代表作「INFOBAR」の発売から今年で20周年を迎えた「au Design project」。数々の名作デザインケータイを生み出してきたプロジェクトの今後を占う展覧会が、東京ミッドタウンの「21_21 DESIGN SIGHT」で開幕しました。
「Digital Happiness / いとおしいデジタルの時代。展」開催概要
- 会期:2023年11月23日~2023年12月10日(会期中無休)
- 会場:東京ミッドタウン 21_21 DESIGN SIGHT ギャラリー3
- 開館時間:10時~19時(最終日は17時閉館)
- 入館料:無料
歴史を振り返る「INFOBAR大百科展」と対をなす、もうひとつのイベント
INFOBAR20周年関連のイベントとしては、東京・多摩センターのKDDI MUSEUMで「INFOBAR大百科展」も10月末から来年1月まで開催中です(※関連記事)。
あちらは歴代INFOBARシリーズ各機種を徹底解剖して歴史を振り返る内容となっているのに対し、「Digital Happiness展」は過去ではなく未来に向けた内容という点において、対をなすイベントともいえます。
主な展示物は、ファン必見の「初代INFOBAR型Apple Watchケース」、そして携帯電話ではない新しい形でau Design projectの魂を受け継ぐ「Ubicot」と「METAVERSE WATCH」です。
開幕前日に取材の機会をいただいたので、ここからは一足先に見てきた各展示物の詳細をお伝えします。
初代INFOBARがApple Watchケースとして復活!?
まずはやはり、多くのファンが注目しているであろう「初代INFOBAR型Apple Watchケース」からご紹介しましょう。この記事の一番最初の写真、実は本物のINFOBARではないのですがお気付きでしょうか?
INFOBAR大百科展の取材レポートでも触れたとおり、現時点では携帯電話・スマートフォンとしてのau Design projectの新作が登場する予定は当面ありません。それは昨今の携帯電話業界を取り巻く状況から作るのが難しいという理由だけでなく、普遍化した今の携帯端末のなかで表層的なデザインだけではないau Design projectらしい新たな提案をする余地が少ないという意味もあります。
いまのau Design projectはどちらかといえばメタバース(αU)やNFTなどデジタルの世界に向いており、長年このプロジェクトを牽引してきたKDDIの砂原哲氏も現在はWeb3推進部所属となっているのですが、やはりリアルな製品を望む声は多く、ケータイそのものではなくとも何らかの形でファンの気持ちに応えたかったと砂原氏は語ります。
今回のイベントでは、市販化を前提に開発が進められている初代INFOBAR型Apple Watchケースのプロトタイプが展示されています。
2003年に発売された深澤直人氏デザインの初代INFOBARの外観を忠実に再現したもので、会場では“本物”も展示されているのですが、遠目には見分けがつかない……どころか、間近で見ても画面表示やApple Watch本体の一部が露出する右側面・背面を見なければ本物にしか見えないほどのクオリティでした。
携帯電話の画面に相当する部分にバンドを外した状態のApple Watch本体が収まるようになっており、裏面の充電部分や右側面のデジタルクラウンにはケースに入れたままアクセスできます。
Apple Watchを腕から外して使うというのもちょっと不思議な気がしますが、画面サイズ的に相性が良いだけでなく、これなら本物さながらに通話もできてしまうというのがポイント。買い替えで不要になった古いApple WatchをINFOBARのコアとして再利用できると思えば、意外とありなのではないでしょうか。
生成AIで対話するマスコット「Ubicot」
ファンサービスの意味合いが強い初代INFOBAR型Apple Watchケースに対し、今回お披露目されるもうひとつのアイテム「Ubicot」(ユビコット)はまさにこれからのau Design projectの方向性を示す重要なものといえます。
au Design projectが目指してきたのは、「毎日、目にし、手にするたびにちょっと幸せな気分になれる」という人とモノとの関係です。その表現方法は何もデザインケータイに限ったものではなく、今度は“生成AIマスコット”という別の形で、日々の生活の中で小さな幸せをもたらすような最新技術との付き合い方、感性に訴えかけるプロダクトのあり方を提案しています。
Ubicotは生成AIベースでユーザーと対話するマスコット。シンプルな表情と音声でコミュニケーションを取ります。あえてロボットではなく“マスコット”としているのは、「アニメとかマンガに出てくる使い魔のような存在」(砂原氏談)を目指しているそう。ガジェットというよりは知的なインテリアとして、机の片隅にちょこんと置いておく、あるいは小さなパートナーとして連れ歩くといったイメージで、何か役に立つ機能があるわけではなくとも、身近に置いておきたくなる雰囲気があります。
角のないやわらかな印象の箱を2つ重ねたような形をしており、“顔”にあたるディスプレイ部分にはつぶらな瞳だけが表示されています。シンプルなようで実際に動いているのを見ると不思議と無表情には思えず、愛着のわきそうなデザインでした。
まだ市販化の目処が経っているわけではありませんが、元々は2016年頃から温めていたアイデアが昨今の生成AIの急発展によってようやく実現できたという生い立ちや、INFOBARと同じ深澤直人氏デザインという力の入れようからしても、単なるコンセプトモデルで終わるつもりはないはず。いつか手元に迎えられる日を楽しみに待ちたいところです。
「METAVERSE WATCH」は展示装置にも注目
もうひとつの展示物、METAVERSE WATCH conceptはすでに発表されているもので、「リアルとバーチャルという2つの時空間をつなぐデバイス」と定義されています。現実世界でMETAVERSE WATCHを装着すると、仮想空間内の自身のアバターに装着されたもうひとつのMETAVERSE WATCHと連動し、生体情報や環境情報に応じたイベントが発生するというコンセプトです。
現時点ではリアル側のMETAVERSE WATCHのプロトタイプはまだなく、3Dモデルのみが公開されているのですが、その展示方法に注目。ソニーの「空間再現ディスプレイ」と京セラの「高精細空中ディスプレイ」という2種類の特殊な機器を使って、まるで目の前に実物があるかのような形で見られます。
写真ではお伝えできないのが残念ですが、近しいジャンルの表示装置かのように見えて実はまったく別のアプローチなので、その見え方・感じ方の違いは興味深いものでした。ざっくり言えば、ソニーの空間再現ディスプレイは装置形状の工夫と視線認識・追従で「箱の中の立体物をのぞき込んでいるように見せる」デバイス、京セラの高精細空中ディスプレイはミラーを駆使して実際に空中に映像を結像させるデバイスという違いがあります。
ソニーの空間再現ディスプレイはすでに市販化もされており何度か見たことがありましたが、京セラの高精細空中ディスプレイは初体験。京セラの方はまだ一般に市販されているデバイスではないため、こうして同じ3Dモデルを異なる方式の機材で見比べられること自体が非常に贅沢な機会であり、映像技術に関心のある方ならこれだけでも一見の価値があると思います。