マネ―スクエアのチーフエコノミスト西田明弘氏が、投資についてお話しします。今回は、「中央銀行ウィーク」について解説していただきます。
来週(12月11-15日)は、主要中央銀行の年内最後の金融政策会合が開催される「中央銀行ウィーク」です。とくに、日本時間14日は、米国のFRB(連邦準備制度理事会)、BOE(英国中央銀行)、ユーロ圏のECB(欧州中央銀行)の会合結果が判明する「中央銀行デー」です。なお、日本銀行の金融政策決定会合の結果は再来週19日に判明します。
日本銀行を除く主要中央銀行は、22年春ごろから高インフレを抑制するためにアグレッシブな利上げを続けました。今年の夏場以降は高い政策金利を維持して、それが経済や物価に及ぼす影響を監視しています。そして、景気が減速し、インフレが鈍化するに従い、金融市場では24年の早い段階で利下げが開始されるとの見方が強まっています。
金融市場が織り込む主要中央銀行の金融政策見通し
OIS(翌日物金利スワップ)という指標を用いると、金融市場が全体としてどのような金融政策の軌道を織り込んでいるかを測ることができます。最新12月7日時点のOISに基づくと、金融市場が50%超の確率で織り込む、いわゆるメインシナリオは以下の表の通りとなります。
FRBとECBは、24年3月に利下げを開始し、11月ごろまでに4-5回計1.00-1.25%の利下げを実施すると金融市場は予想しています。英国のインフレ率は他の主要国よりも高いためにBOEについてはもう少し慎重ですが、それでも5月に利下げを開始し、11月までに3回計0.75%の利下げとの予想です。
中央銀行自身は利下げには慎重!?
もっとも、各国のインフレ率はピークアウトした可能性が高いとはいえ、引き続き主要中央銀行の目標である2%を大きく上回っています。そのため、最近まで各中央銀行からは「必要であれば追加的な利上げを行う」、「現時点で利下げの是非を議論するのは時期尚早」と異口同音のメッセージが発せられています。
来週の政策会合ではいずれも政策金利の据え置きが決定されそうです。金融政策の変更といったサプライズがないとすれば、重要となるのは金融政策の先行きに関するメッセージに変化があるかどうかでしょう。金融市場の利下げ見通し(早いタイミングや速いペース)をけん制する内容となるのか、それとも市場の予想にある程度寄せた内容となるのか。
注目されるFOMCの「ドット・プロット」
とりわけ注目されるのは、FRBの政策会合であるFOMC(連邦公開市場委員会)でしょう。今回はFOMC参加者の経済・金融政策見通しを集計した結果が公表されます。前回9月に公表された金融政策見通し、いわゆる「ドット・プロット(※)」は、中央値が(現行水準に比べて)24年末までに0.25%×2回分の利下げを予想していました。
(※)参加者一人一人の予想が点(ドット)で示されるので、そう呼ばれています。
10月のFOMC後の会見で、パウエルFRB議長は9月の「ドット・プロット」について質問されて、「予測の有効性は時間の経過とともに低下する」と述べました。最新の「ドット・プロット」はどのような金融政策の軌道を示すのか、非常に興味深いところです。
日本銀行が利上げを開始し、円高となるのか
上述のOISに基づけば、日本銀行は24年1月に0.1%の利上げによって「マイナス金利」を解除し、7月にも追加利上げを行うと市場は予想しています。12月6日に日本銀行の氷見野副総裁が、7日に植田総裁が早期の金融政策変更を示唆するかの発言をしたからです。
昨年春から最近までは、「主要中央銀行が利上げし、一方で日本銀行が金融緩和を継続する」との構図が全面的な「円安」を演出してきました。それが「主要中央銀行の利下げと日本銀行の利上げ」へと完全に逆転して「円高」を招くのか。それとも、現時点でそうした構図の逆転を金融市場が織り込み過ぎており、中央銀行からのけん制によってシナリオの修正を迫られるのか、大いに注目でしょう。