前編は
間接輸出と直接輸出
伊藤:私は最初、直接輸出をやろうと思っていました。直接現地のバイヤーさんとコネクションを作って、口座を作ろうと考えていたのですが、すごく難しくて。コロナ禍を機に間接輸出にシフトしました。サプライチェーンという名の販路がもともとあるので、それに乗っかるのが正直1番やりやすいなと感じます。
大吉:そうですね、1玉100円のキャベツを1個売るのに、飛行機に乗っていくわけにはいきませんから。「イチから」だとなかなか大変。商談会も言葉の壁がありますし。
内藤:私も個人的には、多くの量を扱わないなら間接輸出が正解だと思います。うちは「とにかくボリュームを増やしていこう」と思っているので直接輸出をやっていますが、結局、本質はいいものをちゃんと作ること。慣れない貿易に、みんながリソース(資源)を投下して苦労するくらいなら、いいものをとことん良い価格で海外向けに作る生産者と、それをしっかり責任を持って売るバイヤー間で分業が生まれるのが自然かなと思います。
輸出のメリットの一つは価格の安定性
――丸山さんは、最初直接シャインマスカットを香港に持っていってみたんですよね。
丸山:2010年に香港で開かれたフード・エキスポ に出展しました。就農直後だった私は「輸出はすごいもうかる」というイメージを持っていたんですよ。今もそのイメージを持っている方は多いかもしれません。でも今は、輸出は販路の一つであると思ってやっています。価格があまり変わらない点はメリットだと思います。
大吉:私も輸出では価格の安定性がすごいありがたいと思っています。国内だと、買いたたかれるようなレベルで市場に流通する場合もありますが、輸出は“キャベツ1玉の値段”を決めたら絶対に崩れません。経営の安定感を図るための手段でしたね。青果物は傷みやすいというリスクもありますが、フレッシュなものを求めるお客様もいます。売り場がある以上は、私たちは続けていく価値のある売り先だと思っています。
佐藤:私はまだ「輸出は取引先の一つ」という考え方です。土台を作りながら規模を拡大していきますけれど、輸出でも国内と販売単価は変えてません。
内藤:輸出って、国内と比べて良いときもあれば、それほどでないときもありますよね。ただ産地全体を見ると輸出が良いと思うときもあります。特に青森県のリンゴは多く輸出されてますよね 。輸出によって潤っている例だと思います。もう一つ、うちが輸出を重要視しているのは、今後もっと伸びていくと考えているため。販路を持っていれば、お客様の数が増えなくても注文量が増えることもありますし、輸出は規模が増えるとメリットが大きいと思っています。
輸出トラブルあるある
――みなさんは輸出でトラブルはありましたか。
大吉:3月の暖かい雨の日に、どうしても出荷しなければならなくて収穫したのですが、商品の状態が悪いというクレームが入ってしまったことがあります。自分としても反省点が多い収穫で、悪天候が続く時期は断る勇気も必要だなと感じました。
丸山:僕は会社設立初年度に、台湾向けに送ったコンテナが残留農薬で出せなかったことがありました。でもそこで「台湾向けの基準で作ればどこにでも出せる」ことがよく分かって。翌年からグローバルスタンダードに合わせた農薬散布をするようになりました。結果的にはすごく良かったですね。
内藤:うちも虫が見つかってくん蒸処理をすることはけっこうあります。でもそういうことは貿易にはつきもの。残留農薬の対策は国内でできますが、虫は国内でどれだけチェックしても一定の確率で発生してしまうので。あとはサツマイモなどのように、水洗いが必要だと輸出先でカビが生えてしまうこともあります。それは仕方がないことだと思いますね。
佐藤:国内と違って輸出だと絶対に出荷日が決まるじゃないですか。だから大雨の日であっても出荷が避けられません。けど、そこのリスクは絶対生産者が持つべきではないと思っているんです。今は取引業者にリスクを持ってもらう形でやっています。
伊藤:米粉を台湾に輸出したことがあります。シフォンケーキやパンに使ってもらうつもりで輸出したのですが、米粉=お米として輸出すると、税金が高くなって、なかなか売れないんです。台湾は基本的には自国の農家を守らなければいけないので、海外のお米は輸入障壁が高いんですよ。ケーキ用のミックス粉としてカテゴリーで通してもらえると安くなるんですが……最初はそこがわからなくて失敗しましたね。
今後どのように輸出に取り組むか
――今後みなさんが輸出にどう取り組んでいこうと思っているかを教えてください。
丸山:僕らが生産しているブドウは嗜好品です。人口が減少していく日本で売っていくだけではなく、海外を視野に入れて川上の生産からしっかり作っていくことを念頭に置きながらやっていこうと思っています。
大吉:今はキャベツをメインに輸出していますが、キャベツ、ケール、カボチャときて、今サツマイモも輸出が始まっています。自分の農産物の作り方を他の生産者へ横展開して生産量を増やすことが、輸出の総出荷数量の伸びしろにつながると感じています。また今後は有機農業も学び、有機栽培あるいは減農薬栽培と慣行栽培のハイブリッドで、もっと品質が良くてしっかりとした農産品を出していきたいです。
伊藤:うちは「お米」「米粉」「米加工品」の輸出の3本柱でいくと思います。海外では米粉をどう使えばいいのかが知られていないので、まず加工品を販売して販路を広げながら米粉も売っていこうと考えています。お米については海外と同じ価格で売れるようなお米を国内で作っていこうと思っています。
佐藤:私は青果での輸出は限りなくゼロにしようと思っています。力を入れたいのは一次加工品のペーストやパウダー。日本だと洋菓子や和菓子、コロッケやカレーなど、いろいろ使われていますが、そういう食事が香港やシンガポールでももし出てくるなら、その原料に使って欲しい。あとは北米で有機の冷凍焼き芋がハマればと思って今動いているところです。
内藤:私たちは基本的にはリンゴの輸出を伸ばすため、生産、選果、販売それぞれでやれることを確実にやっていこうと考えています。今後はリンゴで培った販路や生産方法を他の品目に展開していきたいです。これからも輸出はチャンスがありますが、それをモノにするためには川上で変えなければならないこともありますし、それなりに時間かかるので、愚直にやるべきことをやっていこうと思っています。
幸畑:今日みなさんの話を聞いて、最初の第1歩がかなり難しいのかなと感じました。僕も8月に海外の業者と直接やりとりをしていましたが、やっぱりうまくいかなかったので、間接輸出の方法でやってみようかなと思いました。とりあえず一歩踏み出したいというのが1番です。「日本の栗ってこんなにおいしくて、いろんな使い方ができるんだな」と思ってもらいたいですね。
輸出に挑戦する人へのメッセージ
――最後に、輸出をしようと考えている人へのメッセージをお願いします。
内藤:1回やってみることが大事だなと思っています。1個の挑戦から伝播(でんぱ)して、産地全体で輸出のチャンスをつかめると、その産地はめちゃくちゃ良くなります。我々もそういう産地を一緒に作っていきたいと思っているので、みんなで1歩ずつ進んでいきましょう。
佐藤:よく他の農家さんから「輸出ってすごいもうかるよね?」と言われます。でも僕はいつも「国内のスーパーや消費者への商流をしっかり組めないと、輸出なんか無理だよ」って答えるんです。例えばJAや市場にただ持っていくだけで「そっちの単価が低いから輸出しようかな」というのでは難しいと思っています。あとは、海外に売ったら高く売れるわけでもないし、日本産だから売れるというわけでもありません。国内でしっかり販売できる品質や体制の構築が大前提ですね。
伊藤:私も、まずは国内できっちり売ることが必要だと思います。それは商品の良さや、売れる商品かどうかよりは、サプライチェーンも含めたいろんなパートナー作りを国内で行うこと。そのパートナーが、きっと海外で売る時にもアドバンテージになります。
大吉:まずは品質重視で作ることを目標にして、国内でしっかり売れる商品作りを確立させてから、海外にチャレンジするのがいいと思います。「日本の代表として出す」という心づもりで生産に取り組んでいただければ、輸出の未来は明るいと思います。そして私たちの農産物と一緒に輸出できるようなチーム作りや、今後の輸出を一緒に取り組んでいくといったことができたらいいな、と思っています
丸山:みなさんと同じく、一緒に努力して一緒に頑張っていきましょうと伝えたいです。ある一定の当然超えるべき品質をクリアしつつ、ほかにも生産者側でできる努力がたくさんあるので、そこを一緒にやっていけたらなと思っています。
しっかり作るから海外で勝負できる
2時間近くにわたった、輸出について語る交流会。一様に語られたのは、きちんと生産することの重要性であり、輸出を支えてくれるパートナーの重要性でした。きちんと生産ができて国内で勝負できているというのは「海外でも勝負できるかもしれない」という前向きな要因であることは間違いないでしょう。ここで語られた苦労や工夫を、輸出という新たな販路を作るヒントにしてみてはいかがでしょうか。
(編集協力:三坂輝プロダクション)