多子世帯の大学授業料無償化が話題になっています。大学などの入学金や授業料を所得制限なく無償化する方針ですが、扶養の子どもが3人以上いることが条件となっているため、3人兄弟の場合、第1子が就職などをして扶養から外れると対象外になるなど、制度設計が問題だとする声も多く聞かれます。教育費の中で一番かかるとされる大学の費用が無償化されることは大きなメリットですが、そこまでの教育費も無視できません。また教育費以外の養育費も考えなければならないでしょう。そこで、子どもが3人いたら、養育費+教育費で総額いくらかかるのか試算してみました。

  • 子ども3人いると子育て費用はいくらかかる?

    子ども3人いると子育て費用はいくらかかる?

多子世帯の大学授業料無償化

まず簡単に、現時点でわかっている政府の方針をまとめます。政府は少子化対策の一環として、3人以上の子どもを扶養する「多子世帯」を対象に、2025年度から所得制限を設けずに、大学、短大、高専(4・5年生)、専門学校の授業料と入学金を無償化する方針を示しました。

支援の上限は、国公立大学の場合、入学金約28万円、授業料約54万円、私立大学の場合、入学金約26万円、授業料約70万円です。大学4年間の総額は、国公立大学で244万円、私立大学で306万円となります。

扶養する子どもが3人以上いれば、第1子から無償の対象となります。ただし、就職などをして扶養から外れるとカウントされなくなるので、3人子どもを儲けても、歳が離れている場合は、第2子、第3子は無償化の対象外となる可能性が高くなります。

3人子どもがいたら養育費はいくらかかる?

子どもを成人まで育て上げるには、多大な費用がかかります。子育て費用は大きく2つ、「養育費」と「教育費」に分けられます。「教育費」は、学校の入学金や授業料、学用品や制服、書籍代などに加えて、塾や習い事の費用など、教育全般にかかる費用です。「養育費」は教育費以外の食費や被服費、生活用品費など、子どもの日々の生活でかかってくる費用です。

最初に「養育費」をみていきましょう。

少し古いデータとなりますが、内閣府「平成21年度インターネットによる子育て費用に関する調査」をもとに、0歳から中学卒業までの養育費の総額を計算してみると、約1298万円(それぞれの年齢の子育て費用総額から教育費を除いた額)になります。

この調査データは中学3年生までなので、高校の3年間も中学3年時とそれほど変わらないとみて、中学3年時の養育費の3年分とすると高校3年間は約287万円となります。

大学の4年間の養育費は、日本学生支援機構(JASSO)「令和2年度 学生生活調査結果」の生活費を参照してみます。自宅から通う場合と、アパートなどを借りて通う場合とでは生活費が異なるので、それぞれのケースを試算しました。

<大学4年間の生活費総額>

  • caption

    大学4年間の生活費※大学昼間部の1年間の生活費を4倍にした金額 出所: 日本学生支援機構(JASSO)「令和2年度 学生生活調査結果」をもとに筆者作成

自宅通学は154万6,000円、学寮は333万8,800円、下宿・アパートなどは443万3,600円となり、平均すると265万7,200円となりました。

これらをすべて合計して、0歳から大学卒業までの養育費を求めると、子ども1人あたり約1,850万円の養育費がかかることがわかりました。

<子ども1人あたりの養育費総額>

  • caption

    子ども1人あたりの養育費総額 出所: 内閣府「平成21年度インターネットによる子育て費用に関する調査」および日本学生支援機構「令和2年度 学生生活調査結果」をもとに筆者作成

3人の場合は単純計算で3倍としたいところですが、実際は1人目が一番お金がかかる傾向があります。0歳から2歳までの保育料は、2人目は半額、3人目は無料です。他にも、児童手当の増額、自治体による助成(出産祝金や割引など)、多子世帯向けの支援は多くあります。また、育児グッズや服、生活用品なども、兄弟姉妹がいれば使いまわすことができ、1人目に比べて、2人目、3人目は負担が減るのではないでしょうか。そのように考えて、2人目、3人目は1人目の6~8 掛けで養育費を計算してみると、子ども3人の養育費はおよそ4,000万円~4,800万になります。

3人子どもがいたら教育費はいくらかかる?

さて、ここまでは養育費で教育費は入っていません。教育費は幼稚園から高校までは文部科学省「令和3年度子どもの学習費調査」を、大学の学費は文部科学省「国公私立大学の授業料等の推移」と「令和3年度私立大学等入学者に係る初年度学生納付金平均額の調査結果について」をもとに計算してみます。

*幼稚園から高校までの教育費

まずは、幼稚園から高校までの教育費をみてみたいと思います。公立と私立では学費が大きく異なってくるので分けています。「学校教育費」は、入学金や授業料、制服、通学費など、学校に通うために必要な費用、「学校外活動費」は、塾や習い事など学校外の費用です。なお、学校教育費は幼児教育無償化や高校授業料無償化によって減免されたあとの金額になっています。

<子ども1人あたりの幼稚園から高校までの教育費>

  • caption

    子ども1人あたりの幼稚園から高校までの教育費 出所: 文部科学省「令和3年度子どもの学習費調査-結果の概要」をもとに筆者作成

幼稚園から高校まですべて公立の場合は約574万円、すべて私立の場合は約1,838万円かかります。実際は、幼稚園のみ私立、その他は公立に進むパターンの約620万円や、幼稚園は私立、小学校は公立、中学、高校は私立に進むパターンの約1,050万円が多いように思います。各々の進学コースによって試算してみてください。

*大学の教育費

最後に大学の教育費です。国立と私立(文系・理系)に分けて、4年間の総額を出してみました。国立は242万5,200円、私立は文科系学部で407万9,055円、理科系学部で551万1,961円となりました。ちなみに公立は国立の学費がもとになるため、国立とほとんど差はないと考えていいでしょう。

  • caption

    大学の教育費 出所: 文部科学省「国公私立大学の授業料等の推移—令和3年」、文部科学省「令和3年度 私立大学入学者に係る初年度学生納付金平均額の調査結果について」をもとに筆者作成

今回の「多子世帯の大学授業料無料化」が実施されれば、4年間で国公立大学は244万円、私立大学は306万円の学費が補助されるので、国公立大学は無料、私立大学は差額分である文系で約102万円、理系で約245万円の出費で済みます。

*1人あたりの教育費総額

ここまでの試算を使って、1人あたりの教育費の総額を出してみましょう。公立と私立では教育費はかなり異なってくるので、進学コース別にして総額を出してみました。これ以外にもパターンはあるので、各自の進学コースに従って総額を出してみてください。

  • caption

    1人あたりの教育費総額 ※四捨五入して万円単位で表示

*3人いれば教育費は3倍かかる

養育費の場合は、子どもが3人いても、単純計算で3倍にはなりませんでしたが、教育費の場合は、3人いれば(一部兄弟割引などもありますが)、3倍と考えて差し支えないでしょう。兄弟姉妹で進学コースは変わってくるので、それぞれケースで計算してほしいのですが、一番かからないすべて国公立のコースに3人が進めば約2,451万円、一番かかるすべて私立(理系)のコースに3人が進めば約7,170万円となります。ここでは省いていますが、医学部や歯学部、芸術系などの大学はさらに学費がかかるでしょう。

大まかに、3人子どもがいた場合は、教育費は2,500万円~7,200万円程度かかると見積もることができます。

3人の子どもを育てる費用の総額は?

養育費と教育費を足した子育て費用の総額は、子ども1人あたり、養育費が約1,850万円、教育費が約817万円~2,390万円なので、総額は約2,667万円~4,240万円となりました。

子どもが3人いる場合は、およそ6,500万円~1億2,000万円となります。

大学授業料無償化で教育費の負担はいくらか減るものの、総額を出してみることで、子育て費用の膨大さを改めて感じます。

多子世帯の大学授業料無料化の効果

多子世帯の大学授業料無料化が実施されれば、私立大学の場合、1人あたり306万円の支援が受けられ、3人全員が対象となれば、918万円の支援となります。3人全員が対象となるには、3つ子で産むしかなく、年子で3人産んだとしても4年間無償になるのは第1子だけで、第2子は3年間、第3子は2年間だけ無償です。このように実際は、3人以上の世帯でも対象となる期間は限られ、充分な支援とはいえないでしょう。

前出の大学の教育費で示したように、私立大学の費用は無償化されても、差額は自己負担となります。また、自宅から通えない場合は、住居費や生活費も工面しなければなりません。対象となれば、無償化による教育費の負担軽減は大きいものですが、それでも教育費全体をみると効果は限定的といえそうです。

*2人世帯と3人世帯の子育て費用

ここでシミュレーションをしてみたいと思います。現在子ども2人の世帯で、3人産むことで大学の授業料が1.5人分無償化されるとします。2人では子育て費用が5,500万円かかり、3人になると8,000万円になりますが、大学授業料無償化で306万円+166万円=472万円が軽減されるので、7528万円になります。結果、2人から3人になることで、2,000万円ほど負担が増えます。仮に3人全員無償化されたとしても、3人産むことで2人よりも子育て費用が減ることはないと思って間違いないでしょう。もちろん、子育てをこのようにお金の面だけでみることは大きな間違いです。しかし、子育てにかかる費用を知っておくことは、ライフプランを立てる上で大いに役立ちます。