鉄道趣味に特化した手帳シリーズ「鉄道手帳」の2024年版が現在発売されている。詳細な路線図と充実した資料が人気の手帳で、過去に『タモリ倶楽部』で3度紹介されたという。実際に使ってみての雑感や、発行元の創元社に取材した内容も踏まえ、「鉄道手帳 2024」をレポートする。
「鉄道手帳 2024」はインターネットおよび書店等で販売されており、北海道在住の筆者は創元社のサイトから購入。2~3日ほどで自宅に到着した。定価は1,540円(税込)。硬券にタイトルが印刷され、「銀釜」の愛称で親しまれるEF81形300番代を表紙写真に採用している。表紙だけでも、鉄道好きの心がくすぐられるだろう。
■テレビも注目! ファン心理をくすぐる路線図とスケジュール欄
ページを開くと、まず路線図が登場する。路線図自体は通常の手帳でも見られるが、「鉄道手帳」シリーズの路線図は全国の鉄軌道事業者の駅・停留場に加え、信号場や貨物駅なども掲載され、より詳細な内容となっている。路線図のこだわりについて、創元社の担当者に聞くと、「通常の手帳はもちろん、時刻表との差別化も意識してとにかく全停車場を掲載することにした」とのことだった。
手帳として最も重要なページでもあるスケジュール欄に移ると、じつはここにも工夫が凝らされている。年間予定、月間予定、週間予定の順でそれぞれ記入できるようになっており、多忙な日々を送る人でもスケジュール管理が一目瞭然でわかりやすい。それだけでなく、マンスリーページ(月間予定)にアニバーサリーイヤーを迎える路線や車両が記載され、ダイアリーページ(週間予定)ではその日に起きた鉄道に関する出来事が紹介されている。
創元社の担当者によれば、スケジュール欄はユーザーの声を参考にしながら何度も改良を重ねてきたという。創刊当時、1ページごとだったダイアリーページは、「スケジュール欄が小さくてあまり書き込めない」との意見を受け、思いきって見開きに。ページ数が倍増するとコストもかかることから、編集部にとっては大きな決断だったが、好評を博した。
鉄道趣味に特化した手帳を作ろうというアイデアは、どのように生まれたのだろうか。創元社のサイトを見ると、「手帳売り場を歩いていたら『天文手帳』や『京都手帖』が目に留まり、鉄道ファンのためのダイアリーがあったら面白いと思った」と記されている。2008年当時の創元社は鉄道関連の書籍を一切出版していなかったため、売上予想が難しく、企画会議での反応も芳しくなかったという。しかし社長の理解もあって企画が通り、発売後も毎年、改善を重ねていった。
2013年、シリーズにとって大きな転機が訪れる。テレビ朝日系列で放送された深夜の人気番組『タモリ倶楽部』(2023年に番組終了)で「鉄道手帳」が紹介されると、Twitter(現・X)で瞬く間に「鉄道手帳」関連の投稿が増えた。注文が急増した結果、初めての品切れも経験。その後、2014年と2022年にも『タモリ倶楽部』で紹介され、そのたびに重版となった。創元社の担当者も、「『鉄道手帳』が続けて出せているのは、『タモリ倶楽部』によるところが大きいと思う」と振り返る。
■40ページを超える資料編、ウェブのアーカイブ「鉄道手帳WEB」も
「鉄道手帳」シリーズにおいて、最も大きな特徴は、鉄道に関連する資料ページである「資料編」を毎年収録していることである。現在は鉄道ライターの来住憲司氏が監修を担当。豊富かつ詳細な資料で、ユーザーを毎年楽しませている。
2024年版では、毎年更新し続けているコンテンツに加え、全国のJR各社・大手私鉄における昭和生まれの車両一覧と、2024年に開業60年を迎える新幹線の略史を掲載した。
前者は蒸気機関車・電気機関車から電車に至るまで、全国に残る昭和生まれの車両の製造初年や動力方式、制御方式などを網羅。解説文も掲載されているため、車両への知識も深めやすい。後者は東海道新幹線が着工される前から開業に至るまでの歴史はもちろん、開業後に登場する車両や路線の歴史も体系的に紹介。年表形式となっているため、時系列の整理が容易となっている。
これだけ膨大な資料をまとめるには、編集に相当の労力がかかるだろうと想像し、編集に要する時間を担当者に聞いてみた。編集作業は5月後半から8月後半にかけて集中的に行うが、他の仕事と同時進行のため、その年の手帳が発売された頃から情報収集を始めているとのことだった。
「鉄道手帳」が持つもうひとつの大きな特徴は、この資料編ページがウェブにアーカイブされていることである。創元社が運営する「鉄道手帳WEB」では、これまで「鉄道手帳」で収録してきた15年分の資料編アーカイブや路線図を閲覧可能。「鉄道手帳 2024」に記載のURLまたはQRコードからアクセスし、簡単なユーザー登録を行えば、1年間無料でアーカイブを見ることができる。
鉄道好きにとって非常に有益なこのサービスを始めた理由は、大きく3つあるという。1つ目は、手帳に拡張性を持たせるため。「鉄道手帳」のページ数をこれ以上増やすことはできないが、付加価値をプラスするためにウェブを活用しようと考えた。これにより、たとえば紙幅の都合等で手帳本体への再掲載が難しい、過去の膨大な資料を公開することもできる。
2つ目は、路線図や資料などの小さな文字を自由に拡大できること。老眼のユーザーには厳しかった小さな文字も、ウェブなら自由に拡大して読むことができる。
そして3つ目は、手帳自体が値上げしていること。工夫と努力で価格を据え置いてきたが、用紙代の高騰など物価上昇の煽りを受け、値上げせざるをえなくなった。値上げだけでは読者に申し訳ないため、追加のサービスとして始めた部分もあったという。
■読者とともに作り上げてきた「鉄道手帳」、今後の展望は
「鉄道手帳」は2008年に発売されて以降、人気の手帳シリーズとなり、鉄道ファンを中心に注目を集めている。創元社の担当者に今後の展望を聞いてみたところ、「身の丈に合った改善を進めたい。ビギナーの存在を意識しつつ、『鉄道手帳』ならではの資料を掲載するよう心がけ、ユーザーが毎日鉄道にどっぷり浸かれるような手帳をめざす」と答えてくれた。
担当者の言葉からは、長年にわたり「鉄道手帳」を続けてきたからこそのアイデンティティを大事にしつつ、新しいことを積極的に取り入れていく革新性もあわせ持つ姿勢が感じられた。その歴史において、ユーザーの役割が大きいこともうかがえた。
この手帳とともに、2024年を「鉄道漬け」にする予定を立ててみてはいかがだろうか。