高性能なスーパーカーにはそれぞれ特別なチューニングを施すアフターパーツが出回っている。それらをチョイスして自分だけのカスタムを探る楽しみはかつて流行っていたが、現在の高性能なハイパフォーマンスカーは完成時の精密なバランスの中で、しっかりと性能を維持していくことが不可欠になっている。ランボルギーニを愛する自動車ライター西川淳氏が、友人とともにディーラーを訪れ、正規取扱店ならではのメインテナンスの妙技を確認してきた。
【画像】ランボルギーニ正規ファクトリーでのサービス内容を改めて目の当たりにする(写真8点)
テスターに繋がなければ何もわからない
正規ディーラーのサービス工場を訪ねることを密かな楽しみにしている。特にランボルギーニのようなスーパーカーブランドとなると尚更だ。もちろん何の用もないのに訪ねるわけにはいかないけれど、友人や知人が誘ってくれた時にはできるだけ断らずに同行する。
先日もランボルギーニ好きの友人がウルス・ペルフォルマンテを点検に出すというのでちゃっかり助手席を確保した。
訪ねたサービスファクトリーはランボルギーニのCIでまとめられ、クリーンでとても清潔な雰囲気だ。床はキレイに磨かれており、広々としたスペースにリフトや工具、パーツなどが整然と配されている。整備待ちの車両もまるでショールームに置かれているかのようだ。
入庫したランボルギーニは熟練のスタッフによって目視やテスターなどを用いてチェックされるわけだが、ユーザー車両ゆえ内外装の保護にも抜かりはない。整備を受ける準備もまたマニュアル化されている。大事に扱われることを知って喜ばないユーザーはいまい。
ランボルギーニの場合、整備を担当するスタッフは”テクニシャン”もしくは”シニア・テクニシャン”と言って、イタリア本社が作成した育成プログラムに沿った教育を受け、認定試験をパスしたランボルギーニの修理やメインテナンスに精通するプロフェッショナルである。教育プログラムはウェブでの自主学習や講義、対面での実技など綿密に設計されており、経験に応じてレベルアップを図っていく仕組みだ。シニア・テクニシャンともなれば新型車を使ったトレーニングなどにも参加。まさにランボルギーニの最新に精通した存在となる。
スタッフだけじゃない。設備もまた専用品が多い。個体の健康診断器というべきテスターはもちろんのこと、工具類ひとつをとってもモデル毎の専用ツールがたくさん用意されており、それがなければ事実上、現代のランボルギーニをメインテナンスすることは不可能だ。
テスターを使った診断ではものの10分ほどで現在の健康状態を把握することができる。車体とつなげられた診断システムはもちろん車体番号ごとに管理されるのみならず、それぞれのデータは常に本社の管理部門へと送られて随時更新、保存されている。販売された個体が現在どのような状態にあるのか、本社も把握しているというわけだ。逆にいうと、正規ディーラーにおいて定期的なメンテナンスを受けていない個体は本社でのデータが更新されていない。中古車を買う2次、3次のユーザーにとってどちらが不安なく乗れるだろうか。改めて尋ねるまでもないだろう。
改造は改悪でしかない
エンジンやミッションのオイル、ブレーキのディスクやパッドといった重要な消耗品のコンディションチェックや交換もまた、専用工具の扱いに慣れたテクニシャンのみが行う作業である。例えばドライサンプエンジンを積んだウラカンのエンジンオイル交換などは、昔のスポーツカーのようにDIYレベルの作業でできるものではない。油を抜く場所が十数箇所にも及び、しかも専用の工具で扱わなければアルミニウム製コックなどを破損してしまう恐れさえある。仮に首尾よく油を抜くことができたとしても、エア抜きを施したり、正確な量のオイルを注入したりすることは正当な教育を受けたテクニシャン以外には難しい。比較的容易に思われるエンジンオイル交換ひとつをとってもそんな具合なのだから、他は推して知るべしというものであろう。さらに今後は新型車の電動化も進む。難しいバッテリーの取り扱いをはじめ、もはや正規ディーラー以外に高性能スーパーカーのメインテナンスは不可能となった。
最近のモデルは電子制御テクノロジーが進み、コンピューターネットワークによって個別にも支えられている。その頭脳容量と計算速度は今や昔のスーパーコンピューター並みの優秀さであり、それゆえテスターをはじめ正規のプログラムを経て作業しないことには、ホイールひとつ外せない。たまにチェックランプなどコーションが点いたままでも平気だというスーパーカー乗りを見かけるが、仮に重大な問題が起きた場合にどうやって自分の身を守るというのだろう?
ホイールやマフラーなど昔は気軽に行った改造を一切認めていないという点も、現代の車両の成り立ちを考えれば当然のこと。メンテナンスの観点からはもちろん、肝心のパフォーマンスの点からも、ほとんどの改造は改悪でしかない。現代の高性能マシンを弄ることは、そのまま、その個体のパフォーマンスが著しく低下し、場合によって火災など重大な事故につながるケースも少なくないのだ。
自分好みの仕様に仕立ててみたいという気持ちはわかる。私も昔はマフラーやホイールを交換してスーパーカーを楽しんだクチだ。けれどもある時からまるで興味を失った。ツルシの性能が大幅に向上したため、その必要性を感じなくなったからだ。しかも今ではアドペルソナムのようにビスポークのオーダープログラムも充実しているし、車体購入後に装着できる純正パーツのアイテムも増えてきた。正規ディーラーに行けば、そういったパーツの数々を実物やカタログでチェックする楽しみもある。
最近目立って面白い傾向がある。改造することが流行った過去のモデル、例えばディアブロやムルシエラゴが今、オリジナルコンディションへと戻されることがめっきり増えているのだ。もちろん代替えとなって新たなオーナーがしっかり予算をつぎ込んでオリジナルへと戻すことも多いが、改造した当の本人がその意味のなさに気づいて莫大な費用をかけた改造箇所をノーマルに戻すといった案件すら散見される。要するにオリジナルの状態が最も価値があるということを、ネオクラシックモデルが既に物語っているのだ。それは最新モデルの近未来でもあるだろう。
もし貴方が今、ランボルギーニのオーナーでアフターパーツを装備して楽しんでいるとしよう。オリジナルへ戻しなさいというアドバイスは確かに余計なお世話かもしれない。けれども工場出荷時の状態へと戻すことで正規ディーラーとの付き合いも始まり、愛車のコンディションは間違いなく良い方向に転じていく。経年劣化があったとしても、まだしもその個体の持つポテンシャルをしっかり引き出すことができるようになる。さらには正規ディーラーからの数々の情報に触れることで最新ランボルギーニの世界観をいっそう楽しむこともできる。ツーリングやパーティといった正規のイベントを通じて仲間を増やすこともできるし、まだ見ぬ新たなモデルへのステップアップにも近づいていく。
悪いことはいわない。コレクタブルなスーパーカーはオリジナルコンディションに戻して乗った方が貴方も愛車もゼッタイに幸せだ。
文:西川 淳 写真:芳賀元昌
Words:Jun NISHIKAWA Photography:Gensho HAGA