「世界展開を見据えたブドウ育種」ワークショップとは

今回開催されたのは「世界展開を見据えたブドウ育種」のワークショップ。ノウタスが進める「パープルMプロジェクト」リーダーの村上信五(むらかみ・しんご)さん、長野県のブドウ農家で、実際に育種も行っている牧壮一さん、そしてブドウマニアの少年Bさんが登壇しました。

集まったのは北海道大学に通う大学生・大学院生たち約20名。さらに、ニッセンレンエスコートのメンバーがオブザーバーとして参加しました。学生メンバーの参加動機は「ブドウが好き」「おもしろそうだったから」「研究内容と近いところがあったから」など、さまざまでしたが、ワークショップが始まるとみなさん興味津々。

あいにくの大雪で、スタートが遅れるハプニングもあったものの、会場となったフード&メディカル・イノベーション国際拠点には熱気が籠もっていました。

少年Bさんによるブドウ語り

まずは少年Bさんが「ブドウにハマったきっかけ」について語りました。

「わたしは『デラウェア』というブドウがあまり好きじゃなかったんです。味はおいしいんですが、小粒で食べづらい。まとめて口に入れたときに、花のカスが一緒に混ざっていて、苦かったり。でも、初めてブドウ狩りに行った先で、デラウェア風味で食べやすいサイズの『サニールージュ』というブドウと出会って、こんなに食べやすいデラウェア風味のブドウがあるのか!と驚いたんです」
続けて、ブドウの特徴についても説明します。

「ブドウは品種によって味や香り、色、形、食感などがまったく違うんです。ブドウの品種ごとにさまざまな個性があるため、品種改良のしがいがある果物だと思います。今は『シャインマスカット』の子どもたちもたくさん生まれているんですよ」

最後に、実際にブドウ農家を回った先で見聞きした「ブドウ育種の方法」についても話してくれました。

「大体の場合、親品種の特性をもとに『この品種とこの品種を掛け合わせれば、こういう品種ができるだろう』という考えで、交配の組み合わせを考えている農家さんが多いようです。ただ、シャインマスカットの親になった品種は育種に精通している方々が『こんな掛け合わせは考えたこともなかった』とおっしゃっていたので、時には常識にとらわれないことも必要かもしれません」

参加者は時にうなずきながら、真剣に話を聞いていました。

ブドウ農家が栽培の現状について説明

続いては実際に長野県でブドウ農家として働く牧壮一さんが実際のブドウ栽培についての話や、栽培者・消費者に好まれるブドウ品種について語りました。

「今はもう、『皮をむかなきゃ食べられないブドウ』はまったく見向きもされません。巨峰とシャインマスカット、どちらが食べたいですか?と聞くと、9割以上のお客さんがシャインマスカットと答えるんです」

また、農家が直面する問題についても。

「農家にとって、一番大変なのはブドウの皮が割けてしまう『裂果』です。これが起こってしまうと、房としての商品価値がなくなってしまうだけでなく、他の粒に果汁がついてしまったり、そこからカビが生えてしまったりと、手間も時間も大きく取られてしまいます。」

さらに、牧さんは栽培者視点から優秀なブドウ品種を紹介。

「私が思う、現在もっとも優秀なブドウ品種は『富士の輝』というブドウです。種なしで、皮ごと食べられて、何といっても粒が大きい。粒が大きいと、それだけ価格も高くなる。ブドウ農家としては、やっぱり大粒であることが大事だと思います。」
そして最後に、「パープルMプロジェクト」リーダーの村上信五さんが「パープルMプロジェクト」の概要を説明。

「僕は素人ですが、この農業の世界を何とかしたいと思っています。シャインマスカットの苗木流出など、調べれば調べるほど、大きな問題が起きていることがわかりました。素人だけど、牧さんや少年Bさんたちに教えてもらいながら、一緒に考えていきたいと思っています。そこで、今日はみなさんにも一緒に考えてもらえればと思います!」

村上さんの熱い呼びかけに、参加者のみなさんも引き込まれていくようでした。

発表を踏まえたディスカッション

3人の発表を踏まえたディスカッションでは、欠失型ゲノム編集技術の可能性や、ラボにおける成長環境の構築、栄養成長期間の短縮方法、裂果の原因となる遺伝子の特定は可能か、などさまざまなテーマで議論が交わされました。

学生同士、自身の行っている研究テーマの知識を基に、「実現可能性があるか」「どのような手法が考えられるか」などの意見を出し合い、時には担当教授が間に入り、手法の説明や実現可能性の有無についてアドバイスすることも。

ディスカッションを終えると、ブドウ育種チームを立ち上げたノウタスを中心に、主催三者は従来の育種技術と最新のバイオ技術を融合させた新たな育種の研究を続け、北海道におけるブドウの研究開発を見据えていくと力強く発表しました。
その後、打ち上げを兼ねた食事会が行われ、ワークショップの感想や、さらなる質問などが飛び交いました。

参加者からは「普段行っている研究の活用について、実際に現場で活動されている方々と話ができて非常に良い学びの場となった」「ゲノム、再生医療、育種、エンターテインメントなど、業界のエキスパートの視点での話が聞けて、とても刺激的だった」「普段交流することが少ない他学部の学生ともディスカッションできて楽しかった」などの感想が届きました。

ノウタス×北大のワークショップは今後も開催

ノウタスと北海道大学は今後も定期的にワークショップを開催し、議論を続けていく方針です。この取り組みから、今後新たなブドウ品種が生まれる可能性もあり、その行く末からは目が離せません。

また、ノウタスとニッセンレンエスコートについても、今後はノウタスの農業サービスと、ニッセンレンエスコートの地域金融ノウハウを活用し、新たな農業関連サービスを共同開発するとのこと。北海道における農業関連事業者のチャレンジを支援し、地域の魅力向上と経済の持続的な成長に寄与していくとしています。