自然栽培とは? 他の栽培方法との違い
自然栽培とは「自然に習い植物や土壌が本来持っている力を最大限に引き出すことで作物を生産する」こと。
自然の植物が人の手を加えずとも元気に育つように、作物も同じように育てられるだろうという考えのもと、無農薬・無肥料を実践していく栽培方法です。
ですが、そもそも自然には生えてこない作物を、わざわざ植えて育てるというのは実は「不自然」なことなのです。
このため、単にほったらかしで作物が勝手に育つわけではありません。
作物が本来持っている、自然に育つ生命力を最大限発揮させるために多少なりとも人の手を加える必要があり、その土地や作物によっても栽培方法が変化します。
だからこそ実は、自然栽培という言葉には明確な定義があるわけではなく、それぞれの生産者や団体が独自に基準を設け「自然栽培」という言葉で栽培哲学や栽培方法について表現しています。
それが自然栽培の面白いところでもあります。
有機栽培との違い
一般的に有機栽培とは「化学合成した農薬や肥料を使わない」「遺伝子組み換え技術を利用しない」「農業生産に由来する環境への負荷をできる限り低減する」この3点を原則とする栽培方法のことです。
逆に言うと、有機栽培では天然由来の農薬や肥料は使用して問題ないという意味になります。
自然栽培では天然由来であっても肥料や農薬は使わないため、有機栽培との違いはそこにあります。
無農薬栽培との違い
無農薬栽培という言葉もよく聞きますが、これは栽培期間中に農薬の一切の使用を制限するという意味です。
有機栽培では、「化学合成された農薬」のみを制限していたのに対して、無農薬栽培では農薬全般について使用しないということになります。
この点は自然栽培と同じですが、一方で肥料に関しては化成肥料・有機肥料関係なく使用して良いことになっているので、肥料の使用が自然栽培と大きく異なる点です。
自然農法や自然農との違い
自然栽培と似た言葉として自然農法や自然農がありますが、これらは全て自然の摂理に従って農業をするという意味では共通しています。
自然農法とは、自然栽培の「農薬・肥料不使用」の原則に加えてさらに「不除草」「不耕起」で育てる農法です。
言葉の通り「不除草」は雑草も取らないこと、「不耕起」は畑を耕さないことを意味します。さらに自然農法の農家さんによっては畝も作らず、できれば種もこぼれ種で勝手に生やすだけなどとしている場合もあり、限りなく自然の状態に近い農法です。
簡潔にまとめると、「自然栽培の中に自然農法や自然農が含まれる」と捉えると分かりやすいでしょう。ただし、どの農法も有機栽培のように行政や第三者機関が厳密に定義しているわけではないので、実践者ごとに実態は異なります。
ちなみに自然農は、自然農法を提唱した福岡正信(ふくおか・まさのぶ)氏の著書に影響を受け、それを川口由一氏が独自に発展させた農法。基本的には自然農法の原則を受け継ぎながら、種はこぼれ種に任せず自家採種する、畝を立てる、などの違いがあります。
自然栽培された野菜やお米とは?
さて、ここまで自然栽培とは何かという話をしてきましたが、実際に無農薬・無肥料で育てられた作物と慣行栽培で作られた場合との間ではどのような違いがあるのでしょうか。
せっかく自然栽培をするならおいしく野菜づくりをしたいと考える方が多いと思いますので、ここでは自然栽培で育てられた野菜とお米を例に詳しく見ていきましょう。
野菜の特徴
一般的に自然栽培で作られた野菜はえぐみが少なく、日持ちがするといわれています。
一方で生育を厳密にコントロールすることができないため、形にばらつきが出たり、同じ野菜でも収穫時期がずれたりすることがあります。
お米の特徴
自然栽培でお米を生産している農家は全体の1%にも満たず、私たちが入手できるお米の約99%は農薬を使用して作られたお米です。
とても珍しく、慣行栽培のものと比較して10倍ほどの金額で取引されることもあります。
株間を広く取る必要があるので収穫量が慣行栽培に劣ることもありますが、一方で根を広く伸ばすため台風などの強風でも倒れにくいという特徴があります。
なお、優良誤認を招くという理由で「無農薬米」表示をすることは禁止されているため、注意が必要です。
自然栽培のメリット
自然栽培のメリットは、大きく分けて四つ挙げられます。それぞれ、詳しく解説します。
1. 環境負荷が小さく健康に良い
2. 野菜やお米そのものの味を楽しめる
3. 資材費を節約できる
4. 持続可能な生産ができる
環境負荷が小さく健康に良い
肥料を使わないためには、作物に栄養を供給する健全な土壌を育む必要があります。また農薬を使わないためにはそもそも虫を寄せ付けない元気な作物を育てる必要があります。
それを実現する過程でおのずと畑の自然環境は豊かになり、環境負荷が小さく健康にも良い栽培ができます。
野菜やお米そのものの味を楽しめる
上述したように、野菜やお米を無肥料で育てると、えぐみの無いすっきりとした味わいの野菜ができるといわれています。
特に小松菜やレタスなどの葉物では、慣行栽培では窒素系の肥料を過投入している場合も多く、それがえぐみとなって現れるのに対し、自然栽培の場合は肥料を使わないため野菜本来の味や香りを楽しむことができます。
資材費を節約できる
農薬や肥料、それらを散布するための機械など、慣行栽培に必要な資材の価格はますます高騰しています。
自然栽培では、こうした資材を購入しなくて済むため、資材費を節約することができるのもメリットの一つです。
持続可能な生産ができる
肥料・農薬に依存している状態を続けると、それらの価格が高騰するたびに影響を受けざるを得ず、今後安定的な生産が妨げられる可能性があります。
肥料や農薬の生産には化石燃料や鉱山資源が欠かせませんが、それらの価格は今後高騰する一方だといわれています。
肥料や農薬を使わない自然栽培を始めることで景気に左右されにくく、将来の安定的な作物生産につながっていくでしょう。
自然栽培のデメリット
自然栽培のデメリットとしては、大きく分けて三つあげられます。それぞれ、詳しく見ていきましょう。
1. マニュアル化できない
2. 手作業での除草が必要
3. 大量生産には向かない
マニュアル化できない
慣行農法であれば、それぞれの品種の作物に肥料を与える分量やタイミングのほか、病害虫が見られた際の農薬散布などをマニュアル化しやすい側面があります。一方、自然栽培ではそれぞれの畑の土質や植生などを総合的に判断しながら、その畑独自の栽培方法を見つけていく必要があるため、単純なマニュアル化が難しいといえます。
手作業での除草が必要
自然栽培では除草剤の散布をしないため、雑草は手や草刈機で刈ることになります。特に苗がまだ小さい時には雑草の勢いに負けてしまわないよう丁寧に手作業で雑草を取り除く必要があるでしょう。
大量生産には向かない
上記二つのデメリットからも分かるように、自然栽培は慣行栽培に比べて手作業が多くなってきます。また畑ごとに条件が異なるためマニュアル化が難しくなっています。それぞれの畑ごとに状況が常に異なる中で、単一のシステムや仕組みで管理していくことには限界があります。そのため大量生産には向いていないといえます。
自然栽培は土作りが最も大切
ここまで、繰り返し土の健康や土壌の豊かさを述べてきた通り、自然栽培において最も重要な要素は土です。そのため自然栽培を始める前には「土作り」をしていくことが大切になります。
いくつかステップがありますので解説していきます。
土の状態を知る
まずは土の状態を知るところから始めましょう。
いくつか方法がありますが、一つは生えている雑草から判断する方法があります。カラスノエンドウ、ハコベ、オオイヌフグリなどが生えていれば自然栽培を始められる土壌環境である可能性が高いです。一方スギナなどイネ科の雑草が生えている場合は養分不足の可能性があります。
このほか、より手軽な方法として、土壌断面調査もあります。スコップで地表から20cm程度掘りその断面を確認します。表面から10cm付近までふかふかの土(団粒構造と呼ばれる粒状の土の状態)が見られれば土の状態はかなり良いです。逆にさらさらとした砂状の土や硬い粘土状の土がすぐに出てくる場合は改善する必要があります。
自然栽培を続けていくうちに土は育ちますが時間がかかるため、始めは堆肥(たいひ)を入れたり土ごと発酵を試したりして土作りをすることをおすすめします。
天地返しをして菌の活動を活性化させる
自然栽培ではできるだけ耕さない方が良いといわれていますが、確認した土の状態が養分不足であれば、最初は耕した方がいいこともあります。
例えば、天地返し(土の浅いところと深いところを混ぜるために耕すこと)をすると、浅い土に住む好気性細菌と深い土に住む嫌気性細菌が混ざり合い微生物活動が活性化するといわれています。
その際に生えている雑草をその場で刈り倒し、落ち葉や油かすなどの有機物が入手できれば畑に入れて耕すと、それらが微生物のエサになり発酵が進みます。特に米ぬかが良いとされています。
この過程は「土ごと発酵」と呼ばれています。
自然栽培の始め方
土作りが完了したら、いよいよ自然栽培を始めていきます。基本的な流れは次のとおりです。
必要な道具をそろえる
畝を立てる
種や苗を準備する
種まき/苗植え
除草と草マルチ
それぞれ詳しく見ていきましょう。
必要な道具をそろえる
家庭菜園であれば最低限の道具としてクワ、スコップ、カマ、手袋があればひとまず大丈夫です。
もし、広い面積で畑をやる方は、最初に耕す時には耕運機が、除草の際には刈払機がそれぞれあると省力化できて便利です。
畝を立てる
麦やコメなどの穀類や果樹の栽培には不要ですが、野菜の栽培であれば必要に応じて畝を立てると良いでしょう。
畝を立てると排水性が向上する、作土層(野菜が根を張ることができる土層)が厚くなる、畝間を作業用の通路として使えるといったメリットがあります。
種や苗を準備する
種や苗は園芸店や種苗屋さんのほか、ホームセンターや通販でも買うことができます。固定種や在来種の種から育てると、種取りをすれば翌年以降もまくことができ、自然栽培とも相性が良く特におすすめです。
慣行栽培では連作は障害が出るといわれ避けますが、自然の植物は連作を基本としますので、自然栽培でも毎年種を取り連作していくことが望ましいです。
市販の苗を購入する場合は高さよりも、根の回りが良いか、茎が太く丈夫かどうかという点を判断基準にすると良いでしょう。
種まき・苗の植え付け
種まきや苗の植え付けは何といっても水の確保が重要になります。雨水のみで育てる場合は必ず雨が降る前日など、水が確保できる時に行いましょう。
散水できる場合は雨を気にする必要はありませんが、種をまいた後は必ず土に水がしっかり浸透するまで散水するようにしましょう。
苗の植え付けの際も必ず苗ポットをひたひたに浸水させてから植え付け、植え付け後はしっかり手で押さえます。
種まきは主にばらまき・スジまき・点まきの三つがあります。栽培する野菜に応じて使い分けますが、ルールがあるわけではないので収穫する際のイメージをしながら決めるとよいでしょう。
除草と草マルチ
生育初期には雑草の勢いに負けてしまうこともあるため、こまめに雑草を取り除く必要があります。十分育ってきたら様子を見て除草の頻度を落としても問題ありません。
刈り取った草はその場で畝の上に敷くと「草マルチ」として活用できます。
マルチとは土壌を直射日光から守ったり、保温・保湿の役割を果たしたりするもので、一般的にはビニールで作られていますが、草マルチにすることでさらに土壌生物へのエサとしても活用できます。
様子を見て米ぬかや油かすをまく
冒頭でも書きましたが、自然栽培では原則肥料を使いません。しかし、同時にある程度は手を加える必要があります。
栽培し始めた作物の状態があまり良くないように感じたら土壌環境がまだ整っていないのかもしれません。そんな時には草や落ち葉を畝に積んだり、その上から米ぬかや油かすを補ったりして様子を見ても良いでしょう。
作物が育たない時は緑肥を活用する
ほかにも作物の生育が思わしくない時には緑肥を活用しても良いかもしれません。
マメ科のヘアリーベッジは土壌中に窒素を供給し、イネ科のソルゴーやエンバクなどは深く根を張り土を柔らかくしてくれます。
また、さまざまな緑肥を混ぜ合わせたミックス緑肥をまけば、生物多様性が増して土壌も豊かになるといわれています。
自然栽培に適している野菜の例
自然栽培に適している野菜にはいくつか種類があります。
比較的手間が少なくて済む、初心者にオススメの作物を紹介しますので、参考にしてみてください。
根菜類:ジャガイモ、里芋、サツマイモ、菊芋など
種イモを植えた畝の上にどっさり草を積んでおくだけで、積まれた草を押しのけて芋は成長します。草が積まれていることで雑草は生えてこないため除草の必要がなくなる分、手間も少なくなります。
穀物類:麦など
初期生育が雑草に負けないくらい早いイネ科の穀類であれば、初期の除草が不要です。また、密に植えることで雑草が生える隙間(すきま)を作らないという方法もあります。
こちらも除草をする手間が少なくて済みます。
豆類:大豆やインゲンなど
マメ科の作物は窒素固定菌を共生させることで窒素分を自給できるという特徴があります。自然栽培を始めたばかりだと、畑に必要な養分である窒素が不足しがちですが、マメ科の作物を植えることで畑の土も豊かになり収穫もできる一石二鳥の作物です。
その上つる性の豆であれば背丈が高くなるため、初期の除草のみ行えば良いというメリットもあります。
ウリ科:カボチャ・トウガン・キュウリ
つる性で葉が大きく、広範囲に成長するため、一度雑草より優勢になれば畑全体を覆うように広がってくれます。成長してしまえば、その後は収穫まで一度も除草する必要はありません。
始めやすい作物で、自然栽培デビューを!
この記事では自然栽培について解説してきましたが、正直ちょっと難しいというイメージを持たれた方もいらっしゃるのではないでしょうか。
自然栽培にはこれといったマニュアルや正解があるわけではないですが、逆に言えば自由にやっても良いということでもあります。
記事の中でも比較的初心者でも始めやすい作物などを紹介させていただきました。案外やってみたらできた!なんてこともあるのが自然栽培の魅力でもありますので、少しでも興味を持っていただけたら、実践してみてください。