清水エスパルスでプレーした経験を持つ前田高孝監督が就任して、今年で8年目。全国大会出場経験がないどころか、就任当初は滋賀県3部リーグに所属していた近江は関西を代表する強豪校になりつつある。今年は関西のチームで初めて高円宮杯プリンスリーグ1部と2部に参戦。プリンスリーグ1部ではガンバ大阪ユースやセレッソ大阪U-18を押しのけ、2位となった。
インターハイ予選も危なげない戦いぶりで、3大会ぶり3回目の全国大会出場を果たしたが、チームが成長すればするほど自然と選手のプレッシャーになっていたという。
「県内では今年は近江だろうと言われていたのが選手の耳に入り、想いが強くなり過ぎていたせいで選手権予選はずっと堅かった。“今年は勝たんとアカン”、“俺がやらなアカン”という気持ちが、選手の中ですごく強くて、空回りしていた」(前田監督)
ただ、今年は守備の要であるDF西村想大(3年)を筆頭に昨年の選手権を経験する選手が複数いるのが今年の強み。MF西飛勇吾(3年)や山門立侑(3年)を中心にパスとドリブルを判断よく使い分けるサッカーは魅力十分でもある。DF金山耀太(3年)とMF鵜戸瑛士(3年)のサイド攻撃や、前線でターゲット役となるFW小山真尋(3年)など個で光る選手もいるため、チーム力は高い。積み上げてきたサッカーを発揮できれば勝てる自信があるため、相手を入念に研究して試合展開を進めてきたこれまでとは戦い方が違う。「今年は相手に合わせる考え方は一切していない。相手の抑えなければいけないポイントを伝えるだけだった」(前田監督)
県のライバルである草津東と対戦した予選決勝は、お互いに攻め合う試合展開となった。先制点を生かせず延長戦までもつれ、指揮官は「いつもなら草津東に負けていたと思う」と振り返るが、心の中で余裕を感じていたという。「“やれるもんならやってみろ”という感覚があった。うちらはやってきたことをやるだけだと思えた。パスやドリブルを草津東に引っ掛けられてカウンターを受けていたけど、仕方ない。今まではミスを怯えていたのですが、覚悟が決まったというか、やり合うしかないと思えた」
12月上旬のプレミアリーグプレーオフでは昇格を果たせなかったが、北海(北海道)と鹿児島城西(鹿児島)に自分たちのスタイルを貫き、確かな爪痕を残した。大会を終えて、前田監督は「強化を始めて8年でプレミアに昇格し、“ここまで行けるんや!”というのをいろいろな高校に示したかった。また、うちのように新しく立ち上がるチームが出てきたら面白い。決まった高校ではなく、新しい高校が入っていかないと面白くない」と悔しさを滲ませたが、チームの名前を全国に轟かせる格好の舞台は残っている。
選手権に挑むにあたって、学校のある彦根市のゆるキャラ『ひこにゃん』とのコラボグッズを返礼品にしたクラウドファンディングを実施。市のキャラクターと高校チームの結びつきは珍しいという。湖国発の若いチームは、選手権を機にピッチ外内でも新たな風を吹かせるのは間違いない。
取材・文=森田将義