家族経営協定とは? 必要な理由

「家族経営協定」とは、家族ぐるみで農業をする経営体の中で、その農業経営の方針や役割分担、就業環境や条件について、家族みんなで話し合って取り決めるものです。「協定」といわれると法律や形式にのっとった堅苦しいものなのかと思う人もいるかもしれませんが、実は型にはまった様式はありません。一度決めたら変えることが難しいものでもなく、家族の状況が変われば協定の内容も柔軟に変えていくことが可能です。

その具体的な内容として、農業経営の方針や労働時間、役割分担、報酬などについて取り決めをすることが多く、中には経営者夫婦の家事や育児の分担について明確に決める家族もいます。さらに、どのように次世代に経営を移譲するかなどを決める場合もあります。
家族経営では、仕事と家事との境界線もあいまいでワークライフバランスがとりづらいことや、業務の範囲や時間、報酬の規定などの就業条件が明確でないことなどが課題としてよく挙げられます。協定を結んで役割分担などを明確に取り決めておくことで、家族内で不満やストレスをため込むということが避けられるかもしれません。

重要なのは、「農業経営を経営主だけでなく、配偶者や後継者にとっても、魅力的でやりがいのあるものにする」こと。協定を結ぶことの意味は、家族全員が農業経営に対して主体的かつ意欲的に参加するきっかけとなることにあるでしょう。家族全員がその能力を発揮できれば、家庭生活が円満になるだけでなく、農業経営体としても円滑に運営できるようになるはずです。実際、妻が経営に関わるようになって収益が上がった例も多く見られます。
そのような効果を生むためには、協定の締結の際に家族全員が話し合いに参加して率直に意見を出し合うことが必要です。

ライフステージごとの家族経営協定の内容(より)

家族経営協定を結ぶことの制度上のメリット

家族経営協定の締結数は年々増えており、2023年3月31日現在の締結農家数は全国で6万戸あまり。農業経営体自体は減少している中で、10年前の2013年に比べ約7500戸も増加している背景には、そのメリットに関して認知が高まっていることがあるでしょう。
また、家族経営協定を締結することには制度上のメリットもあります。そのメリットを四つご紹介しましょう。

夫婦で新規就農する場合、経営開始資金が1.5人分に

経営開始資金とは、就農時の年齢が49歳以下の認定新規就農者に対して年間150万円の支援金を交付する国の補助事業です。夫婦ともに就農して認定新規就農者となり、家族経営協定を締結する等により共同経営者であることが明確な場合、夫婦合わせて1.5人分の交付を受けることができます。

経営発展支援事業でのポイント加算

経営発展支援事業は国の補助事業で、就農時の年齢が49歳以下の認定新規就農者に対して、就農後の経営発展のために都道府県が機械・施設等の導入を支援する場合、都道府県支援分の2倍を国が支援するというもの。この支援を受けるためには事業の取り組みについて計画を提出し、採択される必要があります。採択はポイント制で行われ、ポイントの高いものから採択されます。
家族経営協定で、農業経営の方針や農作業の役割分担などについて書面で締結している場合には、その配分ポイントが加算されるので、採択につながりやすいといえます。

ただし、経営開始資金及び経営発展支援事業にはさまざまな条件がありますので、詳しくはこちらのページで確認してください。


認定農業者制度での共同申請ができる

認定農業者制度とは、市町村が示す農業経営の目標に向けて経営改善を進めようとする農業者が提出する計画(農業経営改善計画)を市町村等が認定する制度です。家族経営協定を締結しており、一定の要件を満たしている世帯であれば、夫婦等が連名で計画を提出(共同申請)することができます。共同申請した経営主の配偶者や子などにとっても共同経営者としての地位や責任が明確になり、それぞれの役割に基づく経営改善への取り組みの促進が期待されるなどのメリットがあります。また、共同経営者として自分の意見が言いやすくなり、より積極的に経営に関われるようになります。

農業者年金保険料に一定割合の国庫補助が受けられる

農業者年金は、個人事業主の農家が任意で加入できる年金です。これに加入している農家と家族経営協定を締結して経営に参画している配偶者や子・孫は、農業者年金保険料の一定割合の補助が受けられます。補助割合は、35歳未満が5割、35歳以上が3割。保険料補助を受けられる期間は通算で最長20年間、そのうち35歳以上の加入期間は10年が上限となります。
ただし、経営主である農家が認定農業者で、かつ青色申告で納税しているなど、さまざまな条件を満たす必要があります。

家族経営協定を結ぶには

家族経営協定を結びたいと思っても、どうすればよいのかわからないという人も多いのではないでしょうか。

まずは、他の家族がどのような協定を結んでどのような効果を出しているか、事例集を見て参考にすることから始めてみましょう。農林水産省のホームページには、過去の締結事例が多く掲載されています。

とりあえず夫婦間で話し合うことから始めたいという人は、話し合いのツールとなるガイドブックに沿って進めてみるのはどうでしょうか。公益社団法人日本農業法人協会が公開している「」では、夫婦向けの家族経営協定締結のためのチェック項目や、ライフステージを見据えた生活設計表などの書き方が紹介されています。夫婦で話し合いながらこれらの項目について考えることで、農業経営の方針や家族の将来の姿が明確化されるような設計になっています。

締結に際しては、第三者の立ち会いが望ましく、家族経営協定に関する相談は、各地の自治体やJAでも可能ですので、まずは普及指導員やJA職員などに声をかけてみましょう。

家族経営協定は働きやすい農業現場づくりの第一歩

家族経営協定の締結によって、農園主の妻の意見が農業経営に反映されるようになり、女性の働きやすい農業現場づくりにつながったという事例もあります。今は家族経営でも、将来的には従業員を雇用して規模拡大を図ることもあるでしょう。その際に、多様な人が働きやすい職場になっていることは人材の確保のために非常に重要です。

また、将来的に後継者となる子とともに家族経営協定を結んでおくことも、子にあらかじめ経営者としての自覚を持ってもらうことにつながるでしょう。どの段階で経営移譲するのかを明確化しておけば、それに向けて準備をしていくことも可能です。
日本の農業経営体はまだそのほとんどが家族経営。その家族経営が持続可能であることが、農業界全体を持続可能にすることにつながります。農業に関わる人々が農業を続けていきたいと思える環境を作るために、まずは家族経営協定について考えることから始めてみてはいかがでしょうか。