寒さに強い野菜を選ぶ
冬野菜として知られる「大根」や「白菜」をはじめ、「ニンジン」「カブ」「ホウレンソウ」「ブロッコリー」といった面々も、冬場に旬を迎える作物です。
これらの野菜は寒さで凍ることがないよう、細胞内に糖を蓄積するため、冬は糖度が高く、甘みが増すのが特徴。ビタミンやカロテンなどの栄養価が高い野菜も多いため、免疫力の向上や、風邪の予防も期待できます。甘くて、体にもうれしい冬野菜のラインナップを見ていきましょう。
大根
12月下旬〜2月ごろに旬を迎えます。この時期の大根は寒さから身を守るために糖度が増すため、甘みがあってジューシーです。寒さに強い品種には「冬馬力」「千都」「冬自慢」などがあります。
大根を土中で大きく育てるコツは、深く念入りに耕す深耕精耕(しんこうせいこう)。土を軟らかくするため、30cmくらいの深さまで耕します。また、大根の根に小石などが触れると形が崩れたり根が二股になったりするため、できるだけ丁寧に取り除いてください。
白菜
白菜の旬は11月~2月ごろ。ビタミンCが豊富に含まれおり、カリウムも豊富。食物繊維の供給源としても優れた野菜です。「冬月90」など 寒さに強い品種もあります。
冬に収穫できる白菜の種まきは8月〜9月ごろ。早すぎると害虫被害にあいやすく、遅すぎると丸くなる結球がうまくいかなくなる場合があるので、タイミングの見極めが重要です。家庭菜園の場合は、ホームセンターで苗を買って植え付けるのがお手軽な方法。冬の寒さ対策としては、外葉をひもなどでくくる「頭縛り」をする農家さんも多くいます。
ニンジン
冬場に収穫するニンジンは糖度が高く人気があります。β-カロテンの多さは緑黄色野菜の中でもトップクラスを誇ります。冬の寒さでも根が傷みにくい「冬王」などの品種もあります。
ニンジンは種をまいてから100日位が収穫適期。冬越しニンジンは8月下旬に種まきし、十分な大きさに育ててから冬を迎えます。冬越しニンジンは甘みが強く、サラダやジュースにするのがおすすめです。
カブ
「日本書紀」にも記録があるほど歴史の深い野菜であるカブ。春まきと秋まきの年2回の栽培が可能で、冬場に収穫されたものは甘みが増し、おいしくなります。
秋まきの場合は9月~11月に種まきし、11月~1月上旬まで収穫することができます。直径5~6cmの「小カブ」はプランターでも栽培が可能。種まきから40~50日程度の短期間で収穫可能ですが、収穫時期を逃すと根にひび割れが生じたりするため、大きくなったものから早めに収穫するようにしましょう。
なお、カブは耐寒性のある野菜で知られていますが、発芽適温は15~20℃のため、寒い時期に種まきをする場合には不織布を活用したり、後述する発砲スチロールをかぶせる方法を用いたりして栽培するとよいでしょう。
ホウレンソウ
夏採りのホウレンソウに比べ、冬採りはビタミンCが約3倍も含まれています。β-カロテン、ビタミンE、ビタミンK、葉酸、鉄も多く含有しており、冬に採れたホウレンソウはまさにパワーフードと呼ぶにふさわしい高い栄養価があります。
ホウレンソウは発芽の最低温度が4℃と低温でも芽が出るため、冬場も種まきが可能。しかし、寒さに強いとはいえ生育適温は15~20℃であるため、冬場にしっかり育てたい場合は防寒対策が重要です。畑では不織布などを使ったトンネル栽培やハウス栽培がポピュラーで、ベランダでの小規模菜園では、後述する発泡スチロールプランターで育てるのがおすすめです。
タアサイ
中国の代表的な冬野菜のタアサイ。耐寒性に優れているので冬場の種まきも可能。2月の収穫量が多いことから「如月菜(きさらぎな)」とも呼ばれています。冬場は葉が上に伸びず、横に広がることで寒さから身を守ります。
9月~10月に種をまいて、晩秋から真冬にかけて収穫するパターンが育てやすいですが、冬でも育てることが可能です。冬場に育てる際に注意するのが発芽温度。18~25℃で発芽するため、芽が出るまでは育苗ポットなどを活用して陽の当たる室内で管理し、芽が出てから定植してください。タアサイはベビーリーフとして水耕栽培でも育てられるので、窓際菜園で育てるのもおすすめです。
ブロッコリー
ビタミンCをたくさん含むブロッコリー。冬採れブロッコリーは害虫の発生が少ないため、低農薬での栽培が可能です。他の作物に比べると耐寒性や霜に弱く氷点下2℃以下で凍害を受けるため、冬場はしっかりとした霜対策をおすすめします。
花らいに紫色(アントシアン)の着色が無いアントシアンレス種は、寒さの厳しい時期でもきれいな緑色のブロッコリーが収穫できます。ブロッコリーは酸性土でも生育しますが、根こぶ病が発生しやすくなるため石灰で中和してから栽培を行ってください。
種まきは7月〜8月ごろ。定植は8月〜9月ごろ。最近では茎ブロッコリー「スティックセニョール」も人気です。
長ネギ
暑さにも、寒さにも、病害虫にも強いネギは家庭菜園のおすすめ作物。菜園の隅に植えておけば何度も収穫できます。なんと、マイナス8℃ほどの寒さまで耐えることができます。
家庭菜園では1年を通じて青々としたネギの収穫が楽しめます。冬場のネギはよりジューシーな味わいです。
北海道や東北の豪雪地帯では「越冬ネギ」の栽培も行われています。雪解け水で新しい青葉が育ってきた頃が収穫時期。厳しい冬を長い時間かけて育った越冬ネギは、甘みとやわらかな肉質が魅力です。
ゴボウ
10月~12月の晩秋から冬にかけてがゴボウの旬。培養土の袋にそのまま植え付ける栽培方法が話題です。地上部は3℃以下で枯れますが、根部はマイナス20℃にも耐えられます。
ゴボウは連作を嫌い、連作するとセンチュウによる被害や根部に黒いシミ状の病気が発生しやすくなります。少なくとも3年、できれば5年以上栽培していない場所で作るのがおすすめです。
根張りがスムーズにいくよう深く耕し、発芽の時に光が必要な「好光性種子」なので、覆土はできるだけ薄くかけます。
春菊
鍋料理に欠かせない春菊。庭先やベランダに苗を植えておけば、採れたての段違いに高い香りが楽しめます。寒さには強いですが霜には弱いため、霜対策を忘れずに行ってください。
また、気温が5℃以下になると生育が急に衰えます。葉が傷みやすいため、晩秋から冬には不織布や発泡スチロールなどで上手に防寒するとよいでしょう。
春菊は収穫にもコツがあります。「株ごと収穫型品種」は、本葉7~8枚、草丈20cmほどになったら根をつけたまま収穫します。「摘み取り収穫型品種」は、本葉10枚ほどになったら下葉を3~4枚残して上の葉を摘み取ります。わき芽が伸びてきたら下葉を2枚ほど残して摘み取ります。
家庭菜園では一気に収穫してしまわず、中心の若葉を残して外葉から順番に摘み取っていけば長く楽しめます。
発砲スチロールをフル活用
冬の家庭菜園の難敵といえば、霜害でしょう。霜は気温がグッと下がった日の夜に、空気中の水蒸気が地面などに触れて結晶になる現象です。作物の葉や茎の一部が半透明になってしまったら要注意。それは細胞内が凍ってしまったサインで、そこからだんだん傷んで枯れてしまいます。霜に当たる前の対策がとても重要です。
霜の対策には不織布トンネルなどがよく知られていますが、ベランダ菜園やプランター栽培には発泡スチロールを活用した方法も効果的です。
全体の約98%が空気(気体)でできている発泡スチロール。内部に無数の空気の層があるため、非常に優れた断熱性能を発揮します。その断熱性能を活用して住まいの断熱材や、身近なところではカップラーメンの容器にも使われています。熱湯が入ったカップラーメンを手に持ってもやけどしないのも、断熱性能のおかげというわけです。
植物は体内に40%以上の水分を含むといわれています。葉や茎だけなく、土中にある根も急激な温度変化に敏感で、寒さに当たると弱ってしまい、急に氷点下にさらされると凍ります。発泡スチロールで囲うことで温度変化が緩慢になり、植物が弱るのを防ぐことができるのです。
ここからは、発砲スチロールの具体的な活用方法を見ていきましょう。
発泡スチロールに鉢をまるごと入れる(かぶせる)
発泡スチロールには「保温効果」と「断熱効果」がありますが、家庭菜園の冬対策では断熱効果を有効活用していきます。鉢植えなどを、ふたが付属した発泡スチロールの大箱に入れ、日中はしっかり日光に当てます。夕方から朝までは箱にふたをすることで霜対策になります。発泡スチロールの大箱を鉢にすっぽりかぶせるだけでも寒さや霜対策になるため、霜が降りそうな日の夕方にピンポイントでかぶせてあげるのも有効です。
発泡スチロールの箱はご自身で購入できるほか、なじみの魚屋さんなどで手に入れてもよいでしょう。匂いが気になる方は、八百屋さんか酒屋さんでもストックしている可能性がありますので、尋ねてみるのも狙い目かもしれません。
発泡スチロールを下に敷く
植物が弱る要因は見えている部分だけでなく、土の下に広がる根の状態も大いに関係しています。発泡スチロールの箱に入りきらないサイズの鉢やプランターも、その下に発泡スチロールを板状に敷いてあげるだけで凍える地面の冷たさから保護できます。
寒さに弱いレモンなどの柑橘(かんきつ)類は発泡スチロール素材でできた緩衝シートで鉢や幹を覆い、寒さから守ってあげると効果的です。
発泡スチロールをプランター代わりに
発泡スチロールの箱をプランターにしてしまうのも有効です。しっかりと排水できるよう底に複数の穴を開けるだけでなく、地面からもスムーズに排水できるよう角材などでほんの少し底上げするのがコツ。耐寒性が強い「ホウレンソウ」や「タアサイ」の種をまいて、軒先やベランダで冬野菜の栽培にぜひチャレンジしてみてください!
踏み込み温床にチャレンジ
「踏み込み温床」という方法をご存知ですか?「踏み込み温床」とは、落ち葉などが発酵する際、菌や細胞が有機物を分解する際に発生する「発酵熱」を利用する温床のこと。落ち葉をたっぷり集めて踏み込んで発酵させることで、熱を利用した野菜の育苗を行うベットのような役割を果たします。
これは“先人の知恵”であり、大正時代には取り入れられていた農業技術です。昔は寒い冬に温床を作って育苗し、その過程で生まれた落ち葉腐葉土を土に混ぜ込んで良質な土づくりを実現していました。
落ち葉に米ぬかや稲わら、鶏ふんなどを混ぜ込むことで発酵・分解が促進され、発生する発酵熱によってじんわりホカホカに。ピーマンやナスなど、20℃あたりで発芽する夏野菜の苗を冬場に作ることで、収穫期間が長くなるなどのメリットがうまれます。
電気代などのコストはかからず、発酵を終えた落ち葉は腐葉土・培養土として育苗土などに利用できるというメリットもあります。
冬の寒さを逆手に取る
ここまでは、冬の厳しい寒さをいかにしてしのぐかに焦点を当ててきましたが、逆に寒さを利用して野菜をおいしく育てる方法もあります。それぞれ、解説していきます。
雪下野菜
雪の下で越冬させた野菜が「雪下野菜」。「越冬野菜」とも呼ばれます。
大根やニンジンなどの野菜をあえて収穫せず、そのまま雪の中に寝かせることで春先までの保存が可能に。野菜が少なくなる冬場でも、雪から掘り上げてその都度食べられるようにという昔の知恵が生きています。
雪下野菜は自身が凍ってしまわないよう細胞内に糖分をため込むため、甘みが増すといううれしい効果も。甘くジューシーな雪下野菜をブランド化した新潟県の「津南の雪下にんじん」も有名です。
寒おこし(土壌消毒)
寒さを活用して病害虫をやっつけるのが「寒おこし」という方法です。「寒ざらし」とも呼ばれ、農薬に頼らず冬場の土壌消毒が行えます。家庭菜園の土壌消毒は夏場に土を黒いビニール袋に入れる方法がポピュラーですが、冬でもちゃんと土づくりが行えます。
霜が降りるほどの真冬に、スコップなどで30cmほど、土をざっくりと掘り起こします。寒さに当たって凍結と乾燥が促され、病気の原因となる微生物をはじめ害虫の幼虫やサナギまで駆除できます。植物が育ちやすくなる土壌の団粒化も促進されます。
作付けが少ない冬場に土の状態をリセットすることで、翌年の収穫量アップにつながる土づくりがはかどります。寒おこしの際に米ぬかをまいておくのもおすすめですよ。
寒い冬も、知恵をしぼって楽しい菜園ライフを!
冬場は家庭菜園も閑散期のイメージがありますが、ホウレンソウやタアサイなど、この時期にまける野菜もありますし、冬の間に土づくりに励めば、翌年の収穫量アップが狙えます。果樹などを育てられている方にとっては、大事な剪定(せんてい)の季節でもあります。
冬の畑作業は十分な防寒対策が必須ですが、熱中症の心配がほとんどなく蚊などの害虫に悩まされることもないという快適な一面も。よく晴れた日の日中などに、冬の作業もぜひチャレンジしてみてください。