トップベリーの販売方法
──大村さんは育種者でありながら、営業・広報・品質管理も担当しています。農家さんの立場からすると、求められるものは厳しいけど、利益も大きいと。
確かに、農家さんからすると大変やと思います。でもそのぶん単価が上がって、去年市場の人に「おそらく日本で高いイチゴのトップ2がコットンベリーと古都姫ですよ」って言われましたしね。「安くしてよ」ってことかもわかんないですけど(笑)。
高いとか言われますけど、それで売れるんやったら需要があるってことじゃないですか。お店も高く売りたい、お客さんもそれでも買いたいんやったら、よそから何も言われる筋合いないですよね。
──確かに、そう言われればそうですよね。
木箱に入れたやつが予想以上に売れたんで、また新しい化粧箱を作ったんですよ。検疫の関係で、木箱ダメな国もあるんで。木箱ぐらいの価格で売れる箱ないですかって市場から言われて。
アイテム数も増えんの、農家さんは嫌がるんですけど、売れるんならええと思うんですよ。なんかみんな、「箱に金かけてもしゃーないやん」って言うんですけど、じゃあロレックスの時計、ダンボールに入ってんのかって話じゃないですか。中身がええもんなら、それに応じたものを使わんとダメだと僕は思ってるんで。
──販売はお店と直接やってるんですか?
いや、基本的には全部市場を通してますね。直売もシーズンの最後、出荷量が増えて市場がさばききれなくなった時期ぐらいはやるけど、基本やらないです。やっぱり、関わるみんながちゃんともうけられるってのが筋っていうか、仁義みたいなとこあるじゃないですか。
1月、2月の高い時期に、「自分とこで売るから出す量減らすわ」みたいなのって、相手もいい気しないでしょうし。仕入れ値+いくら、ぐらいの価格で直売に出されたら、お店からしたら「やめてくれ」って思うじゃないですか。直売のほうが利益は出るんで、短期的にはええかもしれないですけど、長い目で見たら。
──取引先に嫌われてもいいことはないと。
そりゃ普通にやってても嫌われることはあるけど、無駄に嫌われにいくことはないですよね。直売で売れる量ってたかが知れてるんで、物量って点ではどうしても市場に助けてもらってる部分もありますし。
せやから、ちゃんとええもん作って、みんなでもうけていかないと続かないと思いますね。
──生産者さんが3人ということで、収量にも上限があるんじゃないかと思いますが、そこはいかがですか。
いや、まだまだですね。3人とも、古都華と僕の品種っていう形なんで、古都華を減らせば全然まだ増やせますし、今でちょうど半分ずつぐらいなんで、倍ぐらいまでは行けますね。
──大村さんは育種をやりながら自分の品種のブランド価値を上げているという。
そうですね。農家さんだと自分の畑もあるし、そこまで見るのはなかなか厳しいと思うんすよね。現実的に無理なんで。
農家さんは生産のプロだけど、販売のプロじゃない。なんで、自分が農家じゃないってところが生きてくんのかな、って思うところはありますね。
<h2>大村流・イチゴ交配術</h2>
──育種のサイクルはどんな風になってるんですか?
育種のサイクルとしては、9月に親品種の株を植え付けて、年明け後の1月、2月ごろに交配するんすよ。そっから1~2カ月ぐらいに実ができるんで、種取って。
その年の5月にまいて。同じようにまた9月に定植して、早ければ年内、だいたい年明けぐらいに実がなるんで。したら食味調査して、ダメなんは切っていって、残ったやつをランナーで増やして。それが2年目ですね。
──1年目の食味調査は一人で?
自分一人です。それで合格して初めて、次の年はメンバーに食べてもらいます。だから、親の植え付けを基準にすると3年目か。だから、新品種を作るってなったら、最速で2年半ですかね。品種登録申請をするとなると、2年は果実の様子を見る必要があるんで、もう1年かかります。
2年目は種から育って大きくなった1株しかないんで、味以外はそこまでわからないです、正直。3年目はそれを20株ぐらいに増やすんで、それを観察することでだいたい品種の特性もわかるようになりますね。
──20株を、条件を変えたりしながら様子を見て。
いや、同じハウスなんでそこまではできないですけど、苗のステージがちょっと変わるんですよ。他の品種たちとスタートが一緒になるんで、見比べられるっていうか。
──2年目の初なりでいいなと思っても、ダメなこともあれば、その逆も。
全然あります。逆パターンはわからないですけどね。2年目で悪いなと思ったやつを残すことがないんで。ちょっとでも光るものがないと残さないですから。イチゴの場合、定植する数がエグいんで。1反に1万株とか入るんですよ。
だから数が見れるんで、どんどん選ばんとダメなんで。それだけ違うイチゴができるんで、まぁ楽しいなと思いますけどね。1万粒まく時もあるんで。
──交配のパターンはどれぐらいですか?
年によりますね。この組み合わせで、もうめっちゃやったろうって年もありますし、いろいろな組み合わせをやりたい年もありますし、それはもう自分の気分ですね。でもどっちかっていうと、組み合わせは絞って、系統ごとの数を増やすことの方が多いですかね。
県とか行政ってのは組み合わせ数を増やして、系統ごとの数は少なくしてるところが多いですけど。僕みたいな、1年で3パターンの交配しかやりませんってのはあんまないと思いますね。
──同じ交配でたくさん種をまくってことですね。それはなぜですか?
それはもうやっぱり、「この親とこの親やったら、こういうのができるんちゃうか」って思うからですね。組み合わせの数だけ、やたらめったら増やしても無駄なんで。
あと、これは理由は言えないんですけど、僕は父親に向く品種、母親に向く品種ってあると思ってるんです。それを突き詰めていくと、基本逆交(父親と母親を入れ替えて交配すること)ってしなくてよくなるんで。そうすると組み合わせ数は減らせますよね。
──2通りの交配をしなくてよくなる。
こういうタイプだと母親に持っていった方がええとか、その逆もあるような気がするんですよね。まぁ両方やるときもありますけど、それはどっち向きかを調査をするみたいなところもありますね。
でも、最近だいぶ規則性みたいなもんがわかってきたんで。育種って、僕はセンスと効率だと思うんですよ。「いかに手間をかけずにやるか」ってのも一つ大事なことだと思ってるんで。
──逆交をしないのは効率面も考えて。
逆交は、種取るのがめんどくさいんですよ。こっからこっちはこの品種が父親で、こっから向こうは母親とか。それやったら、この品種は全部母親にするって決めたほうが楽ですよね。あとは、交配ってやっぱり他の組み合わせと混ざったらダメなんで、そのリスクも減りますし。
絶対やらないってことはないですけど、最近はもうやらんでもええかな、ぐらいの感じにはなってますね。
──イチゴ戦国時代に、大村さんの強みは。
国とか県もそうですけど、行政って基本的に、品種改良する人が、消費者とか市場のことを知らなさすぎるんすよね。
自分らがいいと思ってる、ある意味自己満の世界で育種してるんで。自分らの思ういい品種が、市場や消費者が求めてる品種かっていったら、イコールじゃないですからね。
──手厳しいですが、確かにそういう声は他の農家さんから聞いたこともあります。
僕は育種から販売、広報までやることによって、市場も行くし、店も回るし、自分でも買って食べるし。そうやってニーズをつかむと育種にも反映しやすいんで、そこは間違いなく強みかなと思います。
「こういう品種が欲しい」って言われて、作れるかはわからないですけど、チャレンジはできるし、しやすいし。古都姫なんかまさに「硬い品種で、粒が大きくて、味がいい」ってタイプなんで。
──古都華の欠点を克服した品種という。
最初やったんで、ニーズを調査したわけじゃないけど、何となく「これとこれを交配して、こういう風になったらいいな」っていう要素が狙った通りに出ましたね。
大村さんの野望とは
──今後はどのようなことを考えていますか?
具体的な考えはないですけど……。ゆくゆくはもっと品種改良して、もうちょっと作りやすくて、収量も出て、味もそこそこっていうのを作りたいっすね。今みたいに3人とかに制限せずに、いろんな人に作ってもらえるような。
もちろん、価格も下げた上で展開していくのも方法かなと思ってるんで。僕のイチゴが今80点やとしたら、今の(他の)品種ってだいたい40~50点ぐらいなんで。70点ぐらいの品種を作りたいです。
──廉価版というか。
今の古都華とか、あまおうとか。そういう高級品種よりも、もうちょっと上の価格帯のところを、僕の品種に変えていきたいですね。ボリューム出てくるとこのゾーンなんで。生産者が増えて、生産量が増えても、多分売れると思うんで。
でも、自分はトップベリーの代表やってるんで、メンバーに不利益を与えるわけにはいかない。だから、今のイチゴには余裕で勝てるけど、コットンベリーや古都姫には勝てないぐらいの品種を目指す必要があるっていう。
──もしトップベリーの人たちがそっちも作りたいと言ったら?
いいですけど、あんましやって欲しくないかな。そうなると、トップベリーの作るいちごが減るんで。トップベリーの生産者は、トップの品種だけ作って欲しいですね。あとは、たとえば1万円の経験した後に、あなた今日5000円の仕事できますかって話になるでしょ。1万円の仕事はこっちでちゃんと用意してますから。
そこは今後、そういう話が具体化したときにまた相談しなきゃダメなんですけど、トップベリー専用の品種も、もっと出していくつもりやし。
──トップベリー専用の、第3の品種を。
そうそう。コットンベリーと古都姫をどこまで増やせるかって話になった時に、1品種で、10tなのか、2品種で5tずつなのかってなったら、2品種5tずつのほうが、絶対価格は維持できると思うんですよ。
だから、これ以上生産量増やしたらちょっときつそうやなと思ったら、もう品種の数増やすしかないよなと。第3の品種がもしかしたら来年、できる可能性もあるし。
──すでに次を見据えてるんですね。
白も赤も、最低あと一つずつは絶対あってもいいかなと思うし、もしかしたらそれ以上あってもいいかもしれない。味のテイストが違ったり、形が違ったり、香りが違ったりみたいな、バリエーションもあってもいいかもしれないですよね。
今の古都姫がけっこう酸味の少ないタイプなんで、逆にもうちょっと酸味のあるタイプもあってもいいでしょうし。白やったらコットンベリーはうまいですけど、作りにくいんで。まだまだ改良の余地はあると思います。
──じゃあ、コットンベリーと古都姫を次の層に持って行く可能性もありますか?
今後どんな品種ができるかとか、状況によってはそういう考えもなくはないですね。ただ一つ言えるのは、3人が3人とも「新しい品種がいいから、もう今のやついらん」ってなったら、そうする可能性はある、ぐらいです。
現時点ではちょっとまだうますぎるんで、ライバルとして強すぎるなと思うんで。コットンベリーと古都姫が太刀打ちできんぐらいの超ええのができたら、ですね。
──今あるトップベリーを大事にしながら、野望は大きく。
日本中のスーパーの一番ええ棚を、全部自分の品種にしたいですね(笑)。ゆくゆくはイチゴ以外にも、ブドウもおもろそうやし、奈良は柿が有名なんで、柿やってみよかな、みたいな。
イチゴはどんなにがんばっても12月から6月ぐらいまでなんで、他の品目もやったら1年中全部自分の品種並ぶな、とか。育種に特化した会社も作ってみたいですね。