商工会議所の縁によって設立

ほしいも神社が設置されているのは、全国でも有数の干し芋産地である茨城県ひたちなか市にある「堀出(ほりで)神社」の境内。

その宮司を務める宮本さんは長年、早朝から干し芋づくりにいそしむ農家を見てきた。ほしいも神社は宮本さんの「これからもおいしい干し芋を作り続けてほしい」との思いで考案され、2019年にひたちなか商工会議所や地元の農家が中心となって創建された。
境内には、干し芋の色である黄金色に輝く鳥居など、干し芋を連想させるものが目につく。こうした神社のコンセプトを考案したのは、数多くのデザイン賞を受賞しているアートディレクターの佐藤卓(さとう・たく)さん。宮本さんが提案したほしいも神社のアイデアに佐藤卓さんが賛同したことがきっかけで、プロジェクトが始動したそうだ。佐藤さんはひたちなか商工会議所や地元のサツマイモ農家で構成される、干し芋の研究や広報を行う団体「一般社団法人ほしいも学校」の理事でもある。

佐藤卓さんとデザインした「ほしいも神社」の御朱印

ひたちなか海浜鉄道の阿字ヶ浦(あじがうら)駅から徒歩約2分の好立地と、海が見える景観の良さも相まって、ほしいも神社には創建からすぐに多くの参拝客が訪れるように。宮本さんは、「コロナ禍でも参拝客は途切れたことはありませんでした」と人気のほどを話してくれた。

欲しいものが手に入った人が続出――鳥居の数は2倍以上に

ほしいも神社の「欲しいものが手に入る」というご利益は、「ほしいも」と「欲しいもの」をかけた宮本さんの発想から誕生。実際に願いがかなった参拝客も多く、なかには宝くじが当たった人もいるとのことだ。

べにはるかの色をイメージした黄金色の鳥居

創建当初は25本だった鳥居の数も、願いがかなったという参拝客による奉納などもあり、現在53本まで増加。参拝客に加えて周辺の農家も鳥居を奉納しており、「これからもっと増える予定でいます。(鳥居は)一つ一つオーダーメイドのため、時間がかかるんですよね」と、宮本さんは今後の見込みについても話してくれた。

周辺の干し芋農家にも好影響

ほしいも神社のご利益は、神社の中だけにとどまらない。観光客が参拝のついでに周辺の農家を訪れ、干し芋を購入して行くことも多いそう。

宮本さんは「神社の目の前でも農家の方が売ってくれています。うち(ほしいも神社)は干し芋を売ってもうけようとかじゃなくて、干し芋の振興が目的ですから」と、地元の農家とともに干し芋産業の活性化に取り組んでいることを説明してくれた。

また、個人農家では干し芋の通年販売は難しいため、参拝客が1年を通して購入できるように神社の境内には干し芋の自動販売機を設置。神社オリジナルのラベルが貼られた干し芋が手に入ることから、この自動販売機での購入を参拝と同じく楽しみにして訪れる人も多いという。

東京駅で販売された神社のラベルつき干し芋

ほしいも神社のラベルが貼られた干し芋は、ほしいも神社をバックアップするひたちなか商工会議所が東京駅で開催した「東京駅ひたちなか☆ほしいもフェア」にも登場。全国各地からやって来た多くの人が利用する場所で、ほしいも神社と茨城の干し芋の魅力を伝えていた。

地域との協働こそがカギ

ほしいも神社の人気を受けて、宮本さんのもとには各地の神社からその地域の特産物をテーマにした神社を設立したいという問い合わせも来ているとのこと。

そうした地域の特産物のPRに関する取り組みについて、宮本さんは「地域に溶け込まないとできないですね。特産物の生産組合と連携をとらなければ、めちゃくちゃになってしまう」と、単体の組織で動くのではなく、地域や関係団体とともに計画を進める重要性について語った。

地域と協働して作り上げたほしいも神社

地元の干し芋産業を応援する宮本さんの思いから発足し、茨城県の一大観光スポットにまで発展したほしいも神社。宮本さんによれば「台湾やインドネシアのテレビでも取り上げられた」という経験もあり、干し芋を世界へ発信する大きな拠点となっている。

ほしいも神社が設置されている堀出神社では、毎年正月に地元のコーヒーメーカーと企画した「タダ(無料)コーヒー」なる取り組みも行っているとのこと。地域に根差したほしいも神社の、さらなる発展が楽しみだ。