農業における天地返しとは?

天地返しとは、農業分野で用いられる技術の一つで、耕地の表層(表土)と深層(下層土)を入れ替える作業のことです。
主な目的は、表層の土に存在する菌や放射性物質、雑草の種などを取り除き、土壌の健康を改善することです。

ただ、天地返しは行えばいいというものではなく、いくつかの点に注意する必要があります。深層の土は栄養が不足していることが多いため、表層と入れ替えた後には、新たに肥料をまく必要があります。土壌の栄養バランスを保ち、作物の成長に必要な環境を整えてあげましょう。

天地返しを行うことで得られる効果

天地返しは、農業において多くの利点をもたらします。特に、冬の寒さを利用して行うこの作業は、越冬を試みる害虫や雑草の根、さらには土壌病害を引き起こす病原菌を効果的に退治することができます。これらの有害生物は寒さに弱いため、土を掘り返して露出させ冷たい空気に当てることにより、自然な方法で駆除することが可能です。

また、天地返しは土壌の均一化にも寄与します。前回の耕作で使用された堆肥(たいひ)などが土の深層に蓄積されていることがありますが、天地返しによってこれらを表層に移動させることができます。これにより、土壌の栄養分を均等に分布させ、作物の成長に適した環境を作り出すことが可能になります。

歴史的な事例として、江戸時代の富士山噴火の際には、火山灰によって農作物が育たなくなる事態に直面しました。このとき、天地返しを行うことで土壌の状態を改善し、農作物の生育を再び可能にしたという記録があります。このように、天地返しは自然災害による土壌の問題に対処する手段としても有効であることが証明されています。

雑草が生えたまま天地返しを行っても良い?

雑草が生えたまま天地返しをすると、除草と施肥の両方の役割を効果的に果たすことができます。雑草をすき込むことで、地中の微生物が活性化し、有機物の分解が促進されるので、緑肥として使えるというわけです。

ただし、雑草のすき込みは、約10cm以下の若い雑草のみです。成長が進んだ雑草はうまくすき込めないのと、分解に時間がかかるので、手で抜いてしまいましょう。
広い面積で天地返しをしようとすると、プラウや耕運機が必要になりますが、小さな畑や家庭菜園では、くわやスコップなどの手作業で十分です。

・連作障害の予防
・土壌環境の改善
・病害虫の予防

それぞれ詳しく解説しますので、ぜひ参考にしてください。

連作障害の予防

連作障害は、同じ種類の作物を繰り返し同じ土地で栽培することによって、土壌の栄養バランスや微生物の活動が崩れ、作物の成長に悪影響を及ぼす現象です。この問題に対処する一つの方法として、天地返しが有効です。天地返しをすることで、連作障害の予防につながります。
なお連作障害になりやすい野菜には、特にナス科、ウリ科、マメ科、アブラナ科などがあります。

土壌環境の改善

土を入れ替えることで、微生物が活性化し、これが土壌の団粒構造の形成を促進します。団粒構造とは、土の粒子が小さな塊を形成することで、土壌がより通気性と排水性に優れた状態になることをいいます。これにより、根の成長が促進され、作物が育ちやすくなります。

また、天地返しによって、植物が吸収できる無機態窒素も形成されます。土壌中の有機物が微生物によって分解される過程で、植物が利用しやすい形の窒素が生成されるのです。この無機態窒素は、作物の成長に必要とされる主要な栄養素の一つであり、作物の健康な成長に不可欠です。

病害虫の予防

天地返しを行うことで、深層に潜む病原菌を土壌表面に持ち上げることができます。そして、冷たい空気にさらすことで、病原菌を効果的に退治することが可能です。冷気は多くの微生物にとって厳しい環境を提供し、特に土壌中の病原菌に対しては致命的な影響を与えることができます。

天地返しのデメリット

ここでは天地返しをすることのデメリットを三つ紹介します。

・コストや労力が大きい
・土壌の劣化や硬化
・時間の制約

それぞれ詳しく解説しますので、ぜひ参考にしてください。

コストや労力が大きい

手作業で天地返しを行う場合、その作業は非常に労力を要します。大きな畑や広範囲にわたる土地では、土を掘り起こし、入れ替える作業には膨大な時間と体力が必要です。特に、土壌が硬い場合や大きな土地を耕す場合には、この作業は特に困難になります。

一方で、プラウや耕運機などの機械を使用する方法もありますが、これらの機械は高価であるため、購入やレンタルには相応のコストがかかります。小規模な農家や家庭菜園を運営する場合、このような機械のコストは大きな負担になる可能性があります。

土壌の劣化や硬化

深層の土は通常、肥料が行き届いていないため、天地返しを行った後、新たに肥料をまく必要があります。
また、表層の土は柔らかいことが多いですが、深層の土は湿って硬くなっていることがあります。

さらに、プラウなどの機械を使用する場合、トラクターが土壌を走ることによって土壌が圧迫されることがあります。これによって、表層の土壌が固くなることがあり、土壌全体の硬化を引き起こす可能性があります。土壌が硬くなると、作物が根を深くまで張るのが難しくなり、作物の成長に悪影響を及ぼすことがあります。

時間の制約

天地返しは、その効果的な実施時期が冬に限定されます。天地返しでは、病原菌や害虫、雑草の種を殺菌するために冷気を活用したり、霜に当てたりするため、冬以外の暖かい時期では効果が弱まってしまいます。

天地返しを行うときに必要な道具や機材

天地返しを行う際には、ショベル(剣先スコップ)やプラウといった道具や機材が必要になってきます。それぞれ解説していきます。

ショベル(剣先スコップ)

天地返しにおいて、ショベル(剣先スコップ)は重要な役割を果たす道具の一つです。天地返しでは、土を約30cm掘り返す必要があり、家庭菜園ではショベルを使うと良いでしょう。

ショベルの特徴として、先端がとがっており、周囲に刃が付いているため、土に差し込む際に体重をかけやすくなっています。また、柄のつけ根が支点となり、柄の長さを利用したテコの原理を活用することで、土を掘り起こす作業がかなり楽になります。

プラウ

プラウは、トラクターに連結して使用される農機具で、土地の耕作に不可欠な道具です。プラウの主な機能は、土地の深層にある土を掘り返し、表層の土や雑草と入れ替えることです。この作業により、土壌の質が改善され、農作物の生育環境が向上します。

プラウはまた、土を砕く効果も持っています。これにより、土壌がより柔らかくなり、根が伸びやすい環境が作られます。特に、硬くなった土壌を耕す際には、この土を砕く機能が非常に有効です。

さらに、リバーシブルプラウという特殊なタイプのプラウが存在します。このプラウの特徴は、往復で作業ができることです。つまり、一方向に耕した後、機械を回転させて反対方向にも耕作することができます。これにより、作業の効率が大幅に向上し、時間と労力の節約につながります。

天地返しの正しいやり方

ショベル(剣先スコップ)とプラウを使った際の天地返しの方法について解説していきます。それぞれポイントを押さえて、正しく天地返しを行いましょう。

ショベル(剣先スコップ)での天地返し

ショベルを使った天地返しのやり方は、まずスコップを土壌に押し込みます。その際、ジャンプして力をかけることで、スコップを30〜40cmほど土中に押し込むことができます。

次に、テコの原理を利用して土を掘り起こします。この際、持ち上げた土を裏返すようにして戻します。この作業を畝全体にわたって行うことで、効果的な天地返しを実現できます。

プラウでの天地返し

プラウを使った天地返しでは、トラクターに連結されたプラウが土を深く掘り起こし、上層と下層の土を入れ替えます。特に、リバーシブルプラウは、土の反転方向が異なる二つのプラウを上下に装備し、行きと帰りでプラウを入れ替えることで、表面をきれいに仕上げることができます。

プラウはすき先が土中に深く入り込み、土をほぐしながら持ち上げ、上層と下層の土を反転させることで、一般的な耕運機やショベルよりも天地返しの効果を大きくします。乾土効果が高く、堆肥やわら、稲株などを深くすき込み、腐植を促進する力も強いです。土壌環境によっては、数年間肥料を与えながら天地返しを続けて、土壌を改良していくと良いでしょう。

ぜひ冬の間に天地返しを!

天地返しは農薬を使わずに雑草の種や病害虫を防除できるので、家庭菜園など農薬を使いづらい、使いたくないという環境でもおすすめの方法です。

土を深くまで掘り返さなくてはいけないので、確かに労力はかかります。ですが翌年の春に生えてくる雑草の量や病害虫などのトラブルが格段に減るので、何かと困っているという人にはぜひ試していただきたい防除方法です。

家庭菜園で天地返しを行う場合、プラウなどの特別な道具は必要ありません。ショベルや小型の耕運機などでも十分に土を掘り返すことができますので、本記事を参考にして、ぜひ冬の間に挑戦してみてください。