2022年の高校生RAP選手権に出場。まるでショーを見ているかのような、エンターテインメント性豊かなラップバトルで一躍時の人となった#KTちゃん。現在19歳と、FJD(ファースト・女子大生)な彼女だが、その物怖じしない堂々とした姿勢で、数々のラッパーや観客の度肝を抜いてきた。
そんな#KTちゃんが本格的に楽曲制作を始めたのが今年2023年。シングル「BaNe BaNe」のMVはYouTubeにて100万回再生を超え、バトルのときとはまた一味違う不思議な魅力を放ち、まさに勢いに乗る彼女とコラボレーションするのが、ヒットメーカーであり、DJやTikTokとマルチに活動するDJ CHARIだ。全く毛色の違う二人に思えるが、一体どんな楽曲ができあがったのだろう。このインタビューでは、二人の出会いから、楽曲制作時のエピソードなどを紐解いた。
ー まず「#KTちゃん」さんはさん付けした方が良いのでしょうか……?
#KTちゃん:#KTちゃんでいいですよ!(笑)
ー ありがとうございます(笑)。今回は#KTちゃんとDJ CHARIさんのダブルインタビューということで、お二人はもともと知り合いだったんですか?
DJ CHARI:いや、違いますね。凱旋MC battleで初めて一緒になって。
#KTちゃん:東京ガーデンシアターではじめましてで。そこから仲良くさせていただいてます。
ー あのバトルおもしろかったですね。どうでしたか?
DJ CHARI:今年、一番緊張しました。でも言ってみればハードなラッパーもいるじゃないですか。自分がそういう相手と戦ってもボコボコにやられるだけだなと思って。#KTちゃんとの対戦だったからこそ、どうにかエンターテインメントに昇華できたと思います。
#KTちゃん:あの1万人近く入る大きな会場でほぼ初舞台ってすごいと思う。しかもMCバトルって殺伐とした空気の試合が多いけど、CHARIさんとのステージは、お客さんも含めて今までにないくらいほんわかした雰囲気でした。でもCHARIさん、バトル前のDJタイムではDJもしていて、「応援お願いします〜」ってお客さんを湧かせてからすぐ試合だったので、それはめっちゃハンデだったかも。(笑)
DJ CHARI:ちょっとズルしました。(笑)
ー でも初めてだし、前に出て堂々とラップできるだけですごいですよね。
DJ CHARI:実は、元々は自分もラッパーになりたいっていうのがあって、高校生のときにステージは一応立ってるんです。でもそのときは頭が真っ白になっちゃって、2回とも何も言えなくて。今回は大きな舞台でその時のリベンジを果たせました。
ー そうだったんですね。ちなみに今回のラップはその場で考えたんですか?
DJ CHARI:ある程度は決めていきました。周りにいる友だちにも相談したんですけど、全部暗記していくと、お前たぶん全部飛ぶぞって言われて(笑)。言いたいことはだいたい決めておいて、あとの間は相手の言ったことに返していくスタイルでした。
ー 的確なアドバイスですね。CHARIさんのまわりには強力な仲間がいっぱいいるから頼もしいですね。
DJ CHARI:でも本当に、ラップの練習とかRy-laxくんにしてもらったんですよ。結局あんまり活かせなかった気がしますけど、おもしろい試合になったんじゃないかと思います。直前まで勝つ気満々だったんですけどね。「BeeBet」っていう、MCバトルの勝敗に賭けられるサイトがあるんですけど、自分は自分にフルで賭けました(笑)。でも前日に、最後に#KTちゃんのバトルをみんなで予習してたら、「これ、強いよな……? 手強そうだよな……」って話になって。しかも1回戦勝ったとしても次が漢さんだったのでムリだな、と。その後#KTちゃんがバトルしてるのを上から見て思いました。(笑)
ー #KTちゃん、漢さんとも戦ってましたね。それにしても本当にメンタルが強いですよね。いろんなバトルを拝見してびっくりしました。
#KTちゃん:なんかステージに出た瞬間に、「私を見て!」「この場を一緒に楽しんで!」みたいな気持ちのスイッチが入って。相手からすごいディスられるときも、それによってお客さんが盛り上がってるのを見て、自分もテンションが上がるというか。「すごい! このディスでここまでお客さんのことを盛り上げられる対戦相手最高!」みたいになりますね。真剣に向き合いつつも、楽しみながらバトルさせてもらってます。
ー #KTちゃんはバトルに対して結構、客観的に捉えてるんですね。とにかく負けたくない、とか、ディスられてムカつく、ではなく、お客さんの盛り上がりを大事にしているような。
#KTちゃん:DOTAMAさんっていうラッパーの方がいて、私は「たまちゃん」って呼んでるんですけど、たまちゃんと戦ったときにすっごいド下ネタを言われて、そのときだけ「なんてひどい下ネタを言うんだ」って思いました。でもそれ以外は、お客さんがバチバチに湧いて楽しいなっていう気持ちの方が勝ちますね。
ー そのDOTAMAさんとのバトル見たんですけど、こんなこと言われて傷つかないのか心配になっちゃいました。
#KTちゃん:友達にもよく心配されます(笑)。
ー #KTちゃんは、今後バトルで勝ちたい!と思ったりはするんですか?
#KTちゃん:それこそCHARIさんに勝ったときが、お客さんが入ってる現場でのバトルは初勝利だったんです。CHARIさんはずっとDJを本業でやってこられてる方だから、ここはラッパーとして勝たないといけない試合だなっていうのがあったんですけど。次こそはラッパーの方にも勝って、次のステージにどんどん駆け上がれるようになれたらいいなって思います。
Photo by Kentaro Kambe
「東京ブギウギ」からの引用
ー この調子でお客さんも巻き込んで勝ちたいですね。CHARIさんと#KTちゃんといえば、#KTちゃんの3rd Digital Single「MERA MERA feat. DJ CHARI」でコラボしてますが、一緒に曲を作るきっかけになったのは、今話してもらったバトルだったんですか?
#KTちゃん:はい。私から、楽屋で仲良くなったあとに、一緒に曲やりませんかっていうことでお誘いして。
ー #KTちゃんから誘ったんですね。曲には「東京ブギウギ」が大胆にサンプリングされていましたね。
#KTちゃん:そうですね。10月から始まった、笠置シヅ子さんがモデルになってる朝ドラ(『ブギウギ』)を見て、興味を持っていろいろ調べてみたんですよ。彼女は戦後の暗いムードの中で、明るい曲を歌い続けて、ポジティブなエネルギーをお客さんに届け続けた方で。その姿が、すごいヒップホップだなって感じて。私自身もヒップホップの世界で明るいラップをずっと貫き続けてきたところがあったので、勝手ながらちょっと重なるというか、似た部分を感じたんです。
CHARIさんと曲を作ることはもう決まってたんで、笠置さんのことをCHARIさんにご相談して。そうしたら、「チャレンジ」っていうテーマで、今回は曲を作っていこうということが決まり、今回の「MERA MERA」ができました。
ー 確かに、バトルの中でもとにかく楽しい空間を作り上げようとする#KTちゃんと笠置さんは少し重なる部分がありますね。CHARIさんは笠置さんのことをご存知でしたか?
DJ CHARI:存じ上げなかったんですけど、「東京ブギウギ」は知ってました。CMでよく使われてるやつだ、と思って。今回それをサンプリングして曲で使えることになったので、1回「東京ブギウギ」をサンプリングしたビートを作ってみました。それでどんなものになるか、二人で相談して決めようっていう感じでしたね。
ー ちょっとレトロな感じがありつつ、めちゃくちゃ重くて太いベースが入ってきておもしろかったです。
#KTちゃん:レトロで明るい「東京ブギウギ」から入って、ヒップホップの方に世界が広がっていく感じのコントラストがいいですよね。
ー CHARIさんは#KTちゃんと曲を作るにあたって、ビートのこだわったポイントってありますか?
DJ CHARI:なんていうんですかね。重くするっていうより、ヒップホップの良さを残しつつ、うまく#KTちゃんと融合できたらなって。
ー ビートだけ聴いても#KTちゃんっぽさを感じるような、ポップさがありました。
DJ CHARI:ポップですね。でも、ヒップホップを好きな人が聴いてもかっこいいと思えるようなバランスを心がけました。
#KTちゃん:そうなんですよ。私自身もここまで重低音が効いてる、ヒップホップって感じのトラックに挑戦するのは初めてだったので。最初にこのトラックをいただいたときに、「このビートに私の声を、ラップを乗せていくんだ!」っていうワクワクするような、新鮮な気持ちで曲を作れました。
DJ CHARI:自分もこれ作ったときに、どうやってこのビートに#KTちゃんは乗るんだろうって、想像できなかったですね。(笑)でも1回ラフをぱぱっと送ってくれたときに、かっこよく乗ったのが返ってきて。
ー 乗りこなしてたんですね。先ほど曲のテーマを”チャレンジ”にしたって話してましたけど、リリックはどうやって書き進めていったんですか?
#KTちゃん:そもそもチャレンジっていうテーマを決めたときに、チャレンジするには「強さ」も必要だと思って。その「強さ」って何だろうと考えたときに、自分にとっては笠置さんみたいに、ポジティブなエネルギーを与え続けることだと思って。あとは、自分が弱さだって思ったものが、逆に強さになることもあると思ったり。いろいろな「強さ」に対して向き合って、リリックを作っていきましたね。
特に、フック前の部分が気に入ってて。”挑戦は100か0か 人生に刻み込む一歩”のところが、もうやるかやらないか迷ったときに「やる」っていう選択をして、自分の人生の歴史に1ページを刻み込むっていう決心というか、メラメラしてくフックに向かって助走をつけていくみたいなところが、自分の中でお気に入りポイントですね。自分を鼓舞できるようなリリックになったかと思います。
ー強さ、なるほど。CHARIさんは出来上がった曲を聴いてみてどうでしたか?
DJ CHARI:チャレンジっていうテーマがまずしっくりきましたね。#KTちゃんにも合ってるし、個人的には、自分のチームも今年はいろんなことに挑戦する年だったんですよ。それこそラップバトルもそうですし、野外で自分のワンマンライブをしたり、ハワイでトライアスロンに出場してみたり。そういう意味でも、自分にも合ってる曲ができたな、と思いました。
Photo by Kentaro Kambe
心の「やるぞ!」スイッチ
ー 確かに、CHARIさんはユニークな動きが多かったですね。ちなみに#KTちゃんに素朴な質問なのですが、前作の「BaNe BaNe」に続いて「MERA MERA」ですけど、なにかタイトリングにこだわりがあるんですか?
#KTちゃん:私、リリックを書くときに、擬音が頭の中にすごい思い浮かぶんですよ。例えば「BaNe BaNe」でもリリックの中に「にゅ〜」とか、「ぱにゃぱにゃ」とか出てくるんですけど。言われたら、何となくイメージができるみたいな言葉。「BaNe BaNe」も高い壁を乗り越えるバネみたいに、「バネバネ ビョーーン♪」って感じで、どんどん連想していきながらリリックを書いていくので、その中でその自分がこれだって思った擬音や言葉遊びのワードチョイスが個人的に好きで、よく使ってます。
ー あんまりそういうラッパーいないので、おもしろいですね。
DJ CHARI:いや、いないですよね。オリジナル。
ー そういえば#KTちゃんはよく聴く他のラッパーっているんですか?
#KTちゃん:すごい好きで聴いてるのは、OZworldさん。独自の世界観があって、それを曲の中で、100%再現してて。聴いている人が入り込む、引き込まれる力みたいなものを感じます。世界観こそ違うかもしれないけど、「#KTちゃんだからこそできる世界観」を私も確立していきたいと思いますね。
ー CHARIさんと一緒に曲を作ってみて、どんな経験になりましたか?
#KTちゃん:「BaNe BaNe」のときにラッパーとコラボをさせていただく機会はあったんですけど、それとはまた全然感覚が違いました。自分だけの価値観じゃない、CHARIさんの客観的な目線が自分の中では新鮮だったというか、こういう乗り方もあるんだな〜って、新しい発見もありながら一緒に作れて楽しかったです。
ー CHARIさんは#KTちゃんと一緒に曲を作ってみて、どんなところを魅力に感じました?
DJ CHARI:やっぱり、堂々とした立ち振る舞いですかね。レコーディングに入ってるときも、なんの迷いもなく録るんですよ。若い子でも、パートごとに小分けにしてRECする人って多いじゃないですか。でも#KTちゃんはバーっと一気に録るから、その時のノリもしっかり曲に反映されるというか。
ーそこはフリースタイルバトルで培った感覚みたいなのがあるんですかね……?
#KTちゃん:なんだろう。心の「やるぞ!」っていうスイッチは結構あるかもしれない。
DJ CHARI:あ〜。でもそれは感じました。どんなときでも諦めないというか(笑)。「やるんだったらやる!」っていう気合がありますよね。「とりあえずやってみよう」に100%を掛けられるみたいなエネルギーがあると思います。
ー そこはバトルを見ていても思いますけど、圧倒的な強みですよね。#KTちゃんはバトルに加え、楽曲制作も始めて、自分の中で大切にしている軸って何かありますか?
#KTちゃん:ソロデビューをしたのはバトルに出た後だったんですけど、その前からリリックは書いていて。なので自分としては、元々アーティストとしてラップをしていきたいっていうふうに思っている中で、バトルに出会ったっていう流れだったんですよ。
ー そうだったんですね。てっきりラップバトルから入ったのかと思っていました……。
#KTちゃん:バトルでも楽曲でもファンタジーな世界観というか、明るい楽しいラップを届けたいっていうことは、自分の中では一貫していて。そこは変わらない軸があります。
<INFORMATION>
「MERA MERA feat. DJ CHARI」
#KTちゃん
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