京都橘が目指すのは「人の心を動かすサッカー」[写真]=森田将義

 準優勝を果たした2012年以降6年連続で全国高校サッカー選手権大会出場を果たしていた京都橘だが、近年は東山の牙城を崩せず、全国の舞台から遠ざかっていた。昨年、一昨年に至ってはインターハイ、選手権ともに東山が出場。昨冬の選手権は東山が準優勝を果たし、ライバルとの関係性は明らかに変わっていた。

「2年間全国に行けなかったら初出場も同然。スタッフも入れ替わり、全国を知るのは僕しかいない」

 米澤一成監督が度々口にし ていた通り、ゼロからのチーム作りに近い。晴れ舞台への返り咲きを狙う今年は、主将のFW西川桂太(3年)を中心に日本一という目標とともに、「人の心を動かす」という言葉を掲げた。理由について西川はこう明かす。

「選手権で全国優勝するのも目標の一つですが、目標の前に目指すべきなのが、人の心を動かすサッカーだと考えています。心を動かせなかったら、勝っても価値がない。人の心を動かすというのが、チームの一番の目標で、そのためには戦わないといけないし、走らなければいけない。選手としてのあり方が人の心を動かすことに繋がると言ってやってきました」

 人の心を動かすためには、まず応援してくれる人を増やさなければいけない。今年に入ってから部署制度を採り入れ、グラウンド周辺の道路を清掃するなどピッチ外での活動を行なってきた。日頃から応援してくれている、近くの老人ホームに折り紙と花を持って行ったのも選手のアイデア。選手権前には一人でも多くの同級生に会場へと足を運んで貰えるよう校内に掲示するポスターも作った。毎週月曜日に実施している小学生を対象にしたサッカースクールには、選手が混じって一緒にボールを追いかけてもいる。

「周りの人に“頑張ってね”と言われるのが大事。そうした取り組みが選手の見えない力になっていった気がする。地域に貢献して、地域に応援される。それが京都橘の強み」(米澤監督)

 そうしたピッチ外での取り組みや心を動かそうと全力で練習に取り組んだ結果、チーム全体の意識が高まり、勝てるチームの雰囲気になっていった。DF池戸柊宇(3年)は「選手権のメンバーに入れなかった3年生が全力で走りの練習をやっている姿を見て、俺も頑張ろうという気持ちになった。誰かのためにやろうという使命感が生まれました」と振り返る。

 予選決勝は東山に先制点を許したが、後半の2ゴールで逆転勝利。池戸は「人の心を動かす部分が一番出たのは予選決勝。自分自身すごく心が動いたし、周りの人にも感動をありがとうと言った言葉を頂ける。これまでは(全国に行けず)すごく苦しかったけど、やってきたことは間違いなかった」と話した。

「2年間、全国に行けなかったから今年は行けた。選手権に行きたい想いが強かった。選手の想いが段々上がっていって、行ける空気しかなかった」。米澤監督が評する通り、想いの強さが3年ぶりの選手権出場に繋がった。全国でもこの2年間ため込んだ想いをピッチで表現できれば、また多くの人の心を動かし、結果として還元されるはずだ。

取材・文=森田将義