「2023-2024日本カー・オブ・ザ・イヤー」の最終選考に進む「10ベストカー」が出そろった。今年を代表する10台のクルマが決まったわけだが、「この中からどれを買う?」「新社会人へのオススメは?」とマイナビニュース編集部からお題を振られたので、超主観的な私的ベストバイを考えてみた。
電動化の流れが加速した2023年に登場したモデルたちを振り返ってみると、少し前なら目新しかった技術や機能が今や当たり前になり、それらを判断基準にしてクルマを選ぶという時期はすでに過ぎ去ったのではないかと思わされる。10ベストカーの顔ぶれは、唯一無二の独自性で勝負しているというよりも、単純に見た目や走り、装備といったクルマ本来の魅力をブラッシュアップすることでライバルとの差別化を図ったクルマたち、といった印象だ。
プリウス:今までの殻を突き破ったスタイルと走りを実現
いくつか最終選考に進んだクルマを見ていこう。まずはトヨタ「プリウス」だ。
「21世紀に間に合いました」のキャッチコピーで1997年にデビューした初代プリウスは、初の量産ハイブリッド車(HV)として世界を驚かせた、続く26年間の間に登場した2~4代目は、「ハイブリッド=プリウス=低燃費」という構図をきっちりと引き継ぎつつ、確固たる地位を築いた。
プリウスがヒットしたことも契機となり、日本では各メーカーからハイブリッド車が続々と登場し、今では「低燃費なHV」という看板だけでは勝負ができなくなってしまった。HVがコモディティ化する中で、先駆者・プリウスは「タクシー専用車」にされそうになるほどの危機に直面した。
そんなプリウスを「選ばれる愛車」にすべく、トヨタが大英断を下してフルモデルチェンジを実施したのが今回の新型だ。目指したのは、「とにかくカッコよくて、よく走る」クルマだった。
エクステリアでは、ボンネットからフロントガラスへと続くラインに初代以来の驚きを覚えた。傾斜角が想像の斜め上をいっており、イタリアンスーパーカーもかくやというほどのスタイルになっているのだ。
走りの面では、特にプラグインハイブリッド(PHEV)モデルの0-100km/h加速6.7秒という動力性能が伊達じゃない。サーキットで走らせても満足できるほどの性能だ。トヨタご自慢のクルマ作り「新世代TNGA」を採用した効果がバッチリ発揮できているのが確認できた。
燃費と操縦安定性、乗り心地を兼ね備えた195/50R19の大径・細幅タイヤの採用も新しい。ルーフのソーラーパネルで充電して走ったり、V2Hに対応したりという環境性能も十分だ。唯一気になったのは、HVモデルで加速する際、エンジン音とのズレを感じるラバーバンドフィール。トヨタのハイブリッドシステム「THS」のただひとつの弱点は、まだ残っていた。
ZR-V:ホンダらしい走りをみせるシビックのSUV版
ホンダから10ベストカーに残ったのは新型SUV「ZR-V」だ。
すぼまった形状で縦桟のグリルを持つ顔つきは、マセラティやメルセデス・ベンツのAMGを想起させる独特な雰囲気。一方でボディは、SUVらしいオーソドックスなスタイルとなっている。
最初に写真を見たときは、どのホンダ車にもない意匠のエクステリアに「?」と思ったのだが、実車を見るとまとまりがあってなかなかいい。コンセプトの「異彩解放」とはこういうことかと納得した。
「シビック」に似た水平基調のダッシュボードの効果もあり、運転席からの視界はクリアだ。SUVなのにちょっと低めにセットされたシートと足を投げ出すようなスポーティーなドライビングポジションが、乗る人を“その気”にさせる。
走ってみても気分は落ちない。ZR-Vが搭載する2リッター直列4気筒エンジンを使ったハイブリッドシステム「e:HEV」は、通常走行では静かでスムーズな印象なのだが、アクセルを踏み込めば有段変速のようにエンジン回転が軽やかに上下し、あの“ホンダミュージック”を乗員の耳元に届けてくれる。それでリッターあたり20km近く走るのだから、いうことなしだ。シートレイアウトも秀逸。こっちが「現代のシビック」なのかも。
デリカミニ:愛嬌のあるスタイルに三菱らしい走破性能をミックス
軽自動車で唯一の10ベストカーとなったのが三菱自動車工業の「デリカミニ」だ。大ヒットしたようだから当然の選出といえるだろう。
デリカミニは大胆なフェイスリフトで大成功を果たしたクルマだ。前身は販売が低迷気味だった軽スーパーハイトワゴンの「eKクロススペース」。そのフロント部だけを、ランドローバー「ディフェンダー」に似た丸型半目のヘッドライトを採用したカワイイ怒り顔に変えたのが功を奏した。
キャンディーズの昭和の名曲「年下の男の子」の替え歌と共に登場する水川あさみさんのCMと、クルマのイメージキャラクターを務めるブルドッグ(?)の「デリ丸」も、ぴたりとはまった。同じジャンルでホンダ「N-BOX」が一人勝ち状態にある中、見事に人気モデルとして復活した。
成功の理由はもうひとつある。軽自動車でありながら悪路走破性をしっかりと高めた点だ。4WDモデルはワンサイズ大きなタイヤを採用して車高を上げると共に、専用チューニングを施したダンパーを搭載。折からのキャンプブームに最適な仕上がりとなったのだ。
東京郊外のアウトドア商業施設で開催した発表イベントでは、実際に傾斜路や凹凸路を走らせて自慢のオフロード性能をアピールしただけでなく、三菱の名ラリードライバーである増岡浩氏が解説役として登場。実際に、増岡氏の意見を走りにも取り入れているそうだ。軽でありながら性能は本物。そんなキャラクター作りが図に当たった。
さて、どれを買おう?
なかなかに魅力的な顔ぶれの10ベストカーだが、自分だったらどれを買うか。マイナビニュースからの無茶ぶりには少し悩んだが、これに決めた。フォルクスワーゲン(VW)の電気自動車「ID.4」だ。このクルマ、一言でいうと「総合力の高いBEV版ゴルフ」といった感じなのである。
メルセデス・ベンツ「W124セダン」(30年前の1993年製)に乗る筆者が10ベストカーの中から買うとしたら、フル電気自動車(BEV)のアバルト「500e」かVW「ID.4」しかないと思っている。
アバルトは「チンクエチェント」(500)の愛らしいボディに155PSのハイパワーモーターを搭載した、楽しい走りができる魅力的なモデル。ただし、航続距離がちょっと短い(300km前後)のと600万円オーバーの価格がネックで、それだったら少し前に乗ったフィアット「500e」でも十分かなと思った。
一方のID.4は、VWがBEVシリーズの中核とすべく開発した重要な存在。MEBプラットフォームのRRともMRともいえる最新レイアウトを採用しており、実際に乗ってみると広くて静かで乗りやすいの一言だ。
航続距離は「ライト」が435km、「プロ」が618kmと十分。内装は特別豪華なわけではないけれど、現行の「ゴルフ」よりは質感が高く、メーターパネルの右側にある“ひねって”シフトするスイッチや、動画の再生と一時停止のマークを入れたアクセルとブレーキペダルには、VWの遊び心が感じられて笑ってしまった。
「ライト」グレードなら500万円以下というプライスも魅力的。気になる充電環境についてはVW、アウディ、ポルシェの3社による「プレミアム・チャージング・アライアンス」(PCA、急速充電インフラ網)を利用できるという特典がある。
1990年代のゴルフを何台も所有したことがある筆者にとっては、シンプルで安心感のあるID.4が21世紀版ゴルフのようで、親和性が感じられるのだ。
新社会人に必要な要素を満たす1台は?
「10ベストカーの中で新社会人にオススメするなら?」とのことだが、スバルの「クロストレック」はどうだろう。運転支援システム「アイサイト」の安全性と経済性を両立したコンパクトSUVだ。
運転歴が少なく、お給料はもらい始めたばかりという新社会人が所有するクルマの条件としては、経済性と安全性が第一で、さらにカッコよさや仲間とどこへでも行ける万能性があればもう十分。そんな条件で10ベストカーを絞り込むと、焦点が当たるのはクロストレックということになるだろう。経済性でいうと、軽のデリカミニを除けばクロストレックの標準グレード「ツーリング」(FF)が266.2万円と最も手を出しやすい。
ホットスタンプ材を多用して剛性を上げたボディは、対自動車だけでなく歩行者や自転車との衝突時におけるダメージ抑制も十分に考慮してある。3眼式になってさらに進化したアイサイトも相まって、安全性能は文句なしだ。筆者としては、もうちょっとがんばって11.6インチディスプレイの「アイサイトセイフティプラス」の視界拡張テクノロジーをオプションで載せておいてもらえば、より安心だと思う。
全長4,480mm、全幅1,800mmのボディは若葉マークでも運転しやすいサイズ感。シャークフィンやルーフレールのないモデルなら立体駐車場に収まる全高になる。最低地上高は200mmを確保しているので、FFモデルでも少々の凹凸路なら簡単にクリアできるし、22万円高の4WDモデルなら行ける範囲がさらに拡大する。
写真は新潟県の佐渡島で試乗した時のもの。「仙骨」を支えるという出来のいいシートのおかげもあって、長時間乗っても全く疲れ知らずだった。若者にクルマを好きになってもらうためには、こうした点は重要なところだ。
唯一のマイナスポイントは10~15km/Lという燃費性能。「e-BOXER」というマイルドハイブリッドシステムを使っているのだが、ストロングハイブリッドのクルマ(プリウスなど)と比べると燃費は見劣りがする。ただ、毎日ガンガン乗るというわけではない新社会人なら走行距離はそれほど伸びないだろうし、レギュラーガソリン仕様であることは救いになるはずだ。