速度違反の取り締まり件数の、都道府県別ランキングを先日前回ご紹介した。
【速度取り締まり】都道府県別ランキング3位は大阪、2位は埼玉、1位は?
2022年、速度違反の取り締まりは全国で93万2260件。1日に約2554件を毎日取り締まり続けたことになる。大したもんだ。
しかぁし、違反別で見ると速度違反は第2位だ。第1位は何だと思う? 運転歴の長い方は信じられないかもしれない。1位はなんと一時不停止(※)なのである。こっちは146万6131件、1日に約4017件を毎日取り締まったことになる。速度取り締まりより約1.5倍も遭遇率が高い。 ※一時停止違反、指定場所一時不停止ともいう。
手元に1989年(平成元年)の都道府県別・違反別取り締まり件数のデータ(警察庁)がある。それによると、1989年の一時不停止の取り締まりは43万8471件だった。2022年の3分の1にも届かない。1989年の一時不停止の都道府県別ランキングはこうだ。
第1位 愛知 4万8023件
第2位 東京 3万3483件
第3位 静岡 2万2595件
第4位 福岡 1万6496件
第5位 埼玉 1万6013件
2022年はどうなったか、ドキドキ見てみよう。カッコ内は1989年の件数だ。
第1位 神奈川 13万2162件(1万5440件)
第2位 埼玉 12万8078件(1万6013件)
第3位 愛知 12万7777件(4万8023件)
第4位 東京 11万6441件( 6588件)
第5位 兵庫 9万4418件(1万5680件)
すっごい増えっぷりだよねえ。
■取り締まり全体は減り、一時不停止が激増
次に、構成率について1989年と2022年を比較してみよう。以下、左側が1989年、右側が2022年だ。カッコ内はそれぞれ取り締まり件数だ。
全体 847万4055件 → 505万3271件
速度違反 30.4%(257万6533件) → 18.4%(93万2262件)
一時不停止 5.17%(43万8471件) → 29.0%(146万6131件)
つまり、取り締まり全体がだいぶ減り、特に速度違反は激減し、なのに一時不停止はぎゅいんと増えたわけだ。たまたまこうなったんじゃないはず。警察庁(全国警察のいわば総元締め)のほうで、ノルマ(目標管理)の立て方を変えさせたのだろう。
都道府県毎の一時不停止の取り締まりの、構成率のランキング(2022年)はこうだ。カッコ内は取り締まり件数。
第1位 宮﨑 41.7%(1万1892件)
第2位 青森 40.5%( 7796件)
第3位 福井 40.2%(1万4639件)
第4位 秋田 39.2%( 8487件)
第5位 山形 38.7%(1万0320件)
取り締まりの4割ほどが一時不停止って「ほ~!」である。
■待ち伏せ取り締まりの“漁場”とは
現場警察官としては、重いノルマを課されたなら、効率よく件数を稼がねばならない。どうするか。多くの運転者諸氏、少なからぬ警察官諸氏から聞いてきたところからは、一時不停止の取り締まりの基本は“漁場(りょうば)”の確保といえる。
・徐行(直ちに止まれる速度)で交差点へ接近。人もクルマも来ず、安全が確認できる交差点
・停止線が交差点のだいぶ手前にあり、多くの運転者が安全を確認しながら徐行で停止線を越える交差点
要するに「杓子定規には違反だけども交通安全的には問題なかろう」と多くの運転者が思える場所が猟場(漁場)になる。ただし、“入れ食い”だからといって、毎日やると運転者たちから警戒されてしまう。なので、成績の悪いときすぐ稼げる場所として、大事にとっておいたりするそうだ。
■裁判官は警察官の証言を疑わない
警察官は、上手に身を隠すことに集中し、違反の現認がおろそかになることがある。運転者は、作成中の違反切符を破けばもちろん、破かなくても口論になったりすると、逮捕されることもある。
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一時不停止の最大の証拠は警察官の現認だ。図面つきの報告書があり、警察官が法廷で「これこれの状況を確かに現認した」と証言すれば、裁判官は疑わない。「警察官たる者が偽証罪による処罰のリスクを冒してまで、赤の他人を罪に陥れるはずがない」との論法で有罪だ。ゆえに、いい加減な現認による取り締まりが気軽にできる、ともいえる。
漁場っぽい交差点では特に、停止線の手前できちんと停止しよう。そして必ずドライブレコーダーを装備しよう。一時停止をしたことが録画されていれば、警察官はまずい立場に追い込まれる。停止しないまでも停止線を越えるとき最徐行だったとわかれば、検察官は起訴しにくいだろう。
ドラレコは交通事故のときにも役に立つ。ドラレコなしで運転するのは、家に鍵をかけずに出かけるようなものだ。いつか後悔することになりかねませんぞ。
文=今井亮一
肩書きは交通ジャーナリスト。1980年代から交通違反・取り締まりを取材研究し続け、著書多数。2000年以降、情報公開条例・法を利用し大量の警察文書を入手し続けてきた。2003年から交通事件以外の裁判傍聴にも熱中。交通違反マニア、開示請求マニア、裁判傍聴マニアを自称。
※2024年1月17日、タイトルを修正しました