したいというのが一番。完封して怪我したと言われていますけど、僕の中でそう思っていないので、リベンジしたいというか、完封して次の試合も抑えたいと思います」と次の目標に“完封勝利”を掲げた。
◆ 試合中の修正力
4月23日のソフトバンク戦は、初回に33球を投げるなど球数を要したが、1度も三塁ベースを踏ませなかった。ここが種市の凄さでもある。走者を出しても、2回で言えばガルビスを併殺打に打ち取ったり、3与四球だが先頭打者への四球は1度もなかった。先頭打者をきっちり打ち取っていたことで、失点に繋がらなかった。
「ストレートが安定しないと球数が多くなりますし、その中でスライダーとかを操れていたらもっと楽なピッチングができたんじゃないかなと思います」と反省したが、5回・103球、4安打、7奪三振、3与四球、無失点に抑え、今季2勝目を手にした。
種市の武器のひとつが、自身の課題を見つめ、試合中でも修正ができること。4月23日のソフトバンク戦でもそうだった。
「試合中にもっと敏感というか、嗅覚というか、イニングごとに“こうしよう”、“ああしよう”とイニング間のキャッチボールはやっているので、その中でなんとかしようと思っています。なんとかできていない部分が多いですけど、もうちょっと試合中に良くなれば。その中で、フォークは改善できたのは良かったです」。
4回以降フォークでの三振が増えた。フォークでの三振が多いのは、調子のバロメーターと見て良いのだろうかーー。
「そうですけど、フォークが良かったらいけるという感覚に近いので、4回にフォークの握りを変えたのは良かったのかなと思います」。
4回は先頭の牧原大成をストライクゾーンからボールゾーンに落ちる139キロのフォークで空振り三振、続く柳町達も138キロのフォークで空振り三振、最後はガルビスを141キロのフォークで空振り三振に仕留めると、続く5回も先頭の甲斐拓也を136キロのストライクゾーンのフォークで見逃し三振、二死一塁から柳田悠岐を144キロのフォークで空振り三振と、4回と5回の2イニングだけでフォークで5つの三振を奪った。試合中にフォークの握りを変え、そこで抑えきる種市の修正力の高さを示した。
4月30日のオリックス戦では、「試合中にフォームというか、グローブの使い方を変えたんですけど、テイクバックがスムーズにいくなということで、今も続けています」と、0-1の2回一死二、三塁で紅林弘太郎を迎えたところからグローブの使い方を変えた。
イニング間のキャッチボールで修正することのある種市だが、この時は「ゲーム中です。僕、普通に変えちゃうんで」と、試合中に変更を決断した。
グローブの使い方を変えたことで、ストレートの制球も安定。「ストレートが安定しないと球数が多くなりますし、その中でスライダーとかを操れていたらもっと楽なピッチングができたんじゃないかなと思います」。同日のオリックス戦で6回・97球、5月9日の西武戦は7回・95球、5月16日のオリックス戦は9回・109球とストレートが安定し、少ない球数で長いイニングを投げた。
5月16日のオリックス戦では、0-0の2回一死走者なしで右打者の頓宮裕真に、ツーシーム、シュート系の球で捕邪飛に打ち取った。 「あれはツーシームです。相性が悪いのがわかっていたので、インコースに突っ込もうかなと思ってインコースのツーシームを多めにしました」。16日の対戦前までは、5打数4安打と打ち込まれていた“頓宮対策”の一環として、ツーシームを投じた。ちなみにツーシームは「その試合から投げ始めました」と16日のオリックス戦から使い始め、今後も「真っ直ぐの感覚が悪くならなかったら、そのままいこうかなと思います」と、ストレートに影響が出なければ投げていく方針を示していた。
◆ 柿の種バッテリー復活
6月3日の阪神戦の2回以降ストレートでの空振りが増え、0-3の4回一死走者なしで森下に1ボール2ストライクから空振り三振を奪った4球目の148キロストレートはかなり強かった。
種市は「各球団フォークのマークが強くなっているので、逆にもうちょい真っ直ぐを増やそうかなという意識で今投げています」と明かした。
ノイジー(阪神)、大山悠輔(阪神)、ビシエド(中日)、細川成也(中日)、野村佑希(日本ハム)といった右の強打者に対してはインコースのストレートで徹底的に攻めていた印象だ。6月23日の日本ハム戦、0-1の初回二死一、二塁で野村に対して初球150キロストレート見逃し、2球目の151キロストレートファウル、1ボール2ストライクから4球目の151キロ空振り三振のストレートはいずれもインコース。“徹底的にインコース”を攻めて、打ち取った。「強打者はインコースを使わないと抑えられないと思っているので、踏み込ませないように投げています」。
開幕から佐藤都志也とバッテリーを組んできたが、7月1日の楽天戦から19年に柿の種バッテリーで話題を呼び、プロ初完封をマークした時もバッテリーを組んだ柿沼友哉が先発マスクを被るようになり、さらに勢いは加速した。
一軍の公式戦では20年8月1日の楽天戦以来となるバッテリーになったが、“相性”は変わらず抜群だった。7回・105球、4安打、7奪三振、3四死球、2失点で今季5勝目。柿沼は「種市自身、本調子じゃなかったと思うんですけど、その中でお互い話しながら修正できるようにというふうにできたので、そこは良かったと思います」と振り返った。
7月5日に吉報が届く。「学生の頃、3年連続でオールスターを見ていたので、個人的にも出たいです」と出場に意欲を燃やしていた『マイナビオールスターゲーム2023』に監督選抜で初出場が決まった。「去年の今頃、ファームでもようやく投げられているくらいだったので、想像できなかったですけど嬉しい」と喜びながらも、「いろんな選手の球種を聞きたいと思いますし、いろんな話を吸収できればなと思います。ノートはもちろん行ってきますけど。ノート書きながら質問していたらキモイやつかなと思われるので」と心配したが、貪欲に学ぶ姿勢を見せた。
オールスター初出場が決まった後、初めての先発となった7月9日の日本ハム戦も7回・トミー・ジョン手術後最多となる123球、7安打、19年8月11日の西武戦以来となる1試合自己最多タイの12奪三振、2失点で6勝目。
柿沼は「もともと手術する前から責任感ではないですけど、投げたときに勝ちたいという気持ちが伝わっていたんですけど、それは手術してなお強くなったなと。長いイニングを投げたいというか、自分の責任感、意志は感じていますね」と手術前との変化を実感。柿沼自身も種市の良さを引き出すために「種市自身、色々考えて投げられるので、種市の考えを聞きながらお互いにいいものを出せたらなと思っていますけど、引っ張っていくというよりはしっかり考えられるピッチャーなので、そこはお互い考えを出しながらという感じですね」と話した。
◆ 戻ってきたスライダー
種市は「スライダーはよくなってきました。ゲームでもカウントでもフォークを意識しているバッターにスライダーを投げていたりしています」と、この時期スライダーに一定の手応えをつかんだ。
柿沼も「スライダーはもちろん昔から僕は良いなと思っていたので、どうしてもフォークが多くなりがちですけど、スライダーを使いながら。気をつけているわけじゃないですけど、良いボールなので使っていこうと思ってサインを出していますね」と評価。
“スライダー”が良くなってきたと話す種市だが、春先はスライダーで悩んでいた。「スライダーは今シーズン、去年もずっと良くないので、今試行錯誤しています。データを見ながら、ブルペンもちゃんとトラックマン使って、握り一つ一つ確認しながら。結局は、打ち取れればいいんじゃないかなと思います」。(4月15日取材)
3月25日の中日とのオープン戦では、「あれは握りを変えていますけど、コントロールできていなかった。ただ単純に握りを変えただけです」と、0-0の初回無死走者なしで福元悠真に0ボール2ストライクからの3球目、0-0の初回二死走者なしで細川成也に1ボールからの2球目など、この日は横に曲がるスライダーではなく、カーブのような軌道のスライダーを多く投げていた。
また、種市は4月15日の取材で、「スライダーでカウントを取れないと長いイニングを投げられないというのはわかっている。そこが一番かなと思います。スライダーで三振が取れたら一番良いんですけど、決め球に使うほど、キレも変化球もないので、もうちょっと考えないと。2019年のスライダーが一番よかったんですけど、それよりもいいボールを投げられたらいいなと思っています」と試行錯誤。
4月27日に行った取材でも「また握りを変えようかなと思っています。意識も変えますけど、悪いことを続けていると意味がないなと思うので。ずっとスライダーが悪いですけど、どんどん変えていく気持ちで投げていけたらいいなと思います」とし、無失点も5回・103球で降板した4月23日のソフトバンク戦の投球に「ストレートが安定しないと球数が多くなりますし、その中でスライダーとかを操れていたらもっと楽なピッチングができたんじゃないかなと思います」と反省していた。
5月9日の西武戦では1-0の初回二死走者なしで外崎修汰を空振り三振に仕留めた縦スライダーは良い落ちを見せ、5月16日のオリックス戦でも1-1の5回無死走者なしで頓宮裕真を134キロ縦スライダーで空振り三振を奪ったが、5月23日の取材で種市は「スライダーは今日も練習しましたけど、課題はいっぱいありますね」と、納得がいっていなかった。「自分の曲がり幅が小さいので、もうちょっとスライダーのスピードを上げたいなと思って練習しています」。
試行錯誤していたスライダーだが、5月27日のソフトバンク戦では、0-0の2回無死一塁で栗原陵矢をスライダーで空振り三振、0-0の2回一死一塁で牧原大成を縦スライダーで空振り三振、1-0の3回先頭の川瀬晃をスライダーで二ゴロ、1-0の3回二死一、三塁で近藤健介をスライダーで左飛に仕留めるなど、試合序盤決め球にスライダーを多く使っていた。
交流戦明けからオールスター前までの4試合で33個の三振を奪っているが、ストレート18奪三振、スライダー(縦スライダーを含む)9奪三振、フォーク6奪三振と、数字を見てもわかるようにスライダーでの奪三振が増えた。
◆ 試行錯誤
「2日間だったですけど、1週間くらいに感じました」と7月20日のオールスター第2戦、3-0の4回に登板し、1イニングをわずか6球、オールストレートで三者凡退に抑え、充実の時間になった。
オールスター明け最初のマウンドは、7月28日のソフトバンク戦。それも3連戦の初戦、カード頭での登板だった。普段は130キロ台前半が多いスライダーだが、この日は甲斐拓也から138キロの縦スライダーで空振り三振に仕留めるなど、130キロ台後半のスライダーが多かった。種市自身も「スライダーは速くなったと思います」と話した。
「もうちょっとスライダーのスピードを上げたいなと思って練習しています」と話しており、オールスターで速いスライダーの握り方などを含めて、アドバイスをもらったのか訊いてみると、「そういうわけではないですね。単純に自分でストレートの軌道で投げたいというだけで投げていますね」。オールスターは特に関係なく、日々の練習の中で、速いスライダーが投げられるようになった。
この時期気になったのが、追い込んでから縦のスライダーが多いこと、そして早いカウントでも縦のスライダーを投げていたこと。
早いカウントで投げる縦のスライダーに関して「そんなに縦に落ちていないんですけど、球速が速いぶんちょっと真っ直ぐに見えているのかなという感覚で、空振りしてくれているのかなと思います」と自己分析。
同日のソフトバンク戦では、5奪三振中3奪三振が縦のスライダーで、7月は30奪三振中、ストレートの16奪三振に次いで2番目に多い10奪三振と、追い込んでからスライダーを決め球にするケースが増えた。
「もうちょっとどっちかに曲がり幅を出したいかなというのがあります。今も空振りは取れていますけど、ウイニングショットでも使えるくらいの変化量を出していければいいかなと思います」。さらにスライダーを進化させるつもりだ。
その一方で、追い込んでから自身の最大の武器であるフォークが少なくなっていた。特に同日のソフトバンク戦では、4回と5回はフォークを1球も投げなかった。
「(3回に)近藤さんにホームランを打たれてから考えないとなと、思っていました。映像を見たらそんなに落ちてないというわけじゃなかったので、もうちょっと映像を見て、うまく使っていけたらいいかなと思います」。
そのフォークも、追い込んでからストライクゾーンからボールゾーンにストンと落ちるフォークではなく、この時期はストライクゾーンからストライクゾーンのフォークが多かった。
「それが良くない原因かなと思っています。カウントは別に(ストライクゾーンのフォークで)いいと思うんですけど、2ストライクになってからフォークをマークしているバッターには、ゾーン内でのフォークはあんまり良くない。できるだけワンバウンドで低めに空振りが取れたらいいかなと思います」。
自信を持ってフォークを投げられているのだろうかーー。
「2ストライクになってからう〜んという感じなので、今日(8月1日)も練習しましたけど、はい」。多くは語らなかったが、より良いフォークを投げるために改良し、試行錯誤しているように感じた。
ストレートは「感触は前回の試合も良かったですし、データを見ても球速も出ているので続けていきたい」と良い球を継続して投げており、開幕から納得のいくボールを投げられなかったスライダーも決め球で使えるようになった。ツーシームも同日のソフトバンク戦で「3球くらい投げていました」と話し、決め球のフォークがしっかりとボールゾーンに落とせればというところだった。
「あの頃(2019年)もバテていた印象がないので、ここからもっと長いイニング、8月は6連戦が続くので、中継ぎを助けられるくらい長いイニングを投げたいと思いますし、だいぶ僕も今シーズン中継ぎの人に助けてもらっているので、きつい時に助けられるように僕も頑張りたいと思います」と決意し、勝負の8月に突入した。
◆ 連敗を止める男
8月最初の登板となった4日の楽天戦、6回・95球、4安打、4奪三振、2四球、3失点で8勝目を手にすると、「中5日となりますが、やる事は変わらないのでしっかり準備して、自分の投球をして、チームの勝利に貢献できるように頑張ります」と、首位・オリックスとの“首位攻防3連戦”は2戦目を終えてロッテが2連敗。首位・オリックスとのゲーム差は今季最大の7に広げられていた中で、8月9日のオリックス戦でプロ入り後初めて中5日で先発。
チームも4連敗中と苦しい戦いが続く中、中5日でのマウンドとなった種市は初回をテンポ良く11球で三者凡退に抑える。
2回は一死一、二塁と得点圏に走者を背負ったが、セデーニョに粘られながらも11球目の138キロのストライクゾーンからストライクゾーンのフォークで空振り三振、続く野口智哉には1ボール2ストライクから149キロストレートで見逃し三振で、ピンチを脱した。
0-0の3回にブロッソ―の2ランで先制点をもらった種市は4回、5回は危なげない投球でスコアボードに0を刻む。特に8番から始まる5回は140キロ台前半のツーシームで内野ゴロに打たせ、わずか5球にまとめた。
6回、7回は先頭打者に安打を許したが、6回は苦手にしている頓宮裕真を遊ゴロ併殺、7回はセデーニョを2打席追い込んでからフォークで打ち取っていたが、2ストライクから147キロのストレートで見逃し三振、野口を投ゴロ、若月を遊ゴロに打ち取った。
チームが4連敗中全て先制点を許す展開だった中で、種市は2回のピンチを0で切り抜け、2回に30球を要したが3回以降は全てのイニング20球以内にまとめるなど、修正力の高さが光り、シーズン自己最多の9勝目を挙げた。
自身初となる二桁勝利がかかった8月18日の楽天戦は、初回に先頭の辰己涼介にセンター前に運ばれたが後続を抑え無失点で切り抜けると、2回以降は力強いストレート、右打者には効果的にツーシームを使い、スコアボードに0を並べていく。2-0の6回先頭の辰己に2ボール2ストライクから空振り三振に仕留めたインコース148キロストレート、4-0の7回二死走者なしで岡島豪郎を3ボール2ストライクから見逃し三振に仕留めたインコース148キロストレートは非常に素晴らしかった。
4-0の8回に二死一、三塁から小深田大翔にセカンドの適時内野安打で1点を返され、さらにセカンド・中村奨吾の悪送球の間に一塁走者・辰己を三塁に進めてしまったが、味方の守備を助けるのも種市の役割。今季打ち込まれていた小郷裕哉を左飛でピンチを脱し、最少失点で切り抜けた。最終回は守護神・益田直也が締めて、種市にとっては嬉しい10勝目を手にした。
この二桁勝利に種市の新人時代、ファームで投手コーチを務め現在は一軍投手コーチを担当する小野晋吾コーチは「僕の一つの目標じゃないですけど、彼が入ってきた時からなんとか一軍でまず一軍選手になることと、10勝、勝てるピッチャーにしたいという思いがあったので、そこはクリアしてくれたなと思います」と胸を撫で下ろした。
チームが4連敗中で中5日の先発で勝利し、自身初の二桁勝利も1試合目の登板、さらにチームの3連敗を止めた。19年に夏場以降勝ち星を積み重ねたことを考えれば、今季も二桁勝利を通過点に白星を伸ばしていくと思われたが…。
◆ 勝てなかった9月
結論から言うと、二桁勝利を挙げた8月18日の楽天戦を最後に、白星を挙げることができなかった。
7月以降種市と最もバッテリーを組んだ柿沼はシーズン終了後に「種市自身いいピッチングができても最後、追いつかれてというケースもあった。全部が良くなかったわけではないんですけど、種市に勝ちがつけられなかったというのは、自分自身の責任じゃないですけど、そういうのは感じましたね」と悔しがった。
種市はストレートについて「シーズン序盤よりアベレージが上がってきているので、真っ直ぐの感覚は良くはなってきています」と、8月25日のオリックス戦で自己最速の155キロを計測するなど、9月2日の楽天戦で最速152キロ、9月13日の楽天戦で最速151キロ、9月21日のソフトバンク戦で最速152キロとコンスタントに150キロを記録した。
最大の武器であるフォークも、縦スライダーよりも奪三振が少なかった時期(7月:フォーク4奪三振、縦スライダー7奪三振)もあったが、9月2日の楽天戦では7奪三振中4奪三振をフォークで奪うなど、ストライクゾーンからボールゾーンで空振りを奪った。
「最近は特に、良くなってきています。シーズン序盤がフォークは良かった。その感覚をノートに書いているので、それを読んで戻しています」と話し、 「元々最初あれぐらい狭かったので戻したという感じです」と握りも浅めに戻した。プロ1年目からつける野球日記が種市の投球を支えるひとつになっている。
ストライクゾーンに投げるカウント球のフォークに関しては「フッと浮いちゃうので打者にはわかりやすい軌道になっちゃっているのかなと。そこも今修正しています」と教えてくれた。
スライダーも、9月2日の楽天戦、4回に浅村栄斗に対していつもより曲がりの小さいスライダーで遊ゴロに打ち取ったりするなど、曲がりがいつもより小さく速い球を投げているように見えた。
キャッチャーの柿沼に確認すると「あの試合はスライダーを種市もいつもより速く投げるイメージで投げていました。僕も小さいなと思って、ベンチ裏に行って確認すると、ちょっと速いイメージで投げましたと言っていました」と話していたが、種市本人は「あんまり最近曲がっていない。スピードを出しにいきたいなと思って投げた中で、変化が小さくなっています。そこが今、今日(9月25日)もすごく練習したんですけど、そこは僕の課題かなと思います」と説明。
小さく速いスライダーよりも、大きいスライダーの方が良いのだろうかーー。
「そんなことないですけど、真っ直ぐ待っているバッターに速いカット気味のスライダーを投げたら、あっちゃう可能性が高いので、そこをもうちょいなんとかしたいなと思います。左のインコースとかにはいいと思うんですけど、という感じですかね」。
9月28日の日本ハム戦、3回2/3・80球を投げ、11安打、4奪三振、8失点で降板し、9月30日に一軍登録を抹消。10月21日のオリックスとのCSファイナルステージ第4戦で復帰し、3回・54球、2安打、4奪三振、1四球、2失点で今季の投球を終えた。
◆ シーズン後の振り返り
1年間投げられた要因に種市は「コンディショニングが一番良かったんじゃないかなと思います」と話し、「体の感じは2019年より全然楽でしたね。19年の方がもうちょっと満身創痍だったというか、シーズン終盤体がバキバキだったので、それは(今年)なかったですね。終盤抜けましたけど、それまでは全く肘の問題もなかったので、そこに関しては肩肘は問題なくこれた。ただ体力的に落ちてたなというのがあります。後半、ウエイトとかキツくなっていたので、もうちょっとシーズンオフに貯金を作っていたら良かったなと思います」と振り返った。
今年はシーズン通してストレートが良く、夏前まではフォークが良く、7月は縦スライダーでの奪三振が増え、8月後半はツーシームで打たせてとる投球など、今季はいろいろな顔を持っていた。
「安定して変化量も出せたら良いんですけど、その日によってフォークは違ったりするので、その中で変わりになる球種をもうちょっと作っていかないといけないなと思いましたね。最終戦のスライダーはすごく良かったなと思います」。
「森さんにホームラン打たれてから、それまで1球もスライダーを投げていなかったので、ホームラン打たれてからセデーニョにスライダーを4球、5球続けたのがすごい感覚が良くて、映像、データを見ても理想というか、もう少し速ければ良いんですけど、変化量の理想は出されていたので、スライダーの感覚はしっかりノートに書いて来年も続けて行こうかなと思います」。
規定投球回に届かなかったが、奪三振はリーグ2位の157奪三振。
「2ストライクまでの追い込み方が個人的には問題だと思っているので、1年間の初球のストライク率を見ても初球はストライクが取れている。そこからの問題かなと。打たれたくないぶん、1ストライクとったぶん、心の余裕ができてコース狙いすぎて、ボール、ボールが良くないと思ったので、そこかなと個人的には思います。ただ単純にそこに投げ切るコントロール、技術がないのでその技術を来年身につけられるように、体から見直して、キャンプまでに色々練習して行きたいと思います」。
来季は「1年間投げ切るのはそうですけど、僕の中ではイニングを食えるピッチャーになりたいので、抹消とかせず180イニングを最低でも行きたいと思っています」と決意。1年間戦う体力をつけるためオフは、その貯金を作るためトレーニングを積む。来季こそシーズン通して、ワクワクするストレート、落差の大きいフォーク、縦、横のスライダー、“エース”にふさわしい投球を見せてほしい。種市ならできる。
取材・文=岩下雄太