メーカーはさまざまな努力で魅力的な製品を世に送り出していますが、加えて最近は「環境に優しい」「サステナブル」であることも求められています。家電メーカー大手の日立グローバルライフソリューションズ(以下、日立)も、環境経営に力を入れているメーカーのひとつ。

日立の環境経営にはさまざまな取り組みがありますが、注目したいテーマのひとつが家電に多く利用されるプラスチックをリサイクルする「再生プラスチック」です。日立は環境経営のため、家電における再生プラスチック利用率の拡大を目標としています。

  • 洗濯機やクリーナーなどの開発・製造拠点である茨城県日立市の多賀事業所。ここでは再生プラスチックも生産しています

  • 事業所前に並ぶEVフォークリフト。稼働時にCO2を排出しない電気フォークリフトの導入で部品運搬時のCO2排出量を削減します。さまざまな方法で環境に配慮しています

再生プラスチック利用率40%オーバーの掃除機

「再生プラスチックを使った日立の家電」ときいて、コードレススティック掃除機「パワーブーストサイクロン PV-BH900SK」(以下、PV-BH900SK)を思い浮かべた人はいるでしょうか。2022年発売のPV-BH900SKは、本体や付属部品に再生プラスチックを40%以上使用しているという画期的な製品です。

  • 写真は環境配慮モデルであるPV-BH900SKの現行製品「PV-BH900SL」。真っ黒な艶消しボディは、近年の掃除機としては新鮮味があり、スタイリッシュなデザインです

PV-BH900SKの大きな特徴は、掃除機の目に付く部品にまで再生プラスチックを採用している点。再生プラスチックは「既存製品のプラスチックなどを破砕して成形し直す」ことから、どうしてもリサイクル時に異物が混入します。成形時にプラスチックを加熱すると、この異物が炭化してゴミのような黒い粒(炭化物)が発生することがあるため、日立はこれまで再生プラスチックを洗濯機の足元部品など目立たない場所に利用していました。

  • 回収して破砕したプラスチック。「白系」であってもさまざまな色が混じっていることがわかります

  • 再生プラスチック材を使っている日立のドラム式洗濯乾燥機。足元の枠台部分が再生プラスチックです。黒い粒があっても目立たなくなるよう、再生プラスチック利用部は濃い色にデザイン。従来、再生プラスチックはこういった目に触れにくい場所に利用されていました

再生プラスチックのリサイクル技術は日々進歩しています。たとえば、透明度の高いプラスチックである「GPPS(汎用ポリスチレン)」は、再生すると褐色になるため使える場所が限られていました。そこで、日立はリサイクル過程に洗浄工程と塩水選別工程を設けることによって、より白く透明感のあるリサイクル材への再生を実現しています。

  • 左から単純にリサイクルしたGPPS、リサイクルに水洗浄を加えた物、水洗浄と塩水選別工程を加えた物

  • リサイクルGPPSは、写真のような冷蔵庫の扉ポケットや透明トレーなどに利用されています。とはいえ、色のついたグレーのポケットで再生素材は20%~30%、透明なトレーでは5%ほどとのこと。PV-BH900SKの「40%以上」がいかにすごい数字かわかりますね

日立市多賀の再生プラスチック生産施設

掃除機のPV-BH900SKで多く利用している再生プラスチック「PP(ポリプロピレン)」も、さまざまな工程で異物を取り除く工夫をしています。日立では、掃除機や洗濯機を生産している多賀工場にて、再生PPの製造も行っています。

  • 2023年10月から稼動したばかりの新しい再生プラスチック製造施設。旧施設とあわせて、再生プラスチック生産能力は3倍以上になったそうです。ちなみに、再生プラスチックの製造は日立アプライアンステクノサービスによるもの

回収した廃家電を破砕してできたプラスチックは、この設備に集められます。ここで不純物を除去して洗浄、さらに熱を加えて細かな粒(ペレット)へと成形。成形後もCCDカメラなどを使って自動で炭化物を取り除くなど、可能な限り不純物を除去します。

実際のところ、これだけの工程を経ても炭化物をゼロにするのは難しいそうです。そこで、再生プラスチックを多く利用したPV-BH900SKは、再生プラスチックの異物が目立たず高級感のあるマットブラックにデザインされました。

  • 不純物の除去設備のひとつである風力選別機。掃除機と同じサイクロン方式で細かなゴミを分離させます

  • 風力選別機で分離した前後の素材を見ると、違いは一目瞭然です

PV-BH900SKは再生プラスチックを多く使った環境配慮型の家電ですが、同時に「リサイクルしやすい」ようにも考えられた製品です。上でも述べたように、プラスチックのリサイクルでジャマになるのはプラスチック以外の異物。

そこでPV-BH900SKは、異物の元となる塗装をやめて、プラスチックの素材感を生かしたデザインとしました。また、日立の高機能な掃除機は、メタリックな質感のホットスタンプで「HITACHI」ロゴをプリントしているモデルが多いのですが、このホットスタンプも再生時には異物になるため、PV-BH900SKはあえて凹凸のみでHITACHIロゴを刻印しています。

  • 環境配慮モデルであるPV-BH900SKのヘッド(写真右)と、同じ仕様で再生プラスチックを使っていないPV-BH900K(写真左)のヘッドを比較。PV-BH900Kは表面が塗装されており、ロゴが金属のようなホットスタンプで刻印されています。PV-BH900SKは本体のロゴも凹凸のみで表現

リサイクル材を使っても価値を損ねない家電デザイン、可能な限り不純物を除いた高品質なリサイクルプラスチックの製造、そして廃棄・回収後にリサイクルしやすい素材――。PV-BH900SKは日立の掲げる「循環型モノづくり」をわかりやすく体現した製品といえるでしょう。家電は性能やデザインなど「自分が必要なもの」に目が行きがちですが、「リサイクルしやすいか」「環境に配慮しているか」といった視点からも眺めてみてはいかがでしょうか?