【プロフィール(五十音順)】
■伊藤武範 さんプロフィール
株式会社ペントフォーク 代表取締役社長 通信事業会社に15年間勤めた後、2014年に輸出入の会社を設立。主にベトナム向けの輸出、輸入を行う。2016年より福井県にて農業分野に参画し、超多収米“越穂”を武器に海外向けの市場開拓、新商品開発を進める。2018年より代表取締役社長。 |
■大吉枝美 さんプロフィール
株式会社大吉農園 専務取締役 夫が祖父母の後を継いで就農したことを機に、自身も看護師を辞め就農。キャベツや枝豆など10品目以上を生産し、アジア地域への輸出にも力を入れている。GFPアンバサダー、JGAP指導員、ASIAGAP指導員、鹿児島県女性農業経営士、鹿児島県農薬指導士を務める。 |
■幸畑孫 さんプロフィール
株式会社こうはた 代表取締役 兵庫県神戸市出身。結婚を機に丹波市へ移住し丹波栗と出会う。栗の販売を経験した後に独立。現在は栗の生産・加工・販売を一貫して行う。 |
■佐藤義貴 さんプロフィール
株式会社アグリ・コーポレーション 代表取締役 大学卒業後、大阪府の会計事務所で勤務。その後、長崎県五島市に移住し株式会社アグリ・コーポレーションを創業。主に有機安納芋の生産・加工・販売を行うほか、直売所「旬の駅」も運営する。 |
■内藤祥平 さんプロフィール
株式会社日本農業 代表取締役CEO 慶應大学法学部在学中に鹿児島とブラジルの農業法人で修行。イリノイ大学アーバナ・シャンペーン校農学部での1年間の留学を経て、マッキンゼー・アンド・カンパニーに入社。日本支社の農業セクターのメンバーとして活動する。2016年11月に株式会社日本農業を設立。 |
■丸山桂佑さんプロフィール
アグベル株式会社 代表取締役 1992年山梨県山梨市生まれ。同市で60年以上続くブドウ農家の3代目。大学卒業後、大手不動産仲介会社に向けた広告営業に従事。2017年、山梨へUターンし家業のブドウ農家を継承。2020年にアグベル株式会社を設立。 |
輸出を始めたきっかけ
――みなさんが輸出を始めたきっかけを教えてください。
大吉:以前、シンガポール在住の知り合いから「ソフトボールぐらいの大きさのキャベツが1玉800円で売られている」「現地在住の日本人は、デパートで日本産の食材を数万円分も買っている」と聞きました。それで「フレッシュできれいなうちのキャベツを食べてもらいたい」と思ったのがきっかけです。最初は日本のキャベツを外に出す余地はないんじゃないかと思っていたのですが、いざ輸出してみると味や鮮度を評価してもらえて、継続的に輸出が拡大していきました。
伊藤:私はなんとなく「海外かっこいい」と思ってやったんです(笑)。誰もやっていないから、チャンスがあるんじゃないかと。ベンチャー企業のような感覚ですね。
丸山:僕は現地に行ってみた時に、この価格でこの品質のものがどうやって来てるのか、もしかしたら自分もできるんじゃないかと幻想を抱いてしまって。あとは人と違うことをやりたかったのと、価格の交渉権を持ちたかったという理由もありました。
内藤:私もみなさんと同じで、そこにマーケットがあるのに物が出せていなければ、出したくなるじゃないですか。ただ実際やってみると、日本だけではなく中国やアメリカのめちゃくちゃ経営努力をしている人たちと闘うことになるわけです。そこで日本の農産物がどれぐらい勝てるのかというと、おいしさでは勝てるかもしれないけれども、改善しなければいけないところもたくさんあります。改善は半年、1年ではできません。例えばモノが出来るまでリンゴは6年、シャイマスカットは3〜4年かかります。でもその課題を乗り越えられれば、後で効いてくるはずだと信じてやっています。
輸出の現状
幸畑:僕は輸出の経験がなくて。実は今年の8月に香港の会社から「丹波栗ペーストを扱いたい」という話があったのですが、やりとりに時間がかかって結局チャンスを逃してしまったんです。みなさんどんな風に輸出をされているか教えていただきたいです。
佐藤:私はサツマイモのペーストを輸出していますが、まだ規模としては小さいですね。メーカーにしてみればペースト一つ変えると他の原料も全部変わるため、国内の取引でも新商品を作るタイミングでないとほとんど買ってくれません。逆にそういう会社と付き合えたら、コンスタントに売れていきます。輸出もユーロ圏のバイヤーから「パウダーの方が使いやすい」と言われたことを受けて、2022年からパウダーの事業もスタートしました。輸出先がすぐに決まるわけではありませんが、続けてこそ結果が出ると思います。私は規模拡大のために、生産基盤を増成したいんですよ。輸出を伸ばそうと思ったら、物を作る現場に力を入れないと。輸出支援の補助金もありますが、生産に対する補助金ではないような。
丸山:今の日本の農林水産物の輸出額は1兆円 超ですよね。その中で青果物それぞれの内訳は大体数十億円ずつ 。国は2030年の農林水産物・食品の輸出目標を5兆円としていますが、求められる成果を出すのはけっこうきついなとも感じますよね。
内藤:丸山さんのアグベルは今、自社生産比率はどのくらいですか?
丸山:自社生産比率が3割、近隣の農家からの仕入れが7割です。経営の観点からは(自社生産比率を)もっと上げていきたいです。僕らが作っているものは嗜好(しこう)品なので、輸出はどうしても外せない課題ですね。
輸出額が伸びた理由
――みなさんの輸出の金額が伸びていった理由を教えてください。
内藤:1番大きいのは円安ですね。特にアジアでぐんぐん輸出が伸びました。でもこれが「ちょっともうかったね」で終わってしまったり、「面積を3分の2にしても同じぐらいもうかるね」と縮小方向にいくのは、もったいない。外的要因とはいえ、せっかくチャンスが来て、マーケットが広がったなら、さらに拡大するために投資が必要だと思っています。ただ、果樹の場合は投資から輸出までにかなりタイムラグが生じます。それでも、時間がかかることこそやり続けていくことで、強みになるはずです。
大吉:うちは現在、総生産量の約3割が輸出です。すべての畑を同じ規格で作り、いつ注文が来ても出荷できる体制作りを心がけています。また自分が作ってみたい作物や、売れる可能性がありそうな作物は、そのシーズンにテスト輸送をしたり、バイヤーさんに召し上がっていただいたりして、まずは物の良さを知ってもらいます。そうして品目を少しずつ増やし、今は5品目が輸出に結びついています。それができるのも、うちは間接輸出(※)の形をとっているからですね。生産に注力できるうちの強みと、オールシーズン何かしら生産できるエリアの強みがあって、輸出額を伸ばすことができたと思います。
※間接輸出:商社や流通業者を通して取引する形態。直接輸出は商社や流通業者を通さずに、売り手と買い手が直接取引する形態。
内藤:最近引き合いが増えている品目ってありますか?
大吉:この前台湾に行ったら、有機のサツマイモをくれって言われました。有機農産物についてはバイヤー側の目の輝きが違いましたね。でも、台湾は検査が厳しのでハードルは高いなと感じます。
品目と国の相性
――品目と国で相性がいい掛け合わせを感じることはありますか。
丸山:(幸畑さんに向けて)栗と相性が良さそうなのはアジア圏ですかね。サツマイモはたぶん、甘くてホクホク系でスイーツに近いから海外ですごく伸びているじゃないですか。栗もおもしろそうですよね。
佐藤:栗とカボチャとサツマイモ、この三つは味の違いが大きく出やすいですよね。結局サツマイモのおいしさって品種によるんです。紅はるかは特にどこで作ってもある程度おいしくできてしまいますけど、栗ってどうですか。
幸畑:栗も品種によって味のばらつきはあって、さらに同じ品種でも土地によって味が違うんですよ。兵庫県丹波市の栗がなぜおいしいかというと、寒暖差がすごく激しい土地だから。強い立派な栗が育ってくれるんですよ。
幸畑:輸出している会社に相談したこともあったんですが、栗ペーストのような生栗として輸出したことがないところが多かったんですよ。
佐藤:僕、栗農家さんって初めて会いました。珍しいじゃないですか。だからそんなに市場規模が大きくなくて、輸出するほどの量がないのかなと思っていました。ちなみに栗って反収どれぐらいなんですか。
幸畑:木の本数と大きさによって違いますが、大体200kgです。ペーストにすると2kg入りで1万円になります。
佐藤:やっぱり、それぐらいになりますよね。
――お米はどうですか。
伊藤:海外で日本のお米を売るには、二つやり方があると思っています。一つは日本人がよく食べている短粒種のお米を輸出する方法。もう一つは世界でよく食べられているインディカ米やタイ米などの長粒種を輸出する方法です。コシヒカリのような日本でいう高級ライスは、海外でもニッチな人がいる先進国にしかほぼないので、そこに輸出するしかないと思っています。ただ海外のお米市場を狙うなら、もっと多収性があって、海外で人気のあるお米の基準を満たすものを作っていかなければいけません。また、海外のお米の平均価格は1kgあたり約60セント 。高級路線だけでは難しいので、実際のマーケット価格で闘えるお米を作っていかないといけないなと思っています。
座談会はへ続く
「新鮮な野菜を届けたい」「誰もやっていないからチャンスがある」など、みなさんさまざまな思いからスタートしました。その後、海外の業者と直接やりとりする難しさや会社の規模をふまえて、直接輸出か間接輸出かという手段を選んでいったようです。そうした中でも、価格の安定性という輸出ならではのメリットがあることもわかりました。
座談会の後半は、輸出のメリットやこれから取り組みたい方へのアドバイスをお聞きします。
(編集協力:三坂輝プロダクション)