「コーシャ」の意味や定義とは?

コーシャとはユダヤ教で定めている食事のルールのことで、ヘブライ語で「適正な」という意味を持っています。旧約聖書に基づき、食べてよいものと、食べてはいけないものの制約を明確かつ厳格に定めています。

酒類は飲むことができ、全粒穀物、野菜、果物、ナッツ類は食べることができますが、動物食については下記の3つの基準が設けられています。

①適切な動物
②適切な屠畜(とちく)方法
③適切な調理方法

食べてよい食品・食べてはいけない食品

コーシャで食べてよいとされるのは全粒穀物、野菜、果物、ナッツ類です。酒類も飲んでよいとされています。一方、肉・魚介類は食べてよいものと、食べてはいけないものが明確に分けられています。さらに肉類は乳製品と一緒に食べることはできません。
なお、いずれの食材も昆虫の混入防止対策が厳格でなければなりません。

区分 コーシャで食べてよいもの
(コーシャ認証の対象)
コーシャで食べてはいけないもの
(コーシャ認証の対象外)
農産物 全粒穀物、野菜、果物、ナッツ類 厳格な昆虫の混入対策がなされていないもの
畜産物 ウシ、ヒツジ、ヤギ、シカ、ニワトリ、カモ、アヒル、ガチョウ、七面鳥 厳格な昆虫の混入対策がなされていないもの
ブタ(ゼラチン、ラード含む)、ウマ、ウサギ、イヌ、ラクダ、猛禽(もうきん)類、血が入った有精卵など
水産物 タイ、サケ、ヒラメ、マグロ、イワシ、サバ、イクラなど 厳格な昆虫の混入対策がなされていないもの
貝、カニ、エビ、ウニ、イカ、タコ、カジキ、ウナギ、アンコウ、アナゴ、ハモ、ドジョウ、クジラ
その他 酒類、はちみつ、海藻 爬虫(はちゅう)類、昆虫

ページ内「コーシャ調査報告書(三菱UFJリサーチ&コンサルティング作成)」をもとに作成

食べてもよい肉類の例

国土交通省「訪日ユダヤ人旅行者ウェルカムハンドブック」によると、「ひづめが分かれ、そのひづめが完全に割れているもの、また、反芻(はんすう)するもの」は「適切な動物」で食べてよいとされます。これには、たとえばウシやニワトリなどが含まれます。一方で、ブタやウサギは食べられません。調味料などに含まれるブタの成分も食べてはならず、ゼラチンやラードに注意が必要です。

なお、屠畜の方法についての制約もあり、コーシャ専門の業者がユダヤ教の戒律に従い、動物に苦痛を与えずに屠畜し、血抜きなどの処理をする必要があります。

食べてもよい魚介類の例

魚介類では「ひれとうろこを持つもの」は食べられます。この定義に基づくと、大半の魚は問題ありません。除外されるのはウナギやアナゴ、カジキマグロといったうろこがない魚類、貝類やエビ・カニ類、タコ・イカ類。さらにクジラ類などの海洋哺乳類も食べられません。

コーシャ食品を利用している人たち

コーシャ食品は、ユダヤ教徒にだけ利用されているわけではありません。
肉・魚類を摂取しないベジタリアンやヴィーガン、牛乳アレルギー・乳糖不耐症の人、安全・安心な食に関心が高い人たちの間でも、衛生面やトレーサビリティー(原材料の生産段階から最終消費段階まで追跡可能な状態にすること)の観点からコーシャ認証食品への需要が高まっているようです。

コーシャとハラールの違い

コーシャと同じく、信教により食べられないものが決められている例として、ムスリム(イスラム教徒)のハラールがあります。ユダヤ教とイスラム教は聖典の一部を共有しているため、食に対する共通の考え方もありますが、異なる部分もあります。

項目 コーシャ ハラール 類似点
宗教 ユダヤ教 イスラム教
用語の由来 ヘブライ語で「適正」の意味 イスラムの教えで「許されている」の意味
禁止の食べ合わせ 肉と乳製品 特になし 屠畜の手法を守る必要あり
混入・混合の禁止 豚肉の混入
肉と乳製品の混入
豚肉とアルコールの混入
主要認証団体のある地域 おもに北米 アセアン諸国、中東各国
他の民間認証との関係 なし 取得前提条件として他の認証が求められる

ページ内「コーシャ調査報告書(三菱UFJリサーチ&コンサルティング作成)」をもとに作成

認められていない食べ合わせ

コーシャもハラールも、ブタを食べてはいけないとされる点などは共通です。ただ、ユダヤ教のコーシャは「肉類と乳製品は一緒に食べられない」「肉料理を食べて6時間後なら乳製品を食べられる」などの決まりがあります。また、ハラールではアルコールが禁じられていますが、コーシャではアルコールは認められています。

混入対策

コーシャもハラールも、ブタについては肉はもちろん、ポークエキスなどブタ由来の調味料や添加物も食べてはいけないため、どんな料理にも入れないようにします。
また、コーシャでは肉類と乳製品を混ぜてはならず、チーズバーガーなどは提供できません。一方、ハラールではアルコールの混入を防ぐ必要があります。

世界の主要認証団体

いずれも世界各国にありますが、ハラールの認証団体はアセアン諸国や中東各国、たとえばマレーシア、インドネシア、UAEなどにあるのに対し、コーシャの認証団体の多くは北米に本部を置いています。

他の民間認証との関係

ハラール認証は取得の前提条件として、他の認証、たとえば「ISO9000s」「GMP」「HACCP」「ISO22000」などの認証が必要で、従業員研修も求められます。これに対してコーシャは他の認証にかかわる義務付けは一切ありません。

コーシャ認証を受ける方法や費用・期間

コーシャ認証を受けるには認証団体へ申請し、審査に合格する必要があります。以下、認証を受ける流れなどについて説明していきます。

認証を受ける方法と流れ

まずは、認証団体に問い合わせて、事前相談を行います。その後、申請を行い、製品情報(原材料)や工場の生産工程など、必要な情報を認証団体に提供します。
申請した情報をもとに書類審査が行われ、続いて現地審査となります。認証団体のラビ(ユダヤ教の聖職者・宗教的指導者)が工場を訪問し、実際に設備や生産工程などを確認して審査します。課題があれば改善の助言をし、申請者側はそれにしたがって改善に取り組みます。
現地審査が通れば、コーシャ認証にかかわる要件について契約を取り交わします。契約が締結されたのち、コーシャ認証の取得となります。

費用や期間

費用は認証団体により異なります。認証手数料と審査に伴う費用・旅費、また年間手数料などがかかることがあります。詳しくは各団体に問い合わせたり、見積もりをとったりして比較するとよいでしょう。
認証取得期間は最短で1カ月、長い場合は1年以上かかります。

認証を受けている製品にはコーシャマークが表示される

コーシャ認証を受けた製品には、認証マークをパッケージなどに表示することが認められます。コーシャの認証マークは認証団体によりデザインが異なります。
認証の際にはユダヤ教のラビが直接現地に赴いてチェックすることなどから、ユダヤ教徒でなくとも、コーシャ認証に安全・安心な食としての信頼を感じる消費者もいると言われます。

海外のコーシャ認証団体について

海外のコーシャ認証団体は全世界に約300団体存在すると言われていますが、そのうち世界的によく知られているのは、OU、OK、KLBD、スターKの4団体です。

OU(Orthodox Union)

アメリカのニューヨークに本部を置く世界最大のコーシャ認証団体です。認証実施国は世界100カ国超。累計1万3000以上の工場で検査を行い、100万以上の製品を認証しています。

OK(Organized Kashrut)

1935年に設立された認証団体で、本部はアメリカのニューヨークにあります。イスラエルやベルギー、ブラジルや中国などにも拠点があり、日本企業向けの連絡先も設けられています。

スターK

アメリカ・メリーランド州ボルチモアを本部として、中国、インド、ブラジル、イスラエルなどに拠点があります。50年以上のコーシャの監督歴を持つ認証団体です。

KLBD(Kashrut division of the London Beth Din)

イギリスのロンドンに本部を置く欧州最大のコーシャ認証団体です。1902年に初めてイギリスの発酵食品「マーマイト」のコーシャ認証を実施しています。

日本におけるコーシャ認証団体

日本にもコーシャ認証団体があり、多くの日本企業が認証を受けています。このうち代表的な認証団体を2つ紹介します。

コーシャ・ジャパン株式会社

ユダヤ教の正統派ハバッド・ルバビッチ派により1999年に設立されたコーシャ認証団体で、東京都大田区に本社があります。代表者はイスラエル政府から正式に承認を受けた在日本首席ラビで、コーシャ見本市への出展支援、輸出支援を実施しています。
大潟村あきたこまち生産者協会、八海醸造、雪国まいたけなど、認証を受けた企業・団体は50社以上に上ります。

株式会社ヤマミズラ

先述した世界的に有名なコーシャ認証団体OU、そしてKLBDの日本代表事務所です。代表者は食品商社の経営者で、2011年から宮城県仙台市で運営。認証取得後の企業には、輸出先の販売代理店の紹介も行っています。
味の素グループ、伊藤園グループ、森永乳業、キッコーマン、サントリーなど、多くの企業の海外進出を促進しています。

コーシャ認証を受けている主な日本企業

日本でもコーシャに対して注目する食品企業は決して少なくはなく、いくつもの企業が認証を取得しています。取得企業としては上記各社のほか、宝酒造、ニッスイグループ、J-オイルミルズ、丸山製茶、ミツカン、明治製菓などがあります。

コーシャマークのある日本の食品の例

コーシャ認証を受けた商品は、日本の食品企業が海外展開をする上でさまざまなメリットをもたらします。ここでは認証された商品の事例として、認証取得の動機、対象マーケット、認証時の課題、立ち入り検査時のポイントなどを紹介します。

大潟村あきたこまち生産者協会「グルテンフリーパスタ」

発芽玄米と白米を主原料とし、食物アレルギー特定原材料28品目と貝類を使用しないグルテンフリーのパスタです。取引先からの助言を受け、グルテンフリーの最大市場である米国を対象マーケットとして、2017年にコーシャ・ジャパンの認証を取得しました。
認証時の課題は、使用原料の2次原料や製造方法についても調査の必要があったことで、仕入先に説明を行い、協力を仰ぎました。
さらに申請から認証取得までの約3カ月間、立ち入り検査に備え、従業員全員がコーシャについて学び、理解できるように周知徹底。認証取得後は、海外展開に手応えを感じているようです。

宝来屋本店「醤油こうじ」「ふわっと糀(こうじ)みそ」

同社の商品を気に入ったイスラエルのバイヤーから「コーシャ認証を取得してほしい」という要望を受け、申請。
認証時の課題は、英語での書類作成ができるスタッフが少なかったこと。また原料や添加物にコーシャで認められないものがあったため、認証取得のために代替品を探し出しました。
認証取得時と更新時の立ち入り検査では、添加物が本当に正しく工場内で使われているか、また、蒸気配管のルートが適切かなどについても、細かいチェックを受けました。そして、約1年かけて2016年にKLBD認証を取得。これが付加価値として海外販路開拓の強みになり、アメリカやイスラエル市場へ販路を開拓しました。

日本酒や焼酎メーカーも多数認証取得へ

農業と密接な日本酒や焼酎でも、多くの酒造がコーシャ認証の取得に動いています。ハラールではアルコールが禁止されているため酒類を提供できませんが、コーシャの場合はアルコール提供が可能なため、コーシャ認証は海外展開の際の付加価値にもなり得ます。日本酒の「獺祭(だっさい)」で知られる旭酒造は2011年に認証を取得、加藤吉平商店は清酒と焼酎の「梵(ぼん)」で2014年に取得しています。

成長する市場へ向けて取り組む価値は十分

国内ではユダヤ教の浸透度は高いとは言えないのが現状で、コーシャはイスラム教のハラール以上に日本人には縁遠かったものかもしれません。しかし近年は、ベジタリアンやヴィーガンなどの多様な食文化が浸透してきており、コーシャの認知も広がりを見せています。

海外の調査会社Allied Market Researchは、「2018年の世界のコーシャ食品市場規模は191億ドルだったが、2026年までに256億ドルに達する」と見込んでいます。
審査を受けて認証を得るには手間と時間、費用がかかりますが、取り組む価値は十分にあるのではないでしょうか。