PCの選択肢として、ここ数年で人気を集めているのがミニPCだ。ちょうどノートPCとタワー型のデスクトップPCの中間に位置する仕様・性能を持つモデルが多く、持ち運びはしない、重たいゲームを思い切り遊ぶわけでもない人にとって、価格や本体サイズのバランスがとてもいい。テレワークなど自宅でPCに触れる時間が増えている人には、まさにうってつけのジャンルのPCと言っていいだろう。

そんなミニPCを得意とするメーカー「Minisforum」から、11月1日に「UX780 XTX」が発売になった。UM780 XTXは高性能なゲーミングノートPCへの採用例も多い、「AMD Ryzen 7 7840HS」を搭載したパワフルな1台だ。

販売価格も同社公式オンラインストアで、32GBメモリ、1TB SSDの大容量モデルを選んでも106,490円で、Black Friday期間中はさらなるディスカウントも適用されている。仕様の割にはだいぶ安いのも見逃せないポイントだ。今回は編集部から送られてきたMinisforum UM780 XTXの試用機を用いて、小さい本体からは想像できないそのパワーをチェックしていく。

  • なんで虎柄!? Ryzen 7 7840HS搭載で圧倒的性能、個性的なイルミネーションも特徴の「Minisforum UM780 XTX」

コンパクトな筐体に高性能を詰め込んだ1台。メモリーやSSDの換装も容易

性能をテストする前に、まずはUM780 XTXの外観や付属品をチェックしていこう。

UM780 XTXの本体はMinisforumの他のミニPC同様に非常にコンパクトだ。プロセッサに強力なRyzen 7 7480HSを搭載しているからといって、筐体が大型化しミニPCとしての魅力を損なっていることはない。サイズは182×159×120mmで、面積としてはスマートフォンを2台並べた程度と考えると大きさを想像しやすいのではないだろうか。

  • MINISFORUM EliteMini UM780XTXのパッケージの様子。高性能なAMD Ryzen 7 7840HSを搭載した今冬注目のミニPCだ

この小ささに対しインターフェイスはかなり充実している。前面・背面の合計でUSB端子はUSB Standard-A(USB 3.2 Gen 2)が4つ、USB Type-C(USB 4)が2つ用意されている。

  • 前面には高速なUSB 3.2 Gen 2に対応したUSB Standard-AポートやUSB Type-Cポートがある

USB Type-CはUSB-PDによる給電や映像出力にも対応しているため、対応するモニターであればUM780 XTXからケーブル1本だけの接続で利用することが可能だ。なお、UM780 XTXの消費電力を考えるとこの繋ぎ方を行う場合は90W以上の供給ができるモニターとの接続が望ましい。

背面にはDisplayPort、HDMIがそれぞれ1つずつ用意されている。USB Type-Cと同時に使うことで最大4枚のディスプレイに映像出力を行うことも可能だ。

またLANポートは2つ。どちらも2.5Gbpsと高速な仕様になっているので、最近増えている1Gbps以上の光回線環境下でも高速な通信を利用できるだけでなく、小型筐体と2ポートを活かしサーバー用途に利用するような玄人向けの使い方にも向いている。

また、背面ポートで特に注目したいのが「OCuLinkポート」だ。

外部GPUやストレージなど、対応する機器をPCI Express 4.0 x4で外付けできる。対応する機器が市場にまだ全然出てきていないため、現時点では少し生かしにくい面もあるが、従来のミニPCよりも将来的な拡張性が確保されているのはおもしろい試みだろう。

  • 背面にもUSBポートあり。2.5Gbpsと高速なLANポートが2つ、さらにGPUやストレージを外付けできるOCulinkポートがあるのはなかなか珍しい

本体内部へのアクセスだが、マグネットで取り付けられたトップカバーを外した後、詳しくは後述するがクーラーとLEDパネルが一体となったユニットを留める4本のネジを緩め取り外すことで可能だ。ただ、このユニットからロジックボードに繋がったケーブルの本数が多く、ケーブル長も短い。勢いよく外してしまうと故障の原因になるので、取り外すときは細心の注意が必要だ。

  • 内部アクセスはトップカバーを外した後、ネジ止めされたLEDパネルを取り外すことで行える

  • メモリーモジュールとSSDはユーザー自身で容易に交換可能だ。また2本目のM.2 NVMeスロットには同梱されているOCulinkポートの拡張カードを取り付けることもできる

内部でユーザーで容易に交換できるパーツは「SSD」と「メモリ」だ。どちらも2スロット用意されているので、筐体の小ささの割にはどちらも大容量の構成にアップグレードすることが可能だ。

注意点としては「OCuLinkポート」を利用する場合で、同ポートの利用時にはSSD用のNVMeスロットを1つ使用する。将来的にOCuLinkポートを利用し外部GPU接続などを考えている場合は、2本目のSSDを取り付けず、ブート用SSDの容量を増やすか外付けストレージを高速なUSB Type-C端子に接続することを考えた方がいいだろう。

  • 同梱されているスタンドを取り付けることで通気口や拡張ポートを塞ぐことなく省スペースに設置することもできる

  • 付属品はマニュアルなどの冊子以外に、スタンドやVESAマウントアダプタ、OCulink拡張カードがある

  • 電源は内蔵されていないため、別途同梱のACアダプタを利用する必要がある

特徴的なイルミネーション機能。ユーザーカスタマイズにはやや難あり

UM780 XTXの大きな特徴として、トップカバーに用意されたイルミネーション機能がある。イルミネーションはトップカバーとロジックボードの間に設けられたLEDパネルが発光することで実装されているのだが、このままではトップカバー全体が発光してしまう。

  • トップカバーにシートを挟まず、光が素通りになっている状態。R、G、Bの3色で発光できるが、これを調光した1680万色での発光には対応しない

そこでUM780 XTXでは、トップカバーに「エッチングシート」を取り付けることで部分的に発光するようカスタマイズを行うことができる。「影絵のようなもの」を想像するとわかりやすいだろう。

  • トップカバーにぼんやりと浮かび上がる特徴的なイルミネーション機能

  • カバーが半透明になっているのでLEDパネルの光を透過して発光するという仕組み

  • イルミネーションの柄は影絵のようなエッチングシートを挟み込んで変更できる

テスト機に付属していた虎柄のエッチングシートはいわゆる「PPシート」だったが、ユーザー側でも厚手の紙やプラ板などで好きな柄のエッチングシートを作成すればオリジナルのイルミネーションを楽しむことができる。

ただ、特徴的な機能ながら現時点では不満の方が目立つ。というのも発光色は「赤、青、緑」の3色だけだ。それも色の固定も行えず、色の変更もゲーミングデバイスなどのようにより多くのカラーで発光させることはできない。

また、イルミネーションの発光パターンの変更やイルミネーション自体をオフにすることもできない。どうしてもイルミネーションをオフにしたい場合、LEDパネルの電源ケーブルを引き抜いてしまうしかないため、おもしろい機能ではあるものの自由度は決して高いとはいえないのが残念だ。

CPU性能は上々、でも内蔵グラフィックス「Radeon 780M」に過度の期待は危険

続いてUM780 XTXの性能を各種ベンチマークテストを用いチェックしていこう。UM780 XTXに搭載されているCPUはAMDの「Ryzen 7 7840HS」だ。

CPUコア数は8コア、スレッド数は16スレッド、動作クロックも標準クロックで3.8GHz、ブースト時は最大5.1GHzとかなりパワフルな内容だ。

アーキテクチャも最新の「Zen4」、そして内蔵されるGPUも最新の「RDNA 3」アーキテクチャの「Radeon 780M」と、AMDの最新世代のAPUの中でも上位のSKUだ。

  • CPU-Z、GPU-Zで確認したCPU・GPUの詳細仕様

ベンチマークテストは「CPU単体の性能」「オフィスユースなど一般的なPC操作における総合性能」「ゲームプレイを想定した高負荷時の性能」「内蔵SSDの読み書き速度」をベンチマークアプリを使用し実施した。

まずは3Dレンダリングを通してCPUの性能をテストする「CINEBENCH R23」を実行し、UM780 XTXに搭載されたRyzen 7 7840HSの性能をチェックした。シングルコアでのテストは1770ポイント、マルチコアでのテストでは16764ポイントとなり、どちらもデスクトップ向けの最新世代のCPUにも大きく劣ってはいない。

続いてブラウジングやオフィスソフトの操作、ビデオ会議など一般的なPC操作でのパフォーマンスをチェックする「PCMark10」を実行し、UM780 XTXの総合性能をチェックした。 こちらのテスト結果も7428ポイントと小型筐体からは想像できないほどの良好な結果となった。

UM780 XTXのCPU性能や一般的なPC操作でのパフォーマンスは、2~3世代前のデスクトップPCより上であることは間違いない。また最新世代のCPUを搭載したスリム筐体のデスクトップPCにも近いパフォーマンスを発揮しているため、特にオフィスユースであれば不満が出ることはないだろう。

  • CINEBENCH R23の計測結果

  • PCMark10の計測結果

ではゲーミング性能はどうか。テストには「3DMark」「ファイナルファンタジーXIV: 暁月のフィナーレ ベンチマーク」「FINAL FANTASY XV WINDOWS EDITION ベンチマーク」を実行し性能をチェックした。

テスト結果だが、Ryzen 7 7840HSがノートPC向けのCPUであり、そしてGPUがCPU内蔵であることを考えればかなり好成績といえる。概ね、一般的なノートPCの倍近い性能と考えるといいだろう。

もちろん別途ビデオカードを搭載したPCと比べれるとかなり厳しい結果ではあるのだが、全くゲームが遊べないというほど性能が低いわけではない。

世間を賑わす大作タイトルで遊ぶのは難しいのだが、カジュアルにプレイできるタイトルであれば意外と遊べるだろう。

なおその際のオススメの設定だが、解像度は必ずフルHD(1920×1080)に設定するといい。WQHD(2540×1440)以上の解像度では途端に動作の快適度が変わってしまう。また、ゲーム内の細かな設定についても最も軽量な設定を選択し、徐々に高画質な設定にあげていくとすれば、内蔵GPUのRadeon 780Mでも意外と多くのゲームを快適に遊ぶことができるはずだ。

  • 3DMark Time Spy(フルHD解像度・DirectX 12)の計測結果

  • 3DMark Fire Strike(フルHD解像度・DirectX 11)の計測結果

  • ファイナルファンタジーXIV: 暁月のフィナーレ ベンチマーク(フルHD解像度・最高品質)の計測結果

  • FINAL FANTASY XV WINDOWS EDITION ベンチマーク(フルHD解像度・高品質)の計測結果

最後にUM780 XTXに標準搭載されているSSDの読み書き速度をチェックする。今回搭載されていたのはKingston社の「OM8PGP41024Q-A0」という型番のSSDだ。

チップは3D NAND TLCで、CrystalDiskInfoで詳細を確認したところ、インターフェイスとしてはPCI Express 4.0 x4に対応したNVMe SSDだ。CrystalDisk MarkにてプロファイルをNVMe SSD、データパターンは標準に加え「All 0x00」の2パターンで計測を行った。

シーケンシャルリード・ライトはどちらのパターンでも4,800MB/秒・3900MB/秒と、PCI Express 4.0 x4に対応したNVMe SSDとしては標準的な速度を記録した。

市場にはこの倍近い速度のSSDも存在しているが、極端に大きなデータや大量のデータを連続して書き込むなどしない限り、体感速度で大きく遅いと感じることはない。

UM780 XTXは比較的SSDの換装、増設を行いやすい作りにはなっているが、特に容量が不足するなどない限りは、標準搭載のSSDをそのまま使っても問題ないだろう。

  • CrystalDiskInfoでのSSD詳細情報表示

  • CrystalDiskMarkでのSSDパフォーマンス計測結果

  • CrystalDiskMarkでのSSDパフォーマンス計測結果(All 0x00)

長く使える1台を探している人にオススメ

UM780 XTXはミニPCの中でも性能、価格共に「ハイエンド」な1台だ。

多くを求めずミニPCを選ぶことに辿り着いた人からすれば、5万円前後でも十分な性能を持った機種が多く発売される中からはやや選びにくい1台になっているかもしれない。

だが、そうであってもUM780 XTXを選んでいい理由がある。それは基本性能だけでなく、外部GPUボックスとの接続性を実現した拡張性だ。それにPCを長く使うにあたって、「なるべく遅く感じない方がいい」など、基本性能の部分で余裕のあるものを選んだ方がいいのは間違いない。

加えてこの拡張性があれば、将来使い方が変わったときにもそれに対応させる周辺機器への投資を行えばいいので、やはり長く使える1台になる。ぜひ価格面だけでなく、PCの買い替えに際して今とこれから自分が何をしたいかを考えた上で、UM780 XTXも十分検討に値する一品になっていると感じた。