ベントレー・オーナーたちに「一生記憶に残るロードトリップを体験する機会」を提供するため、ウェルビーイング、建築、トラベル、ミュージックという4つのパッションポイント(=顧客欲求)に沿って企画されるエクストラオーディナリー・ジャーニー、類い稀なる旅。『オクタン日本版』ではすでに詳報のとおりだが、この特別な旅のプログラムを自動車ジャーナリスト、佐藤久実さんに体験いただいた。
【画像】ビスポークで作られた宿「軽井沢ししいわハウス」でウェルビーイングを体験(写真11点)
都内の待ち合わせ場所に、「ベントレーフライングスパーS」が姿を現した。街中で見ると、やっぱり別格の存在感だ。伸びやかなスタイリングが美しい、正統派のラグジュアリーセダン。ブルークリスタルのボディカラーも美しい。一方で、フロントグリルやホイールなどブラックのエクステリアディテールが「フライングスパー」との明らかな差別化を図っていることが見てとれる。
運転席から編集長の堀江史朗さんが降り立つ。いつもの取材ならば、ここでドライバーチェンジしてステアリングを握る。ところが。「エクストラオーディナリー・ジャーニーなので、とりあえずリアシートにどうぞ」と言われた。さすが編集長。恐縮しつつも遠慮なくリアシートに収まり、一路、軽井沢へ。
フライングスパーは、ベントレーラインナップ唯一のセダンモデルだ。広くて快適な室内空間。ドライバーとはやや距離があるものの、静粛性も高いから会話も弾む。ドライバー目線でこの車の秀逸さはすでに知っていたが、どんな路面でもパッセンジャーを不快にさせないボディコントロールやフットワークには、改めて恐れ入った。ありとあらゆる電子制御が駆使されるが、まったく違和感のない、自然な動きでリラックスできる。何の不満もなく、実にエクスクルーシブな移動時間を過ごさせてもらった。でも、超快適なサルーンだけど、やっぱり「S」はタダものではない雰囲気がプンプンしており、ドライバーズカーなのだということも実感。
というわけで、途中でドライバーチェンジ。4リッターV8エンジンが有する550ps/770Nmというあきれるほどのハイパフォーマンスも、高速クルージングでは”ゆとり”ある走りのためにチューニングされており、牙を剥くことはない。スポーツモードでちょっと多めにアクセルを開けるとスポーツエグゾーストによるサウンドを奏で、特別なモデルであることをアピールするくらいだ。都内から軽井沢まで、流れがスムーズなら2時間半の距離。途中、サービスエリアで休憩しながらのんびり走っても、3時間程度だ。ましてや、楽な車での楽しい時間はあっという間に感じるもの。軽井沢がこんなに近く感じたのは初めてだ。
さて、ご用意いただいた宿は、「軽井沢ししいわハウス」。熟練の技を究めた現代建築、デザイン、アート、美味しい料理と自然環境との調和を大切に、ビスポークで作られたリトリート・コレクションだ。建築が人々の精神面に与える影響は多大であり、心と体のウェルネルを大切な価値と捉えている、とのこと。これ、激しく同意する。仕事柄、出張でホテルに泊まることが多い。もちろん、圧倒的にビジネスホテルが多く、ししいわハウスが追求するものとは次元が違うが、エントランスに入った瞬間の雰囲気、部屋も狭くてもそれなりに快適だったり、広くても不快だったりして、ファシリティの重要性は身に沁みるほど体験してきた。
「ししいわ」はもともとこの辺りの地名だったそうだが、静穏なリゾート地に位置しており、徒歩圏内の立地に3棟からなる。まずは、フロントとレストラン、バーなどパブリックスペースが入るSSH No.2にてチェックイン手続きを行う。ここは、建築家、坂茂氏が手がけたもの。温かみのある杉の木材とガラス壁面のコントラスト、あるいは周りを囲む木々、自然とのコントラストが印象的だ。屋内は空間が広々と広がり、トラス構造と呼ばれる三角形の骨組みを単位とした構造が特徴。工期を短縮することができ、CO2排出にも配慮しているという。坂氏は、紙管を使った災害時の復興住宅を手掛けたことで知られるが、ここのインテリアにも、紙素材で編まれた座面の椅子や幾何学デザインのテーブルなどオリジナル家具が並ぶ。それは”高級素材によるラグジュアリー”ではない。が、空間からデザインまでが寛げる雰囲気となっていて、チェックイン後、極上のコーヒータイムを過ごした。
「ザ・バー」はワインとウィスキーに力を入れている。今は蒸留所が無くなってしまった貴重かつ希少な軽井沢ウィスキーや秩父のシングルバレル。ブルゴーニュやボルドーはもちろんだが、長野県千曲バレーのワインとか。食後に読書をしながらゆっくりじっくり味わいたいものばかりだ。
SSH No.1も同じく坂氏が手がけられた。なるべく建物の周りの木を切らず、ホテルでは初となるLP工法を用い、インテリア素材にはPHPパネルを採用するなど、環境に配慮したサステナビリティへの貢献に根ざしている。シンプルながら木のぬくもりが感じられる居心地の良い空間だ。また、No.1もNo.2も、世界的な現代アートや工芸品のコレクションが飾られているところも特記したい。
そして、私が泊まる宿泊棟SSH No.3は、西澤立衞氏の手による建築だ。「日本の伝統的な建築の原理に基づく、現代の建築。自然と建築の調和であり、時空を超越する透明性がテーマ」という。縁側や回廊によって10棟の部屋がつながり、開放感がある。一見無駄とも思えるようなスペースの使い方に豊かさを覚える。
外は焼杉材、室内にはひのきが使われていて、部屋に入ると優しくひのきの香りに包まれる。都心の喧騒からもテレビの雑音からも解放された、静かな部屋にいると、自分も無の心境になっていく。そして、檜風呂に浸かれば、全身から緊張感がほどけていく。煌びやかでこれみよがしな高級感ではなく、控えめながらホンモノの質感を大事にした空間はいかにも日本らしく、違った意味で「贅沢」を感じた。
SSH No.1のメインダイニングで頂く夕食は、地元で取れる、四季折々の旬な食材を使った地産地消の創作フレンチ。小さなポーションでお皿に盛られたお料理はどれも美しく、素材の味を生かしながらも複雑なソースが絡み、口福なひとときだった。
翌日の朝食は、メインディッシュに焼き鮭と卵焼きという、シンプルな「ザ・日本の朝ごはん」だったが、サラダは野菜の味がしっかりあり、シャケは脂がのって柔らかく、改めて旬な素材の新鮮さを味わった。
ほんの1泊の滞在だったが、贅沢な素材を用いたミニマリズムの美に包まれ、豊かな気持ちになれた。
後ろ髪ひかれつつ、「ベンテイガアズール」と共に帰路に着く。ボディのボリュームがある分、フライングスパーよりさらに存在感があり、威風堂々とした佇まいだ。室内に乗り込むと、高級な素材を惜しみなく使った、職人の手によるクラフツマンシップ溢れるインテリアが広がる。ベントレーはレザーとウッドの黄金比もあるというが、SUVは室内空間が広い分、上質さに包まれた居心地の良さも際立つ。
車両重量はゆうに2tを超えるが、4リッターV8エンジンは、まったくその重さを感じさせないばかりか、充分なほどトルクフルで力強い走りを見せる。ホテルから軽井沢ICに向かう途中、ワインディングを通るが、ここではドライビングダイナミクスモードを「スポーツ」にすれば、SUVを感じさせない俊敏なハンドリングとフラットライドを保つボディコントロールにより軽快な走りを楽しめる。
そして高速道路に入ると、これはもう、クルーザーだ。重厚感があり、ラグジュアリーで快適な乗り心地。しかも俊足だ。ドライバーにとって運転のストレスがないのはもちろんのこと、乗員全員が快適な移動の時間と空間を過ごせる。なので、ロングドライブも、「疲れるから電車で行こう」とはならず、「ドアトゥドアで快適にいられるベンテイガが良い」となる。距離が延びるほどに、ウェルビーイングを実感できる。ベンテイガには、さらにウェルビーイング志向のEWBモデルもラインナップされる。当然、こちらはリアシートが特等席となるが、SWB仕様のアズールは、ドライビング志向とウェルビーイングのバランスが絶妙であると感じた。
ベントレーモーターズは、ハードウェアとしての車にウェルビーイングを高めるための機能を装備しているのみならず、この車を所有することによるウェルビーイングなライフスタイルも提案している。「ラグジュアリーライフスタイル・ブランド」として、オーナーやオピニオンリーダーへ、次代に向けた新しいコミュニケーションの基軸として「 4パッション・ポイント」を掲げている。それが「ウェルビーイング」「トラベル」「建築(不動産)」「アート(音楽)」だ。
そして、今回の旅は、建築にフォーカスしつつ、非日常を味わうものだったが、見事なまでにこれら4つのキーワードが散りばめられ、体感できるものだった。これが心の豊かさまで提供してくれるモビリティ、ということか。
文:佐藤久実 写真:三浦孝明
Words:Kumi SATO Photography:Takaaki MIURA