スズキが新型「スイフト」を発表した。2024年で登場から20年目を迎える同社のグローバルモデルは、約7年ぶりのフルモデルチェンジでどう変わったのか。現行型を含め歴代すべてのスイフトに乗ってきた室井大和さんに新型スイフトの実車を取材してもらった。
そもそもスイフトってどんなクルマ?
スズキを代表するコンパクトカー「スイフト」が登場したのは2000年のこと。コンパクトSUVのようなボディ形状の割に走りが安定していて、とても乗り降りがしやすかった。個人的に、とても印象深い1台だ。
2004年のモデルチェンジで登場したのが、丸みのあるコンパクトハッチバックのスイフトだった。スイフトといえばこのカタチといった感じだ。翌年の2005年には、走りを極めた上位グレードの「スイフトスポーツ」が初登場。それ以降、スイフトはコンパクトでキビキビ走れるモデルの象徴的な存在となった。
2010年には3代目スイフト、2016年には現行型となる4代目スイフトが登場。他社のコンパクトハッチバックがモデルチェンジごとに高くなっていったのに対し、スイフトは200万円前後から買えてしまうという圧倒的なコストパフォーマンスを売りとしてきた。走りと質感からいえば、まさに「お値段以上」の小型車だといえる。
ちなみにスズキは、2004年に登場した2代目スイフトを「初代スイフト」と呼んでいる。その理由について担当者は、「2000年に登場したスイフトは『イグニス』の名で海外展開していました。『スイフト』の名で海外展開したのは2代目からなので、スズキでは2代目スイフトを初代スイフトと呼ぶことにしています」と解説してくれた。
確かに、2000年に登場したスイフトは今でいう「スイフトらしさ」がない。スズキの見解に従えば、今回のフルモデルチェンジで登場する新型スイフトは4代目(本当は5代目)ということになる。
新型スイフトのターゲットは若年層?
新型スイフトは若い世代をターゲットにして開発を進めたという。
これまでのスイフトの平均購入者年齢は44.8歳(スズキ調べ)。この年齢は、他社製コンパクトカーの平均購入者年齢よりも約10歳若く、20代や30代の購入者がかなりの割合を占めているそうだ。スイフト購入者にクルマ選びで重視した点について聞くと、購入者全体の55.1%が「クルマのスタイルや外観」と回答したとのこと。
使い勝手がいいことはもちろん、若い世代に訴求できる魅力的なデザインを目指した新型スイフト。扱いやすく、出かけようとする気持ちを後押しし、うれしくなるようなデザインを狙ったそうだ。
新型スイフトは「ハッとする」デザインを採用?
新型スイフトのデザインでは若い世代に訴求すると同時に、街で見かけたら「ハッとするような」デザインをコンセプトにしている。例えばタイヤの存在感を強調し、車体全体で踏ん張っているようなボリューム感を持たせたそうだ。全体的に丸みのあるこれまでのデザインを踏襲しつつ、フェンダーを外へ張り出すように配置。軽快感を際立たせるため、窓枠などのキャビン部分には滑らかな曲線を採用し、インパクトのあるデザインにしたという。
内装については乗って落ち着き、気持ちが高まるようなデザインを目指した。先代モデルよりもナビをドライバー側に傾け、クルマと一体感が得られるようにしている。
インパネを中心に、3Dテクスチャーを施したオーナメントで加飾した。これにより、見る角度や光の加減によって立体感が変化。加飾オーナメントの効果は絶大で、実際に乗り込むと内装との一体感があり、自然と溶け込んでいる。ブラックのみで統一されていた先代モデルと比べても、気分が高揚する気がした。ほどよい輝きも高級感を演出してくれている。
ボディカラーは全9色、ツートーンも含めると13色から選べるという充実ぶりだ。中でも、新開発の新色「フロンティアブルーパールメタリック」は塗装面を3層構造にすることで、ツヤのある深い色あいを作り出すことに成功している。
新色の「クールイエローメタリック」は、見る人によって緑やアイボリーにも見える独特な色合い。いずれのカラーも、個性を重視したいZ世代に向けた配色を採用したとのことだった。
燃費性能は24.5km/Lに向上
新型スイフトが搭載するのは新開発の「Z12E型エンジン」。排気量は1.2L、最高出力は60kW(5,700rpm)、最大トルクは108Nm(4,500rpm)となる。先代モデルの「K12C型ガソリンエンジン」と比較すると燃焼効率が改善。エンジン全体のロス削減を実現している。
燃費(WLTCモード)を比べると従来モデルが21.0km/L(HYBRID MGグレード、2WDの場合)なのに対し、新型スイフトは24.5km/L(HYBRID MZグレード、2WDの場合)と性能が格段に向上している。
空力性能が優れている点も、新型スイフトの特長だろう。スイフトとしては初採用となるバックドアサイドスポイラーを装着しているほか、走行中にクルマに当たる風をフロントタイヤに効率よく流すパーツ「フロントストレイク」は新たな形状に変更した。
これらの工夫により、空気抵抗は先代モデルより4.6%も低減できている。丸みを帯びたボディ形状が燃費向上に貢献しているのは明らかだ。
スイフトの代名詞「走り」はどう変わる?
スイフトの代名詞ともなっている「走りの良さ」も継承しているとのこと。実際に走行して試すことはできなかったが、スタビライザー(車体の傾き量を減らして安定させるバネ)の仕様を変更したことにより、ねじれにくくなったそうだ。これにより急なカーブでも車体の傾きが抑えられるので、安定した走行が可能になるのだという。
車体とサスペンション(車輪を支え衝撃を吸収するパーツ)の間にある緩衝材は再調整し、路面からの突き上げ感を抑制した。
先代スイフトに長く乗ってきたからか、新型スイフトに乗り込んですぐに明らかな進化を感じ取ることができた。今回の撮影会では時速20キロ前後で私有地内を数十メートル転がした程度だが、しっかりとしたハンドリングと安定した乗り心地はすぐにわかった。
歴代スイフトの全てに乗ってきた筆者は個人的に、走り出しの際のハンドルからのスカスカ感(軽くて、地面にしっかりとグリップできていないような印象)が気になっていた。ハンドルの軽さはストレスなく誰でも操舵できるというメリットにもなっているのだろうが、どうも気になってしまっていたのだ。だが、新型スイフトでは、その違和感がなくなっていた。軽すぎず重すぎず、路面をしっかりとつかんでいるような安定感があった。
この点を担当者に話すと「サスペンションを含め、インパネやハンドルなど、細かい部分を広範囲にわたって微調整しています。そうした改良が乗り心地、操舵時の安定感、スカスカ感ではなくしっかり感に表れているのかもしれません」との返答があった。大幅な走行性能の向上には期待できそうだ。
新型スイフトのボディサイズは全長3,860m、全幅1,695m、全高1,500m、ホイールベース2,450mで現行スイフトとほぼ同じ。狭い街中でも取り回しがしやすいはずだ。ラゲッジスペースはわずかに広くなり、使い勝手も向上している。
スズキの小型車として初めて電動パーキングブレーキを採用しているところもトピックだ。手動式のパーキングブレーキにもメリットはあるが、スイッチだけで簡単に操作できて、スムーズな発進をサポートしてくれる新機能を歓迎する人も多いだろう。
撮影会の時点(2023年11月24日)で価格は非公表だった。先代スイフトよりは高くなるようだ。
スイフト乗りは新型スイフトをどう考えるのか
フルモデルチェンジをすると、先代モデルの面影を残さずガラリと印象を変えてしまうクルマも多い。それが悪いとはいわないが、やはり全くの新型車でない限り、デザインや走り、コンセプトは残してほしいと思う。
そういった意味で新型スイフトは、デザインや使い勝手の良さといった「スイフトらしさ」をしっかりと残しつつ、華麗に進化できているのではないだろうか。
最後に、新型スイフトの上位グレード「スイフトスポーツ」の登場について担当者に聞いてみると、「現在進行形の商品開発については何も答えられません」とのこと。つまり、「スイフトスポーツの開発は、今まさに進行している」と筆者は解釈した。登場時期までは予測できないが、スイフトスポーツが登場することだけは確定的といっていいだろう。首を長くして待ちたい。