『源氏物語』は、平安時代に書かれた日本を代表する文学作品。名前を耳にしたり、学校の授業で一部を読んだりしたことはあっても、その内容を全て理解できている人は多くないでしょう。

本記事では『源氏物語』について、約200字の短いあらすじと、「桐壺(光源氏の誕生前後)」「若紫」「夕顔」「浮舟」などの帖ごとの詳しいあらすじをそれぞれ紹介。理解のポイントや作者である紫式部、おすすめの書籍についても解説します。

※本記事はネタバレを含みます

  • 源氏物語のあらすじとは

    紫式部『源氏物語』の簡単なあらすじと帖ごとの詳細なあらすじ、理解のポイントなどを紹介します

源氏物語の全体のあらすじを、200字程度で簡単に紹介

まずは『源氏物語』の内容をおおむね理解できるよう、全体のあらすじを、約200文字で簡単に確認しましょう。『源氏物語』は全54帖(54巻)から成り、3つの部に分けられるとされています。

平安時代の貴族社会を舞台に、光源氏とその一族の栄枯盛衰を描く物語。
第一部は天皇の子ながら臣下の身分に下った光源氏が、その容姿と才能を生かして多くの女性をわが物とし、出世していく様を記す。
第二部では、新しい妻が光源氏の親友の息子と不倫し薫が産まれる、長年連れ添った妻・紫の上と死別するなど、その衰退と因果応報が描かれる。
第三部では光源氏の亡き後、表向きは彼の息子として育てられた薫と、孫・匂宮が、宇治の姫君たちやその異母妹を奪い合う恋愛模様が描かれる。

『源氏物語』というと、プレイボーイの光源氏が、紫の上などの女性たちと華やかに恋を重ねる物語だと思っている人が多いかもしれません。しかし実はそれは、第一部のストーリーの中の、さらに一部にすぎません。

実際には縁故が大切な平安時代において、母親の出自により生まれながらにハンデを負っていた光源氏が、恋愛感情を抜きにしても同性・異性を魅了し、権力を手に入れていくサクセスストーリーでもあります。

また華やかな描写の陰に、男性優位の社会の中で、光源氏をはじめとした男性に振り回されるしかない当時の女性の切なさ、地位の不安定さも描かれているのです。

そして第二部以降は、光源氏自身、そしてその子孫にまで宿命がもたらされるという、仏教的な因果応報のストーリーでもあります。

第一部の各帖のあらすじ|1帖~33帖(光源氏の誕生から栄華まで)

  • 『源氏物語』1帖~33帖のあらすじ

もっと詳細に知りたいという方のために、ここからは全54帖について、一帖ずつあらすじを見ていきましょう。

まずは1帖(桐壺)から33帖(藤裏葉)までの第一部。光源氏の栄光の物語が全体の多くを占めます。

1帖 桐壺(きりつぼ)|光る君誕生、そして母の死

桐壺帝と桐壺の更衣(こうい)との間に、この世のものとは思えないほど美しい男児、光源氏が産まれます。母・桐壺の更衣は光源氏が3歳のときに亡くなり、彼女にうり二つの藤壺が継母となりました。光源氏は、藤壺を母として慕う内に、いつしか恋心を抱くようになります。

12歳となり元服を迎えた光源氏は、左大臣の娘・葵の上と結婚します。

2帖 帚木(ははきぎ)|雨夜の品定めと、人妻・空蝉との一夜

光源氏は、若い男たちと雨夜の品定め(理想の女性にまつわる談義)をし、中流階級の女性に興味を持ちます。翌日、光源氏は中流階級の人妻・空蝉と、半ば強引に関係を持ちます。

3帖 空蝉(うつせみ)|人違いで空蝉の義理の娘と関係する

その後も光源氏は空蝉に求愛しますが拒まれます。

ある夜、光源氏が再度、空蝉の寝室に忍び込むと、空蝉は薄衣を脱ぎ捨て逃げ去ってしまいました。暗闇の中、光源氏は人違いで空蝉の継娘・軒端荻と関係します。

4帖 夕顔(ゆうがお)|友がかつて愛した夕顔との恋

光源氏はその頃、六条にも未亡人の恋人(六条御息所)がいました。

そこへ通う途中で、偶然出会った夕顔と恋仲に。彼女は妻・葵の上の兄で、友人でありライバルでもある頭の中将の元恋人でした。しかしある夜、夕顔は物の怪に呪われ亡くなってしまいます。

5帖 若紫(わかむらさき)|紫の上との出会いと、藤壺との不義密通

光源氏は、ある日山中で幼い少女・若紫(後の紫の上)と出会います。

都に帰った光源氏は、藤壺への恋心を抑えきれなくなり、ついに一夜を共にして彼女は懐妊。

その後に光源氏は、実は藤壺の姪だとわかった若紫を引き取り、育てるようになりました。

6帖 末摘花(すえつむはな)|三角関係の後に手に入れた、鼻の赤い姫君

それはそうと光源氏は、一人の姫君をめぐり頭の中将と争うことに。ようやく対面した彼女の容ぼうは期待外れで、垂れ下がった鼻の先は末摘花(紅花)で染めたように赤らんでいました。

7帖 紅葉賀(もみじのが)|藤壺の出産と苦悩

藤壺は桐壺帝の子として、男の子(後の冷泉帝)を出産しますが、その罪深さに苦悩します。

一方で桐壺帝は現東宮(光源氏の異母兄で後の朱雀帝)への譲位を考えつつ、生まれた子を東宮にすべく藤壺を中宮にします。

8帖 花宴(はなのえん)|朧月夜との禁断の出会い

宴の夜、光源氏は朧月夜(おぼろづきよ)と出会い関係を持ちます。しかし彼女は、間もなく東宮(後の朱雀帝)の妻となる予定で、政敵である右大臣の娘でした。

9帖 葵(あおい)|正妻・葵の上と六条御息所の鉢合わせ

桐壺帝は譲位し、朱雀帝が即位。

賀茂祭では六条御息所が、光源氏の息子(夕霧)を妊娠中の正妻・葵の上と鉢合わせし、トラブルに遭います。彼女の生霊に呪われた葵の上は、出産後に亡くなります。

その後、光源氏は成長した紫の上を実質的な正妻とします。

10帖 賢木(さかき)|桐壺院の逝去と光源氏の危機

光源氏の父・桐壺院が亡くなり、藤壺は光源氏を遠ざけるため出家します。

また右大臣の娘・朧月夜との関係がばれてしまった光源氏。右大臣側は大激怒です。

11帖 花散里(はなちるさと)|心安らぐ場所

故・桐壺院の妻の一人であった麗景殿の女御と、桐壺院の思い出を語る光源氏。女御の妹で、恋人の花散里とも久しぶりに再会し、穏やかな時を過ごします。

12帖 須磨(すま)|光源氏、須磨へ退去

光源氏は朧月夜とのスキャンダルに対する処分が下る前に、悲しむ紫の上を残し、自ら須磨(現在の兵庫県神戸市)へと下ります。

13帖 明石(あかし)|須磨から明石へ

光源氏の夢に亡き父・桐壺院が現れ、須磨を離れるよう告げます。明石に移った光源氏は、そこで出会った明石の君と結ばれ、彼女は懐妊します。

その頃、不運続きの都では、光源氏を呼び戻すことが決まりました。

14帖 澪標(みおつくし)|冷泉帝即位と光源氏の政界復帰

光源氏の帰京後、朱雀帝は譲位し、実は光源氏の子である冷泉帝が即位。その頃、明石に残してきた明石の君が女の子(明石の姫君、後の明石の中宮)を出産します。

また光源氏は病死した六条御息所の遺言に従い、彼女の娘(後の梅壺の女御)を養女として迎え入れました。

15帖 蓬生(よもぎう)|光源氏を待つ末摘花との再会

末摘花は貧しい暮らしの中、ひたすら光源氏の再訪を信じて待ち続けていました。光源氏は彼女のけなげな姿に感動します。

16帖 関屋(せきや)|人妻・空蝉との再会

石山寺で空蝉の夫妻一行に偶然出会った光源氏は、彼女と当時を懐かしみながら和歌を贈り合います。その後、空蝉は出家しました。

17帖 絵合(えあわせ)|梅壺の女御 vs 弘徽殿の女御

冷泉帝の妻である、梅壺の女御(故・六条御息所の娘)と弘徽殿の女御の2人が対決(絵合)を行い、梅壺の女御が勝利しました。

18帖 松風(まつかぜ)|明石の姫君を紫の上の養女に

明石の君が娘の明石の姫君とともに、都からやや離れた大堰に暮らし始めます。光源氏は娘の将来のために、紫の上に養母役を依頼します。

19帖 薄雲(うすぐも)|藤壺の逝去と冷泉帝の苦悩

藤壺が逝去しました。その後、自らの出生の秘密を知った冷泉帝は、帝の地位を光源氏に譲ろうとしますが、光源氏はかたくなに拒否しました。

20帖 朝顔(あさがお)|朝顔の姫宮への恋慕と拒絶

光源氏は叔父・式部卿の宮の娘である朝顔に愛を伝えますが、朝顔は相手にしません。

ある夜、故・藤壺が光源氏の夢に現れ、光源氏との秘密が漏れたことで死後も苦しんでいると訴えました。

21帖 少女(おとめ)|夕霧が大学へ、そして六条院が完成

元服し勉学に励む光源氏の息子・夕霧。幼なじみの雲居の雁(現内大臣・元頭の中将の娘)と愛を育んでいましたが、内大臣により引き離されてしまいます。

光源氏は、四季をイメージした町から成る豪邸、六条院を完成させます。

22帖 玉鬘(たまかずら)|玉鬘、九州を離れ六条院へ

故・夕顔と内大臣(頭の中将)との間の娘である玉鬘は、九州で育てられました。乳母と共に上京した玉鬘を、光源氏は内大臣に内緒で養女として迎え入れました。

23帖 初音(はつね)|六条院の正月

光源氏は妻や縁のある女性たちを、六条院や二条院に住まわせます。新春を迎え、彼女たちを訪ねました。

24帖 胡蝶(こちょう)|多くの男性をとりこにする玉鬘

玉鬘の美しさは都でも評判の的となり、多くの男性からの求愛を受けます。

最初は親として意見していた光源氏も、夕顔の面影を持つ美しさに魅かれ、玉鬘に迫って困らせます。

25帖 蛍(ほたる)|蛍のいたずらで求婚者をからかう養父

光源氏は、玉鬘の求婚者の一人・兵部卿の宮をからかうべく、彼が玉鬘のもとを訪れた際、部屋に多くの蛍を放ちました。蛍の光に照らされる玉鬘の姿を見た宮は、ますます玉鬘への愛を募らせます。

26帖 常夏(とこなつ)|内大臣のもう一人の娘、近江の君

内大臣はもう一人の娘・近江の君を探し当てますが、田舎育ちで教養がなく、口調も早口で姫君らしさに欠けると困っています。

27帖 篝火(かがりび)|光源氏、玉鬘と添い寝する

玉鬘のもとを訪れては和琴(わごん)を教えるなどする光源氏。

ある夜、篝火の燃える中で、光源氏と玉鬘は琴を枕に添い寝します。玉鬘に手は出さず、己の恋心を和歌にして伝えました。

28帖 野分(のわき)|夕霧、義母・紫の上に心を奪われる

夕霧が台風の見舞いに六条院を訪れると、偶然に紫の上を見掛けます。そして彼女の美しさにすっかり心を奪われてしまいます。

29帖 行幸(みゆき)|玉鬘の成人式と、実父との対面

玉鬘は裳着(成人式)を済ませていなかったため、光源氏が計画を立てます。

そして玉鬘の実の父である内大臣に真実を語り、腰結いの役目を依頼します。親子の感動の対面が実現しました。

30帖 藤袴(ふじばかま)|玉鬘に言い寄る夕霧

尚侍として冷泉帝に仕えるという話が進む玉鬘。「実は姉ではなかった」とわかった夕霧は、藤袴の花と共に玉鬘への思いを歌にして贈りますが、玉鬘は相手にしません。

玉鬘のもとには引き続き、求婚者からの恋文が相次ぎます。

31帖 真木柱(まきばしら)|望まぬ結婚を余儀なくされる玉鬘

髭黒の大将という男に無理やり既成事実を作られ、結婚することになった玉鬘。望まぬ結婚に当初はふさぎ込みますが、その後、2人の間に男の子が誕生しました。

32帖 梅枝(うめがえ)|明石の姫君の成人式

明石の姫君は、東宮(後の今上帝)の妻となるのに先立ち、裳着を行います。姫君の実母・明石の君は、身分の低さがはばかられ、裳着に参列できませんでした。

33帖 藤裏葉(ふじのうらば)|夕霧結婚、明石の姫君は東宮の妻に

内大臣は、ついに娘の雲居の雁と夕霧の結婚を許します。

明石の君は、実の娘である明石の姫君が東宮の妻となる際、8年ぶりに再会しました。

光源氏は准太上天皇の待遇を受け、栄華を極めます。

第二部の各帖のあらすじ|34帖~41帖(光源氏の衰退から死去まで)

  • 『源氏物語』34帖~41帖のあらすじ

次に、34帖(若菜上)から41帖(幻)までの第二部です。第二部では、光源氏の栄華の衰退が描かれています。

なお41帖の後には、光源氏の死を暗示するとされる「雲隠」が、巻名のみ置かれています。

34帖 若菜上(わかなじょう)|女三の宮、光源氏の正妻に

40歳になる光源氏は、兄・朱雀院の頼みで、彼の娘・女三の宮(14歳ほど)を正妻として迎え入れました。紫の上は動揺しつつも、平静を装うのでした。

35帖 若菜下(わかなげ)|柏木と女三の宮の不義密通

病に伏した紫の上を光源氏が見舞う隙に、内大臣の息子・柏木が女三の宮と密通し懐妊させます。

光源氏は己の過去の過ちを思い出し、非難することはできないと思う一方、柏木に皮肉を言います。柏木は罪悪感がピークに達し床に伏します。

36帖 柏木(かしわぎ)|女三の宮の出産と出家、柏木の死

女三の宮は息子・薫を産んだ後、出家します。柏木の病も回復の兆しは見えず、親友の夕霧に後事を託して亡くなりました。

37帖 横笛(よこぶえ)|柏木の一周忌と遺品の横笛

柏木の一周忌。夕霧は故・柏木の妻である落葉の宮を訪ね、そこで柏木の遺品の横笛を預かります。

38帖 鈴虫(すずむし)|愁いの秋

秋、光源氏は冷泉院を訪ねます。実は自らの子である彼や、その妻である秋好中宮(故・六条御息所の娘、梅壺の女御)に会い、感慨深く思います。

39帖 夕霧(ゆうぎり)|夕霧、落葉の宮と結婚

夕霧は長らく思いを寄せていた落葉の宮と結婚。雲居の雁は嫉妬し、子どもたちを連れて実家に帰ってしまいます。

40帖 御法(みのり)|紫の上、死去

ずっと体調が芳しくない紫の上は出家を望むものの、光源氏の許しが出ないまま、ついに亡くなります。最愛の妻を失った光源氏は生きる気力を失います。

41帖 幻(まぼろし)|悲しみに暮れる光源氏、出家を決意

紫の上を失った悲しみが晴れることのないまま一周忌を迎えた光源氏。出家を決意し、紫の上からの手紙の束を燃やします。

雲隠(くもがくれ)|光源氏の死を暗示する空白の帖

帖名のみで本文はありません。前後から、この空白の期間で光源氏が亡くなったことが暗示されています。

第三部の各帖のあらすじ|42帖~54帖(光源氏の死後の物語 - 宇治十帖を含む)

  • 『源氏物語』42帖~54帖のあらすじ

最後に、42帖(匂宮)から54帖(夢浮橋)までの第三部、光源氏の死後の物語です。

第三部の中でも、メインとなるのは45帖(橋姫)以降、宇治の三姉妹をめぐる恋物語を描いた、いわゆる「宇治十帖」です。

42帖 匂宮(におうのみや)|薫と匂宮、2人の青年

光源氏亡き後に人々の憧れを集めていたのは、今上帝と明石の中宮の子・匂宮(光源氏の孫)と、女三の宮の子・薫(光源氏の子とされているが実は柏木の子)の2人でした。

43帖 紅梅(こうばい)|柏木の弟・按察大納言

柏木の弟・按察大納言は、今を時めく匂宮に娘をと画策しますが、失敗に終わります。

44帖 竹河(たけかわ)|玉鬘の2人の娘

髭黒の大将の亡き後、娘2人の結婚問題に頭を悩ませる玉鬘。結局、姉の方は冷泉院の、妹の方は今上帝の妻となりました。

しかし姉は子を授かるも、弘徽殿の女御の嫉妬を買って実家に戻りがちになり、玉鬘は嘆きます。

45帖 橋姫(はしひめ)|薫、宇治へ

仏道を志す薫は、宇治の俗聖・八の宮のうわさを聞き、宇治に通うように。

そして、彼の娘・大君に恋をします。同じ頃、薫は自らの出生の秘密を知りました。

46帖 椎本(しいがもと)|八の宮の遺言

八の宮は、2人の娘(姉の大君と、妹の中の君)の後見を薫に任せるとともに、娘たちに軽々しく結婚しないようにと忠告し、亡くなりました。

薫は大君に思いを告げますが、大君は父の言葉を胸に、かたくなに拒みます。

47帖 総角(あげまき)|大君の苦悩と死

大君は中の君の幸せのために、彼女こそ薫に、と考えます。一方の薫は、中の君が匂宮と結ばれれば自分は大君と結婚できると考え、中の君をだます形で匂宮と結婚させます。

大君は心労から病に倒れ、亡くなりました。

48帖 早蕨(さわらび)|中の君に思いを寄せる薫

姉を失った悲しみから立ち直れない中の君を、匂宮は都に移します。

大君を失った薫は、匂宮と結婚した中の君のことが、今になって惜しく感じられるのでした。

49帖 宿木(やどりぎ)|薫、浮舟の存在を知る

中の君への未練を断ち切れない様子の薫に、中の君は自分たちの異母妹・浮舟の存在をにおわせます。

ある日、偶然浮舟の姿を目撃した薫は、大君にうり二つの浮舟にすっかり心を奪われます。

50帖 東屋(あずまや)|薫と浮舟、一夜を共にする

匂宮は浮舟に遭遇し、素性を知らぬまま迫ります。間一髪のところで逃れた浮舟は、その後、薫と一夜を共にしました。

51帖 浮舟(うきふね)|2人の男性からの求愛に揺れる浮舟

薫が浮舟を宇治に隠したものの、匂宮は浮舟を探し当て、関係を持ちます。やがて匂宮とのことが薫にバレ、三角関係に思い悩んだ浮舟は、宇治川に身を投げ自殺を図ります。

52帖 蜻蛉(かげろう)|浮舟の失踪と葬儀

浮舟の失踪に宇治は大騒ぎしますが、浮舟は見つかりません。死んだものとして、遺体もないままに葬儀が行われました。

53帖 手習(てならい)|実は生きていた浮舟、出家を決意

しかし、浮舟は生きていました。入水し意識を失って倒れていたところを、通りがかった僧都に助けられたのです。その後、浮舟は周囲の反対を押し切って出家しました。

54帖 夢浮橋(ゆめのうきはし)|薫、浮舟との再会を望むも断られる

浮舟の生存を聞きつけた薫は、再会を望み、浮舟の弟に手紙を届けさせました。

浮舟は動揺しつつも弟との面会すらも断り、とうとう薫と会うことはありませんでした。薫は、浮舟には新しい恋人がいるのかもと疑うのでした。

そもそも源氏物語とは?

  • そもそも源氏物語とは?

ここでは、『源氏物語』の概要や、その作者の紫式部について、改めて確認しておきましょう。

源氏物語は、平安時代を代表する長編小説

『源氏物語』とは、紫式部によって、平安時代中期にあたる西暦1001年から1010年頃にかけて書かれたとされる長編物語。全54帖(54巻)、総文字数は約100万文字、登場人物は約500人、作中で詠まれた和歌は800首近くという、超大作です。

平安時代の貴族社会を舞台に、光源氏とその一族について、約70年ものスパンでつづられています。あまりの長さのためすべてを読み通すのは極めて難しく、途中で挫折する人も多いといわれています。

さて『源氏物語』は恋愛物語だと思われがちですが、それだけではなく、政治的闘争や人間関係の機微、人々の栄華と衰退など、さまざまな側面から読むことができる、非常に奥の深い作品です。

なお『源氏物語』はフィクションなので、登場人物は実在の人物ではありません。朱雀帝や冷泉帝という人物が作中に登場しますが、朱雀天皇や冷泉天皇といった実在の人物とは異なります。

作者は紫式部

紫式部は平安時代中期の作家で、2000年から2003年まで発行されていた2,000円札の肖像画でも有名です。

父は学者・歌人である藤原為時(ふじわらのためとき)で、彼は天皇に漢学を教えるほどの優れた人でした。

当時、漢学は主に貴族の男性が学ぶもので、女性にはなじみのないものでしたが、紫式部自身も漢文を学びます。漢学の才能を発揮する紫式部に対し、父・為時が「この子が男の子だったら…」と嘆いたという話が『紫式部日記』につづられています。

このように男性優位の社会の中で、処世術のために自分の才能を隠すことすらしていた紫式部が記した『源氏物語』には、華やかさの陰に、ただ光源氏を待つことしかできない当時の女性の切なさ、苦悩も描かれているのです。

なお才能をひけらかすことを好まなかった紫式部ですが、それでも時の権力者・藤原道長に見込まれて、一条天皇の中宮・彰子(藤原道長の娘)に家庭教師として仕えています。

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また紫式部は歌人としても名高く、かの有名な小倉百人一首に和歌が収録されているほか、自身の和歌を集めた『紫式部集』を残しました。

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源氏物語をより理解するためのコツを解説

  • 源氏物語を理解するためのポイント

『源氏物語』は古典であることもあり、現代の感覚で読むと理解しにくい部分が多いです。そこで、『源氏物語』の理解に役立つポイントを解説します。

血縁関係や勢力といった人物相関図を把握する

『源氏物語』は、登場人物の数が多い上に人物関係が複雑に入り組んでいます。特にどの人物が誰と誰の子供なのかなど、血縁関係を正しく把握することが極めて重要です。

その上で、『源氏物語』は平安時代の物語なので、家族観・恋愛観も現代とは異なります。当時、身分の高い男性は複数の妻を抱え、多くの子を持つことが一般的でした。

さらに伯父(叔父)と姪や、伯母(叔母)と甥など、親戚同士が結婚することも珍しくありませんでした。また妻同士が親戚関係にあるということもあります。

一方で、右大臣一派と左大臣一派との政治的対立も、人物関係を把握する上で重要なポイント。光源氏は左大臣の娘・葵の上と結婚することから、もともとは左大臣派です。

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ただし光源氏は対立している右大臣の娘と関係を持つことになったり、右大臣派であり腹違いの兄である朱雀院からの頼みで、その娘(光源氏にとっては姪)を妻に迎えたりするなどしており、この複雑な関係性がストーリーをより面白くしています。

『源氏物語』を理解するためには、このような人物相関図を把握した上で、当時と今の価値観の違いを踏まえることが大切です。

身分関係と用語を把握する

『源氏物語』においては、桐壺の「更衣」、明石の「中宮」など、登場人物の呼び名に身分を表す言葉がつくことが多いです。これは、当時は身分が大変重視されていたことが影響していると考えられます。身分の大切さを裏付ける例として、例えば身分の低い明石の君は、自身と光源氏の娘の将来を案じ、自分よりも身分の高い紫の上に泣く泣く娘を託しています。

以下のような用語を予備知識として押さえておけば、物語を理解する上で助けになるでしょう。

  • 帝(てい、みかど):天皇
  • 院(いん):帝が譲位した後の呼称。上皇。なお、光源氏が築いた「六条院」のように、貴人の邸宅や建造物を表す意味でも用いられる
  • 東宮(とうぐう):将来的に帝となる者。皇太子
  • 中宮(ちゅうぐう):皇后または皇后とほぼ同格の后のこと。通常、女御の中から選出される
  • 女御(にょうご、にょご):帝の寝所に仕える女性。主に摂政・関白・大臣家の娘がなる。中宮よりも位が低く、更衣よりも位が高い
  • 更衣(こうい):帝の寝所に仕える女性で、女御に次ぐ地位。大納言以下の娘がなる
  • 御息所(みやすどころ、みやすんどころ):帝の寝所に仕える女性のことで、女御や更衣などを幅広く含む。一説には、皇子や皇女を産んだ女御や更衣のこと

このような身分の差がわかると、登場人物の言動の裏に隠された気持ちが、よりクリアに理解できます。例えば桐壺の更衣は、身分が低いにもかかわらず帝の寵愛を受けたため、格上である弘徽殿の女御らから嫉妬され、いじめを受けています。

本名が出てこないため、シーンなどによって呼び名が変わるので注意

実は桐壺の更衣の「桐壺」、明石の中宮の「明石」などは、名前ではありません。平安時代には、女性の本名や貴族の男性の本名はめったに使われませんでした。「桐壺」は平安御所後宮に実際にあった「淑景舎(しげいさ)」という寝殿の別名、「明石」は地名の明石(現在の兵庫県明石市)のことです。

そのことや、前述の身分を表す言葉が使われることも関連して、シーンによって、一人の人の呼び名が異なる場合があります。例えば右大臣の六女は、「朧月夜」という呼び名が有名ですが、作中では「六の君」と記されていることもあれば、「有明の君」「尚侍」と記されていることもあります。

また「明石の姫君」は帝の妻となって「明石の中宮」と記載されるようになっています。

さらに、同じ呼び名にも関わらず、違う人を指すこともあります。例えば「弘徽殿の女御」は、桐壺帝の妻のことを指す場合と、物語が進み冷泉帝の妻を指すことがあります。

こういった複雑さが、『源氏物語』が読むのが難しいといわれる理由の一つでもあります。そのためいきなり『源氏物語』の原文を読むのではなく、かみ砕いた漫画や書籍であれば、あえて同じ呼び名で統一したり補足が入っていたりするので、理解がしやすいでしょう。

源氏物語をより深く知るためにおすすめの漫画・書籍3選

  • 源氏物語をより深く知るためにおすすめの書籍3選

『源氏物語』のあらすじを読んで、より詳しく知りたいと思った方に向けて、おすすめの書籍や漫画をご紹介します。

あさきゆめみし(講談社)

『あさきゆめみし』は大和和紀(やまとわき)氏による漫画です。

1979年~1993年の14年にわたって連載された超大作で、『源氏物語』の全54帖が原作に忠実に描かれています。また当時の服装や建物、調度品などの一つ一つを緻密なリサーチで視覚化していることも、絶大な評価を得ている理由の一つです。

漫画なので勉強というよりはエンターテインメントとしてとらえやすく、読み進めやすいのが魅力です。

源氏物語 ビギナーズ・クラシックス 日本の古典(角川ソフィア文庫)

古典文学の入門書として定評のある、ビギナーズ・クラシックスシリーズからも『源氏物語』にまつわる書籍が出版されています。

1帖から54帖まで網羅されており、各帖ごとに「あらすじ」「現代語訳と原文(抜粋・ふりがな付き)」「簡単な解説」が記載され、壮大なストーリーが500ページほどとコンパクトにまとめられています。

現代語訳と原文は重要箇所のみの抜粋なので、全文を網羅しているわけではない点に注意が必要です。

源氏物語(1)-(10) 付現代語訳(角川ソフィア文庫)

本書には『源氏物語』の原文がすべて掲載されています。全10巻あり、一巻あたりのページ数は400~500ページ前後と圧巻の文量。各帖につき原文と語句・文法などの注釈があり、現代語訳が続きます。

『源氏物語』を最初から最後まで原文で味わいたい方は、本書のような本格的な書籍に挑まれるといいでしょう。

2024年の大河ドラマ『光る君へ』では紫式部の生涯が描かれる

2023年1月7日よりNHKにて放送開始の大河ドラマ『光る君へ』は、『源氏物語』の作者である紫式部が主人公です。

10世紀後半、京の下級貴族の家に生まれた「まひろ」が、シングルマザーとして子育てする傍ら『源氏物語』を執筆する様や、運命のひとであり後に最高権力者となる藤原道長との不思議な縁を描いた物語です。紫式部の情熱や、強くしなやかな生きざまを感じることができるでしょう。

主人公の紫式部(まひろ)を演じるのは吉高由里子さん、藤原道長を演じるのは柄本佑さんです。

作中では、劇中劇として『源氏物語』のストーリーは描かれないそうですが、『源氏物語』がいかに生まれ、広まって行ったのかや、紫式部がどんな思いを持っていたのかを知りたい方は、ぜひチェックしてみてください。

源氏物語は現代人の心をも動かす傑作

『源氏物語』は膨大な文量に加え、古典ゆえのハードルの高さもあり、全体の内容を理解している人は決して多くありません。

しかしその内容を知れば知るほど、現代にも通じるような心の機微や、世の中のはかなさ、無情さを感じることができるでしょう。

本記事の内容をもとにざっくりと概要をつかんだら、ぜひ日本が誇る、この最高峰の文学作品の読破を目指してみてはいかがでしょうか。