マウスコンピューターの「NEXTGEAR J6」シリーズは、クラムシェルスタイルの“ゲーミング”ノートPCだ。ここで、「あれ? マウスコンピューターのゲーミングPCといったら“G-Tune”じゃないの」となるかもしれない。
マウスコンピューターは長年親しまれてきたゲーミングPCブランド「G-Tune」に加える形で、新しいゲーミングPCブランド「NEXTGEAR」を2023年7月に立ち上げている。しばらくデスクトップPCだけのラインアップだったが、10月末になってノートPCのラインアップも加わった。それが今回取り上げるJ6シリーズだ。
G-Tuneが処理能力を優先するハイエンド志向のブランドであったことに対して、NEXTGEARは購入しやすい価格を強く志向している点が大きな違いとなる。このようなゲーミングPCブランドの「ハイ&ロー」構成は競合ゲーミングPCブランドでも見られるもので、例えばHPの「OMEN」と「Victus」、Dellは「Alienware」と「Dell G」にみられるような関係に近い。
このレビューでは、CPUにAMD Ryzen 7 7840HSを搭載し、GPUにはNVIDIAのGeForce RTX 4060 Laptopを組み合わせた上位構成を取り上げて、購入しやすいマウスコンピューターのゲーミングノートPC」として登場した“J6”を取り上げる。構成例の価格は169,800円前後だ。
価格を抑えたゲーミングノートPCには、そのデザインテイストから“ゲーミングPC”らしさが薄味になることが多い。逆にこれがメリットとなり、ユーザーの中にはゲーミングPC特有の「ゴテゴテ感がちょっと苦手」「仕事で使っていても目立たない」という長所として受け入れられやすくなることもあるとか。
そういう視点で見ると、NEXTGEAR J6はまさに「絶妙な塩梅」なデザインを施している。本体のフォルムはビジネス向けノートPCで好まれるプレーンな板状の形態に近づけながらも、排気口周囲にはインテークを思わせる凸部を設けており、さりげないインパクトを感じさせる造形としている。
そして、何より特徴的なのが本体のカラーリングだ。ゲーミングPCのカラーリングといえば、赤や黄色といった爆発的な“熱い”エネルギーを感じさせる暖色系が定番だが、NEXTGEAR J6は全体を金属の光沢を持たせた“青緑”をまとっている。そういう意味では従来のゲーミングPCとは逆方向のカラーリングといえるが、しかし、“青白い炎”といった冷徹な内に秘めた激しさを表現する色でもある。
本体に搭載するインタフェースは、USB 3.0 Type-Aが2基にUSB 3.2 Type-Cが1基、USB 2.0 Type-Aが1基、SDカードスロット、そして映像出力としてMini DisplayPortとHDMI 2.1を備えている。さらに、ゲーミングノートPCでは必須の有線LAN(RJ-45)も搭載。無線接続ではIEEE802.11axに対応したほか、Bluetooth 5.2も利用できる。
こうした普段使いでも違和感のないゲーミングノートPCでは、LEDによるイルミネーションも控えめにするか、もしくは全く“なし”にすることも少なくない。しかし、NEXTGEAR J6シリーズでは、周囲にアピールする本体外装こそ用意していないが、ゲーマーの気分を一番盛り上げるキーボード周りにはゲーミングPCにふさわしいLEDイルミネーション機能を備えている。
ユーティリティ「Mouse Control Center」で備えている機能の1つには、「キーボードバックライト」がある。ここで、キーボードバックライトのオンオフやタイプしてから無操作時に点灯し続ける時間を設定できるが、そこに用意されている「エフェクト」項目で発光色やパターン、色の組み合わせなどがフルカラーで指定可能だ。
発光が認識できるキートップの台座側間隙が狭く、キートップ塗装が厚めで光が柔らかいため、明るい場所(オフィスや作業する部屋における通常の照明でも)ではちょっと気が付きにくいかもしれないが、それは作業の邪魔をしない程度の明るさと解釈することもできる。
なお、キーボードのキーピッチは約18.82mm、キーストロークは約1.4mm確保する。右寄りにはテンキーを備えているが、この並びがアルファベットキーと隣接しているだけでなく、キーピッチがアルファベットキーとほぼ変わらずに連続して配置されている。ただ、ゲーミングノートPCにとって、キーボードもコントローラーの1つに過ぎなかったりする。その場合、キーピッチはあまり意味を持たないという意見も間違いではない。
価格を抑えたノートPCのディスプレイというと、解像度を1,920×1,080ドットのいわゆるフルHD解像度を採用する例が少なくない。しかし、NEXTGEAR J6は、解像度を1,920×1,200ドットとして縦方向の表示領域を増やしているので「相手の動向把握が勝敗を左右する」ゲーマーとしてはメリットとなる。
パネルも非光沢タイプを採用する。見栄え重視のゲーミングモデルでは光沢タイプを採用する製品も少なくないが、周囲の環境光がディスプレイに反射して視認性に影響することも多い。ゲームプレイを重視するならばここは非光沢タイプのディスプレイを選びたいところだ。
また、リフレッシュレートが165Hzと汎用ノートPCやゲーミングノートPCで採用モデルが増えている144Hzと比べると速いため、動きの目まぐるしいFPSやレーシング、空戦などのゲームシーンを精緻に再生して素早い状況把握が可能になる。
NEXTGEAR J6は購入しやすい価格も重視したゲーミングノートPCとなっているが、その実現のために最も貢献しているのがシステム構成、特にCPUとGPUの選択といえるだろう。価格を抑えつつ処理能力を維持するというのは、全ての製品にとっても重要だが、ゲーミングPCではグラフィック描画処理のためにGPUはディスクリートとならざる得ないため、価格抑制はなお一層難しいという困難さがある。
NEXTGEAR J6は、この難しい選択としてCPUにはAMDの「Ryzen 7 7840HS」もしくは「Ryzen 5 7535HS」を、GPUにはNVIDIAの「GeForce RTX 4060 Laptop」もしくは「GeForce RTX 4050 Laptop」を選択した構成を用意している。今回評価する機材は、Ryzen 7 7840HSとGeForce RTX 4060 Laptopを組み合わせた上位構成だ。
Ryzen 7 7840HSは、2023年4月末に登場した「Ryzen 7000 Series for Mobile」のプロセッサだ。AMDにおけるAPU世代としては2022年に登場したRyzen 6000 Series for Mobileの次となるモデルで、アーキテクチャは新世代の“Zen 4”を採用している。
Ryzen 7 7840HSは8コア16スレッドの構成で、動作クロックは基本で3.8GHz、最大ブーストクロックで5.1GHzとなる。TDPはデフォルトで35~54W。L3キャッシュメモリの容量は合計で16MBだ。
GPUとして搭載するGeForce RTX 4060 Laptopは、NVIDIAが発表したノートPC向けGPU「GeForce RTX 40シリーズ」の一部で、現行ラインアップではGeForce RTX 4050の上位に位置するエントリークラスの上位モデルだ。
NVIDIAは新しいAda LovelaceアーキテクチャをノートPC向けGPUにも導入しており、CUDAコアの数は3072基、ブーストクロックは1470~2370MHz、グラフィックスメモリはGDDR6に対応してメモリインタフェースのバス幅は128bit確保している。
Ryzen 7 7840HSとGeForce RTX 4060 Laptopを組み合わせたNEXTGEAR J6の処理能力を検証するため、まずは“基本的な体力測定”としてベンチマークテストのPCMark 10、CINEBENCH R23、CrystalDiskMark 8.0.4 x64を用いて測定した。加えて、ゲーム描画処理能力の“基礎体力”を測定するベンチマークテストとして3DMark Time Spy、ファイナルファンタジー XIV:暁のフィナーレを実施している。
比較対象としてCPUにCore i9-12900H(P-Core6機+E-Core8コア20スレッド、最大5GHz、キャッシュ24MB)とGeForce 3050 Laptopを搭載し、ディスプレイ解像度が1920×1200ドット、システムメモリがLPDDR5-5200 16GB、ストレージがSSD 1TB(PCI Express 4.0 x4接続)のノートPCで測定したスコアを併記する。
なお、先に挙げたMouse Control Centerにはパフォーマンスのモードを設定できる「パワーセッティング」機能を用意している。その詳細は後で説明するが、取り急ぎ、ここでは最も処理能力が高い「パフォーマンスモード+FanBoost有効」状態で測定した値を掲載した。
ベンチマークテスト | NEXTGEAR J6 | 比較対象PC |
---|---|---|
PCMark 10 | 8039 | 7111 |
PCMark 10 Essential | 10696 | 10933 |
PCMark 10 Productivity | 10893 | 9765 |
PCMark 10 Digital Content Creation | 12101 | 9142 |
CINEBENCH R23 CPU | 16901 | 12384 |
CINEBENCH R23 CPU(single) | 1768 | 1919 |
CrystalDiskMark 7.0.0 x64 Seq1M Q8T1 Read | 5256.54 | 3347.06 |
CrystalDiskMark 7.0.0 x64 Seq1M Q8T1 Write | 4729.24 | 3223.33 |
比較対象のノートPC(その正体はゲーミングPCに類別されるモデル)のCPUは、第12世代とは言え最上位クラスなのに、Ryzen 7 7840HSを載せたNEXTGEAR J8のスコアはそれをほとんどの項目で上回っている。ストレージ転送速度を測定するCrystalDiskMarkのスコアが良好なのは、評価機材が搭載するSSDがADATAの中上位モデル「ALEG-850」であることも貢献している。
ゲーミングPCの処理能力では、高負荷条件におけるグラフィックスコアの描画処理能力も重要になる。エフェクトをガンガンかけた高画質条件でも高速な描画ができないと、PCゲームマシンとしての存在意義を失ってしまう。高負荷をかけたときの処理能力を評価するため、ベンチマークテストモードを持つ「F1 22」と「CyberPunk 2077」のそれぞれのプリセットで用意されている画質設定を最低ランクから最高ランクまで変更し、平均フレームレートの変化を測定した。
CyberPunk 2077にしてもF1 22にしても、高品質設定にもかかわらず平均フレームレートが100を超えるスコアをたたき出している。さすがに最も高い設定ではどちらも平均フレームレートは60以下に下がってしまうが、それはそれとして、PCゲームの存在理由でもある「高品質の画面でバリバリと動くゲームを堪能する」は十分に満たしているといえるだろう。
ゲーミングノートPCは、概して静音性よりも処理能力を優先することになり、高クロックで動作するCPUとGPUを冷却するためクーラーファンが高速で回転する。そのため、多くのゲーミングPCは回転するファンの騒音が轟々と唸ることになる……が、NEXTGEAR J6は先ほど紹介したMouse Control Centerのパワーセッティング機能でファンの回転数と処理能力を制御できる。
ここで処理能力を優先する「パフォーマンスモード」、静音性を優先する「静音モード」、両者のバランスを自動的にとる「バランスモード」を選択可能だ。加えて、それぞれのモードでファンを常時全力で回し続ける「Fan Boost」ボタンをオンオフできる。それぞれのモードでCINEBENCH R23を測定したスコアは以下のようになった。
ベンチマークテスト | CINEBENCH R23 | CINEBENCH R23(single) |
---|---|---|
静音モード | 13788 | 1657 |
静音モード(Fan Boost) | 13871 | 1648 |
バランスモード | 15513 | 1643 |
バランスモード(Fan Boost) | 15332 | 1648 |
パフォーマンスモード | 15872 | 1612 |
パフォーマンスモード(Fan Boost) | 16901 | 1768 |
静音モードからバランスモード、パフォーマンスモードに移行するにつれてマルチコアにおける測定スコアは確実に上昇している。そしてそれぞれのモードにおいてFan Boostを有効にするとそのスコアはさらに向上しているのが分かる。ただ、その分、ファンの発する風切り音も大きくなっており、パフォーマンスモードでFan Boostを有効にした状態で3DMark Night Raidを実施するとその音圧は56.4dBAまで達している。
今回評価したNEXTGEAR J6は、Ryzen 7 7840HSとGeForce RTX 4060 LaptopにシステムメモリがDDR5-4800を32GB、ストレージが1TBの構成で価格は税抜き172,546円となっており、20万円を切る。これで解像度1,920×1,200ドットの解像度なら高い画質設定でも快適なフレームレートが得られるのだから、そのゲーミングコストパフォーマンスはすこぶる高い。
「PCゲームを始めてみたいけれどちょっと高いしなあ」と躊躇しているなら、NEXTGEAR J6は踏み出す勇気を確実に与えてくれるに違いない。