約20年ほど前に、アメリカの国際空港で足止めとなった主人公が、空港内のトランジット用ラウンジの中で生活を続ける映画がありましたよね。ちょっとその物語を彷彿とさせるようなお話。ただ舞台はオランダの空港で、主人公は日本人。映画の主人公が旅客用カートの片付けで小銭を稼いだりしますが、今回の主人公はタコ足配線で食つなぐことに…。

オランダの空港で金がまじでなさすぎて、タコ足配線で充電スポットつくって小銭稼いだら10日くらい余裕で生き延びれたのまだおもろい

  • (X ウイスキー藤村 より引用)

  • (X ウイスキー藤村 より引用)

  • (X ウイスキー藤村 より引用)

タコ足配線で稼いだ主人公のアカウント名はウイスキー藤村さん。名前にウイスキーを冠していることからもご想像いただける通り、大のウイスキー好き。趣味が高じて、本場スコットランドへ渡ったのが今回のお話の発端。

醸造所やパブめぐりでお金を使い果たした末に、たどりついたオランダ国際空港で見出したのが、タコ足配線での充電サービスでした。ちょっとワクワクするようなお話にフォロワーたちからもたくさんの「いいね」が寄せられました。

「すげぇ」「何処ででも生きていけますね…」「10日生き延びれたのってすごいサバイバル力」「か、賢い! 考え方次第でビジネスチャンスに! 」「まじで?! オランダでひと稼ぎするか」「方法は違えど、映画『ターミナル』を思い出します」「君を題材にした映画『ターミナル』を作りたいんですけども」などなど。投稿者であるウイスキー藤村さんにお話を伺いました。

■投稿者に聞く

……オランダ空港に着くまでの経緯についてお教えください。

最初はスコットランドに行って、ウイスキー旅をするのが目的でした。もともとしっかりと社会人をやっていたはずなのですが、ウイスキーを好きになってからというもの、「ウイスキーを飲んで暮らせたらいいのに...」というような魔が差しており、気づいたら会社を辞めてしまっていました。

仕事を辞めてから少し自由さに浮かれていて、「せっかくならウイスキーの本場、スコットランドに行ってみたい! 」と思いました。ところが、全く貯金などはしておらず、手持ちはほとんど0円。どうしたものかと思っていたら、Twitterで“プロ奢ラレヤー”という人物が、「3万円と寝袋だけもってチェコに行った」というような内容の投稿をしていたので、「じゃあ、なんとかなるか…」となった記憶があります。

プロ奢ラレヤー氏同様3万円では、あまりにウイスキーが飲めそうにないので、持ってるクレジットカードを使い、限度額までキャッシング。約100万円ほどを作り出して、2週間の蒸留所巡り、パブ巡り、ウイスキーの買い付けなどを散々しました。
それはとても楽しかったのですが帰るころには、手持ちが39ユーロほどしか残ってなくて、「これで帰っても借金まみれかー」と思っていたら、わざわざフライトを逃してる自分がいたんです。なぜかは自分でもよくわからないのですが。

その乗り継ぎがたまたまオランダだった。「行動力がありますね! 」と言われることも多いのですが、実際は、行動力があるわけではなくて、そのとき“行動しなかったから”、取り残された形になりました。ある意味、海外に行ったのも、オランダの空港に残ったのも、今では“逃げ”の選択だったんだなぁと、私自身では理解しています。

……空港でお金が足りないと気づいた時の心境は?

本当に「ないなー」って思いました。ただただ、ない。当時は言葉通り、“食いっぱぐれる”のような、まさか、餓死でもするんじゃないかという気持ちもありました。ただ、フライトを逃した後は正直ワクワクしだしていて、「もしかしてこれから、楽しいことが起こるんじゃないか? 」などと思ったことを覚えています。フラフラと空港を散歩してるだけでも楽しかった。
スコットランド旅では気づけなかった、あらゆることへの細かい興味が湧くような感じがして、とても嬉しく、浮かれてさえいたように思います。

……タコ足充電で商売をしようと思った経緯は?

“商売”というのは正直、個人的にそう呼んでいたほうが身内にウケてた、というだけで、実際のところはそんな大層なものではありませんでした。なにもすることがなかったから、ただフリーのコンセントが1個だけ端っこにあるテーブルに座って、PCやスマホを充電しながら、朝から晩まで時間を垂れ流していました。

そしたら全く知らない人が勝手にコンセントに手を伸ばしていて、その彼が持ってるスマホを充電しだしたんです。日本なら、明らかに私のものと伝わりそうな距離にあるのですが、気にせず、何食わぬ顔で充電している。それがあんまり嫌じゃなくて、むしろ、その感覚の違いが面白いなと思いました。
当初は、生きてるだけで、ただでさえなんの役にも立ってない自分と思っていましたから、少しでも、人の役に立ててるならそれでいいじゃないかと。

なので放っておいたんですが、そしたらその後もわんさか人が手を伸ばしてくるんですよ! そのままトイレにも行けず3時間くらいピークタイム(? )が過ぎるの待ちました。さすがに礼の一つもないことに笑えてきて、「いや、お前らこれ! おれのやつな! 」と主張したくなり、けれど、それを直接伝える勇気もないので、コンセントの目の前にスコットランドで買ったウイスキーピンバッジを大量に陳列し、「これは! 私のです! 」という、やかましいアピールをしてみました。

そしたら案外それが功を奏して、みんな気づいてくれるようになりました。「これあんたの? 使わせてもらっていい? 」と、一言くれるようになったんです。ここが転機でした。そこからはコンセントやウイスキーピンバッジをきっかけに相手側から話しかけてくれるので、下手な英語とボディランゲージを駆使し、なんとか人とコミュニケーションをとるようになりました。

状況的には十分追い込まれていたので、人と繋がれている感覚を得ることだけで充実していました。だから、英語が話せないとか、相手の文化がわからないとか、そういうことは何も心配していなくて、楽しく話していたと思います。よっぽど寂しかったんじゃないかと。

そうしているうちに、親しんで話すことにも慣れていき、少し踏み込んだコミュニケーションができるようになってからというもの、みんな私の状況を理解してくれて、少しづつ食べ物や快適グッズ、持っている小銭などを分け与えてくれるようになりました。中には今でも連絡を取っている人もいて、近況報告をし合ったりもしています。

“ビジネス”や“商売”というとかなり大袈裟なんですが、善意のつもりで始めたことが、善意としてかえってくるという小さな経験をしました。もしこれを“ビジネス”と呼べたのなら、それは素敵なことなんじゃないかと、最初に思ったきっかけでした。

……実際にどの程度稼ぎましたか。何日ほど予定外にステイしましたか。

あまり詳しい金額は覚えていません。1日で1ユーロの食パン一斤食べていればなんとかなったので、そう多く“稼いだ”というほどでもありません。その代わり、具体的な助けとして、ご飯を奢ってくれたりだとか、コーヒー、食べ物、お菓子などを分け与えてくれる人がとても多かった印象です。
わたしが見るからにボロ雑巾みたいな様子でしたから、さすがに心配してくれていたんだと思います。

ステイする予定日数などは何も決めておらず、「何かしら思いつくだろう」という、楽観的な姿勢だったと思います。現代ではSNSがあるので、日本人もすぐに見つかるだろうとか考えていました。実際その後、「移動費スポンサー」と銘打って、移動費を補填してくれる方をTwitterにて募集。当時フレンドファンディングと呼ばれたサービス“Polca”で集金し、スポンサーをブログに紹介することでお金を集めだしていました。

そこからイタリア、チェコ、スロバキア、ポーランド、オーストリア、イングランドを巡り、またスコットランドに戻ることで、半年間の旅を終えました。その間も支援してくださる方々が増えていき、結果的に日本に帰ることができました。

……タコ足充電商売で気づいたこと、思ったことなどを教えてください。

タコ足の件だけではなく、半年間のホームレス旅のさなかで、本当に多くの人に助けてもらいました。ご飯、宿、知人の紹介など、思い出してもキリがないくらい、人から与えてもらった物事たちだけで暮らした実感があります。
私は私で、具体的なものは何も持っていませんでしたが、出会った人に少しでも喜んでもらいたいから、そこまでの旅の話、出会った人、気づいたこと、そういったことをよく話していました。旅の途中で得たウイスキーを、一緒に飲んだこともたくさんあります。

そういったことを喜んでくれて、また新たな出会いに繋がる。最初こそ極貧だったはずのホームレス旅も、後半3ヶ月ほどはかなり豊かに暮らせていたので、ホームレス旅とは言うものの、極貧旅とは正直言えないような状態でした。

帰国してから、キャッシング分100万円の返済は少し大変でしたが、それまで培った経験を元に考えると「大したことないな」と考えられて、日本に帰ってきてからの活動を重ねること、人の力を借りることで、無事に返済することができました。
そんなことから「どうにもならないことも、まぁ、どうにかなる」ということを覚え、そのためには、人との関わりを大切にすることが、何より大事なんだと肌で知った気がします。

どうにでもなるけど、1人では決して生きていない。そんなことを感じる、自分にとって貴重な体験だったのではないかと今でも思っています。詳しいことはブログでもお読みいただけますよ。

▼オランダの空港で金がまじでなさすぎて、タコ足配線で充電スポットつくって小銭稼いだら10日くらい余裕で生き延びれたのまだおもろい