[写真]=森田将義

 今年の全国高校サッカー選手権大会で応援リーダーを務めるのは、日本代表FW浅野拓磨(ボーフム)だ。

 四日市中央工の2年時には準優勝。個人としては全試合で得点を奪い、大会得点王に輝いた。卒業後はサンフレッチェ広島での活躍を皮切りに、世界へと羽ばたいていったストライカーとは違い、母校である四中工は近年、全国大会での存在感が薄れていた。

 2020年以降は県内でも苦戦を強いられ、ベスト4までたどり着けない年が続く。「三重県を簡単に勝てないのは分かっている。ただ、四中工に来てくれている選手はサッカーに懸けているので、スタッフも同じ想いで『勝たせてあげたい』とやってきた。ただ、勝負は簡単にはいかない」。伊室陽介監督がこぼしたように、“打倒・四中工”に全力を注ぐ三重県を勝ち抜くのは想像以上に困難だ。

 今年のチームもエースナンバーの『17』を背負うMF平野颯汰(3年)と山口叶夢(3年)の両翼を筆頭に特長を持った選手が多く揃い、力はある。「攻撃面ではいろいろなパターンが持てる。良さを出せれば大量得点につながる」と指揮官は評するが、インターハイ予選は決勝で海星に敗れ、全国大会にはたどり着けなかった。

 チームが上昇気流に乗ったのは夏以降だ。「インターハイには行けなかったけど、伝統校ということでいろいろなフェスティバルに呼んでいただける。行けば大事にしてもらえて、きちんとトップチーム同士で試合をしてもらえる」。伊室監督が口にする通り、夏休みの遠征で岡山学芸館(岡山)、昌平(埼玉)といった高円宮杯プリンスリーグやプレミアリーグの強豪と対戦。普段、県1部リーグで味わえない強度を肌で体感し、課題だった守備意識と強度が高まっていく。

 格上との対戦でうまく行かない場面が出てきたことで、選手同士の話し合いが増加したのはプラス材料だ。守備もDF山本拓弥(3年)がDF陣を集めて試合中に相談する場面が見られるようになったという。「夏があったから、一気にチームの一体感が生まれた。簡単に失点しているところでもしっかり全員が戻ってきて守備ができていた。そこからカウンターで点が取れた。一人ひとりの守備能力が上がったし、いろいろなスタイルのチームに対する守備のやり方を教わった」と振り返るのは主将のMF片岡空良(3年)だ。

 チームの成長とともに目を惹くのは、サブ組のメンタル面。選手権で準優勝した2011年度大会は浅野ら2年生が主力の大半を占める若いチーム。当時、コーチだった伊室監督が控えの3年生が腐らないように声を掛けたことでチームの雰囲気が良くなり、躍進につながった。今年は指導者が声を掛けなくても、試合に出られない選手が主体となって、チームの雰囲気を作れているという。

「屋成柾輝(3年)は『伊室さん、俺がサブをまとめておきますんで』とアップをしてくれるし、試合前に『頑張ろうぜ』と言ってくれる。悔しいに決まっているけど、チームのエネルギーに変えてくれている。そういう選手がいると2年生、1年生が付いてくる」(伊室監督)

 個性的な選手が多い分、他校のように同じ方向を向いて戦えない年もあるが、「そこが四中工のおもしろいところ。個性的な選手を混ぜながら、引っ張り合いしながら、分裂しながら、爆発しながらチームが成長していく」と伊室監督は口にする。4年ぶりに晴れ舞台へと戻ってきた今年は選手一人ひとりが大人になり、主体的に行動ができるようになってきた。飛躍の予感漂うチームは、浅野拓磨がいた年と同じステージまでたどり着いたとしても不思議ではない。

取材・文=森田将義