また、134億年前の宇宙に存在する銀河がどのようにして輝いているのかという点については、現時点で2つのシナリオが挙げられた。1つは、ファーストスターのような重たい星が多数存在し(ファーストスターは巨大で、中には太陽質量の1~10万倍の超大質量星も存在したとする説もある)、それらの巨星は強力に紫外線を放射するため、それによって輝いているとするものだ。星は大型になればなるほど表面温度が高温になって明るく輝き、しまいには可視光域を外れて紫外域で輝くようになる。ちなみに紫外線であっても、宇宙膨張による赤方偏移で可視光を飛び越えて赤外領域に入ってしまうので、JWSTの観測範囲でちょうど強く輝くことになる。
そしてもう1つは、超大質量ブラックホール(SMBH)の活動によって明るく輝いているとする説だ。SMBHが活発に物質を飲み込むことで、明るく輝いている銀河の中心核である「活動銀河核」や、その明るさがその属する母銀河全体の星の明るさの合計よりも明るい「クェーサー」などとして輝いている可能性もあり得るとした。
ただし、SMBHの誕生と成長については不明な点が多いとはいえ、宇宙誕生後4億年の時点(ファーストスターの誕生から1億~2億年後?)では、さすがに時間が短すぎてSMBHは存在できない可能性が高いだろうという。そのため本当にSMBHだった場合は、非常に初期の時代からSMBHが誕生していたことになるため、今度はSMBHの誕生と成長に対して大きな問題提起になるとしている。ちなみに星が集合するのは、SMBHよりもダークマターの重力の方が影響が遥かに強いため、SMBHがなくても初代銀河の形成には問題ないとする。
初代銀河は、135億年よりも過去の宇宙に誕生したとかんがえられており、播金助教は136億年前ごろ、今回の銀河たちよりさらに2億年遡った時代と考えているとする。この時代の観測においてもJWSTの活躍が期待されるが、同時代の銀河からの光はさらにzの値が増加するため、5.3μmよりも長くなると、最高感度のNIRSpecでは捉えられなくなる点が課題だ。JWSTには、4.9~27.9μmの範囲を扱える中間赤外線観測装置「MIRI」も搭載されているが、こちらはNIRSpecほどの感度がないため、ここから先の2億年の観測は容易ではないことが想像される。
ちなみに、初代銀河の候補天体を発見しても、それが初代銀河であると間違いなく証明することは容易ではないという。およそ136億年の昔に存在しているという確かな距離測定に加え、水素とヘリウム(とわずかなリチウム)以外の元素はまったく検出できないという2つの証拠が必要だからだ。これらの条件を満たせれば、どの天文学者も初代星のみで構成された初代銀河であると認めるのではないかとしている(さらに付け加えるなら、その銀河よりも昔の時代にはもう天体が存在しないとすることを証明できればより確実だが、それもまた困難を極めるだろう)。
ここ数か月、東大宇宙線研と国立天文台 科学研究部による共同研究チームは、JWSTのデータを活用し、革新的な研究成果を連続して発表している。宇宙誕生から5億~7億年後の時期に酸素が急激に増加した様子の観測、同様に4億~9億年後の段階で窒素が異常に多い銀河の発見、さらに初期宇宙にブラックホールが予想の50倍も多いことの発見など、従来の常識を打ち破るものばかりで、まさにJWST革命の真っ最中であることを教えてくれる内容ばかりとなっている。
海外の研究チームは、JWSTの観測データを用いた研究成果を速度重視で発表しているチームも多いようだが、播金助教らが属する東大宇宙線研と国立天文台 科学研究部の共同研究チームではじっくりと腰を据え、独自の解析手法などを用いて今回のような成果を出している。現在の天文学では、観測データを機械的に処理してどれが遠方天体なのかを検出しているが、それでも見落とされることがあり、最後は研究者が自らの目で探し出すとのこと。今回もこうした丁寧で緻密な研究でもって、初代銀河まであと2億年ほどのところまで迫ることに成功した。今後、初代銀河の姿が捉えられることを期待して待ちたい。