新旧プリンスの苦悩。大河ドラマ『どうする家康』(NHK総合 毎週日曜20:00~ほか)の第45回のサブタイトル「二人のプリンス」は、2代目将軍・徳川秀忠(森崎ウィン)とぐっと成長した豊臣秀頼(HiHi Jetsの作間龍斗)の生き方の違いの物語のみならず、家康(松本潤)と宗誾こと今川氏真(溝端淳平)、かつてのプリンスが再会。2人の会話に胸が熱くなった。
■注目される現プリンス “秀忠”森崎ウィンと“秀頼”作間龍斗
現プリンス――秀忠と秀頼たちは、個性は違うがフレッシュという点では互角。秀忠は将軍にしてはいささか暢気で、それが彼の良さではある。一方、成長した秀頼は、茶々(北川景子)の教育によって、一筋縄ではいかない存在になっていた。二条城で家康と会見するとき、どちらが上座に座るか、互いに譲り合った末、秀頼の作戦勝ちで、家康が上座に座り、それによって、家康は慇懃無礼という世論が広まってしまう。
180センチの長身・作間龍斗は、実際とてもガタイが良かったと言われる秀頼をシュッとした様子で演じた。雅楽の舞も殺陣も手足の長さを生かし、動きが冴え渡る。「……すずやかで様子のいい……秀吉じゃ」と、秀頼を評する家康のセリフのように、すずやかで様子はいいが、何を考えているかわからない、策士的でミステリアスな感じもよく出ていた。
一方、秀忠を演じる森崎ウィンは、人のいい、親しみやすい雰囲気がある。『あさイチ』に松本潤がゲスト出演したとき、森崎も出演し、息子役らしく、松本をリスペクトしつつ、堅苦しくない明るいムードを振りまいて、番組を盛り上げていた森崎。彼が演じる秀忠は、「偉大なる凡庸」を買われ2代目将軍になり、期待どおり、凡庸な人物として、おおらかに将軍をやっているかと思いきや、やはり重圧に耐えきれず、眠れぬ夜を過ごしている。
世間が徳川家と豊臣家の関係を皮肉る歌「御所柿は、ひとり熟して落ちにけり。木の下にいて拾う秀頼」を挙げ、「この歌に、私は出て来てもいない……取るに足らぬ者と思われておるのです。父上が死んでしまったら……私と秀頼の戦いになったら……私は負けます! 負ける自信がある!」と激白。このセリフはおかしみと哀しみが混ざり合っていた。でも家康は、秀忠のこの弱さを評価する。弱さを自覚していることを。「凡庸」とか「弱い」とか全然褒め言葉ではないところがこのドラマの面白さだ。
■かつてのプリンス “家康”松本潤と“氏真”溝端淳平が再会
どちらが天下をとるか注目され、比較される秀忠と秀頼。かつて、氏真と家康もそうだった。名将・今川義元の息子として生まれたものの、氏真は武術や戦術に長けていなかった。そんな彼に家康は気を使って、信長(岡田准一)仕込みの武術の腕を隠してわざといつも負けていた。あとでそれを知ったときの氏真のショックは計り知れなく、名将の父にまるで及ばないつらさを、溝端淳平が第12回「氏真」で見事に演じて注目された。
思えば、氏真も家康も、戦いよりも文化的なことに興味を持っていた。氏真が先に、家康に「降りるな」と言って、自分が戦う生き方から降りてしまったがために、家康は50年近く戦い続けることになったのだ。気の毒としか言い様がない。しかも、氏真は、家康と違って愛する妻と悠々自適に長く過ごせたのだから、その運命の分かれ道を思うと切なくもある。
第25回以来、久々に『どうする家康』に戻ってきた氏真は、頭を剃っていて、一瞬誰だかわからないくらい、老人のビジュアルになっていた。それが妙に似合っていて、きれいに老けた上品なおじいちゃん、という印象。こういうご老人、いる、と説得力ある仕上がりだった。
溝端淳平当人はトーク番組に出ていても、取材をしても、少しやんちゃな印象があるのだが、演技における所作が上品で、時代劇の武士役が似合う。8月から10月にかけて放送された連ドラ『何曜日に生まれたの』(ABCテレビ・テレビ朝日系)でも、天才作家の役を端正に演じていた。いや、見た目だけではない。戦い続け、そのなかで、いろいろなものを失った家康が、天下をとってもちっともうれしいと感じられず、でもその本音を誰にも言えずにいたところ、氏真はその苦悩を受け止め、ねぎらった。家康の唯一の理解者という重要な役割を、溝端がその眼差しや佇まいから漂わせた。
松本と溝端が、確執を経て心を許し合えるようになった深い関係と、長い時間の経過のなかで生まれたある種の人生の疲れのようなものを、しみじみ演じて見せた。松本40代、溝端30代なのに、この滋味の再現度はすごい。
松本、溝端だけではない。松山ケンイチも、山田裕貴も、杉野遥亮も、それぞれ、老けた演技に工夫が見られた。最近の俳優はなりきる技術に長けているなあと感心するばかり。感情を大事にするだけでなく、所作を含め、見た目から自分とは違う役になれる、職人的な意識が備わっているように感じる。大河ドラマではたいてい、役の晩年を演じることになるものながら、とりわけ『どうする家康』は、まだ若い俳優たちの老いの演技合戦が楽しめた。これだけ若い俳優たちが、いっせいに年老いた役を演じるのも、なかなか見応えがあり、興味深い。これから家康はまだまだ老けて、大坂の陣では70歳オーバー。どこまで渋くなるか、どうなる家康。あと3回。
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