フリーランスとして働くうえで必須となるのが、「源泉徴収」についての理解です。源泉徴収というと難しいイメージがあり敬遠してしまいがちですが、源泉徴収の仕組みを知らないと納税義務を果たせなかったり、余分に税金を納めてしまったりすることがあるため、基礎知識を頭に入れておく必要があります。

そこでこの記事では、フリーランスとして働く方に向けて、源泉徴収の概要や計算方法、注意点などを解説します。事業に集中して成果をあげるためにも、源泉徴収の疑問点をスッキリと解消しておきましょう。

■源泉徴収とは?

<源泉徴収の概要>

源泉徴収とは、給与や報酬を支払う側が、あらかじめ税金分を差し引いて給与・報酬を支払う制度です。この時差し引かれるのは所得税ですので、これを「源泉所得税」と呼びます。事業者には源泉徴収が義務付けられており、徴収した税金は税務署に納税する決まりです。また、源泉徴収は、基本的に個人に対する請求書の支払いが対象となります。

会社員の場合、給与から源泉所得税が徴収されるため、所得税を確定するために確定申告を行う必要はなく、年末調整だけで済んでしまいます。しかし、フリーランスの場合は会社員とは違い自分で確定申告をしなければなりません。その際、源泉徴収について把握しておかないと、支払う税金に過不足が生じる恐れがあるのです。

<源泉徴収の対象になる報酬>

フリーランスとして報酬を得るとき、源泉徴収の対象になる報酬は以下の8つです。

1.原稿料や講演料など
2.弁護士、公認会計士、司法書士等の特定の資格を持つ人などに支払う報酬・料金
3.社会保険診療報酬支払基金が支払う診療報酬
4.プロ野球選手、プロサッカーの選手、プロテニスの選手、モデルや外交員などに支払う報酬・料金
5.芸能人や芸能プロダクションを営む個人に支払う報酬・料金
6.宴会等で接待を行うコンパニオンやバー、キャバレーなどのホステスに支払う報酬・料金
7.プロ野球選手の契約金など、役務の提供を約することにより一時に支払う契約金
8.広告宣伝のための賞金や馬主に支払う競馬の賞金

このうち、フリーランスで該当する方が多いのは「原稿料や講演料など」でしょう。たとえば、原稿は執筆だけでなく校閲も源泉徴収の対象です。また、写真撮影料や作曲料なども源泉徴収の対象に含まれます。

ただし、Webデザイン料は源泉徴収の対象となりますが、Webサイトの製作のみの場合は対象にならないなど、作業の範囲によって対象になるかどうか細かく決められているものもあります。自分の仕事が源泉徴収に当てはまるかどうか分からない時は、お近くの税務署に相談してみましょう。

<源泉徴収税額の計算方法>

源泉徴収税額の計算は所得の内容によって異なりますが、報酬にかかる源泉徴収税額については、基本的に以下の計算式にて計算します。

・支払われる金額が100万円以下の場合

源泉徴収税額=支払われる金額×10.21%

例: 支払われる金額が30万円の場合の源泉徴収税額
30万円×10.21%=30,630円

・支払われる金額が100万円を超える場合

源泉徴収税額=(支払われる金額-100万円)×20.42%+102,100円

例: 支払われる金額が200万円の場合の源泉徴収税額
(200万円-100万円)×20.42%+102,100円=306,300円

■請求書に「源泉徴収税額」を記載する際は

源泉徴収の対象となる仕事の場合、請求書には源泉徴収税額を記載しておくのが通例です。「請求書に源泉徴収税額を記載しなければならない」というルールはありませんが、報酬を受け取る側のフリーランスは最終的に自分で確定申告をしなければなりませんので、その際に役立ちます。

特に、年間の報酬額によっては天引きされ過ぎたお金が還付金として受け取れますので、正しい金額を把握するためにも、請求書には源泉徴収税額を明記しておきましょう。

また、請求書に源泉徴収税額を記載する際は、以下のような点に注意が必要です。

<源泉徴収税額は消費税を含むのか決めておく>

初めて取引をする企業とは、源泉徴収の取り扱いや請求書への明記について取り決め、あとからトラブルにならないようにしましょう。特に、源泉徴収税額は消費税を含んだ金額なのか、それとも消費税抜きの金額なのかは企業によって考え方が異なりますので、行き違いがないようあらかじめ認識の一致が必要です。

源泉徴収は一定の報酬などが対象になりますが、原則として、報酬や料金だけでなくそれにかかる消費税も源泉徴収の対象となります。ただし、請求書で報酬・料金の金額(本体価格)と消費税の金額が明らかに分けられている場合は、消費税を除いた報酬・料金の金額のみを源泉徴収の対象とすることが可能です。

たとえば、10万円の報酬について、1万円の消費税を源泉徴収の対象とする場合としない場合の源泉徴収税額は以下のようになります。

・請求書に「報酬110,000円(消費税込)と記載する場合

源泉徴収税額は、「110,000円×10.21%=11,231円」です(1円未満がある場合は切り捨て)。

・請求書に「報酬100,000円、消費税等10,000円」と記載する場合

報酬金額と消費税の額を明確に分けて記載する場合、源泉徴収税額は「報酬100,000円×10.21%=10,210円」です。

なお、源泉徴収を行うのは企業側であるため、源泉徴収の取り決めは報酬を支払う側の企業が判断するのが一般的です。しかし、源泉徴収の取り扱いについて要望がある場合は、あらかじめ企業側に伝えておくようにしましょう。

<業務ごとに細かな明細を記載する>

複数の業務を委託された場合、請求書には業務ごとに細かな明細を記載しておくと安心です。たとえば、Webページのデザイン料は源泉徴収の対象となるのに対し、HTMLコーティング費用は課税対象にはなりません。

そこで、それぞれの報酬がいくらだったのか明記しておけば、課税対象額を減らすことにつながります。そのためにも、課税対象となる業務とならない業務についてはよく確認しておきましょう。

<支払調書は発行されないこともある>

請求書に関連して覚えておきたいのが、「支払調書」です。支払調書とは、フリーランスなどの取引先に対して、「どのような内容で年間いくらの支払いをしたのか」を税務署に報告するための書類です。支払調書には源泉徴収した金額も記載することが多いため、支払調書があると、報酬を支払われたフリーランス側は確定申告の際に年間の源泉徴収税額を把握するのに役立ちます。

ただし、支払調書は税務署への提出義務はありますが、フリーランス側への発行は義務付けられていません。支払調書が発行されなかった場合は、請求書に記載されている源泉徴収税額を足していき、確定申告の際に合算して申告します。

しかし、支払調書が発行されない場合でも、企業側の経理担当者に伝えると個別に発行してくれるケースもあるようです。支払調書が欲しい時は、発行してもらえるか念のため問い合わせてみましょう。

■確定申告する時の注意点

源泉徴収された報酬があるかどうかに関わらず、フリーランスは基本的に全員確定申告が必要です。その際、源泉徴収されたものがあれば必ず合計額を申告しましょう。源泉徴収されたということは、すでにその分の所得税を支払っているということです。確定申告で源泉徴収された分を申告しないと二重に課税されてしまいますので、源泉徴収された合計額は忘れずに申告しましょう。

源泉徴収された金額の合計は、確定申告書の「所得税及び復興特別所得税の源泉徴収税額」の欄に記載します。もし、源泉徴収された金額を計算に入れ忘れてしまった場合は、申告期限から5年以内なら更生の請求が可能です。

なお、源泉徴収税額は収入金額に一定割合を掛けて単純計算する仕組みのため、源泉徴収税額が確定申告で算出した年間税額を上回ることもあります。その場合、確定申告をすることで源泉徴収税額の還付が受けられますので、その意味でも確定申告は期限内に正しく行いましょう。

■源泉徴収する側になった時の対応ポイント

フリーランスとして仕事をしていると、誰かに仕事を依頼して報酬を支払い、自分が源泉徴収を行う立場になるケースもあるでしょう。ただし、個人の場合、以下の2点のうちどちらかの条件に当てはまる場合は、源泉徴収を行う必要はありません。

①常時2人以下の家事使用人だけに給与や退職金を支払っている人
②給与や退職金の支払いがなく、弁護士報酬などの報酬・料金だけを支払っている人

このように、フリーランスで源泉徴収を行うのはごく限られたケースになります。

一方、源泉徴収を行う義務のある「源泉徴収義務者」に該当した場合、徴収した源泉所得税は税務署に納付します。「報酬・料金等の所得税徴収高計算書」を添えて、お近くの金融機関や所轄の税務署の窓口にて納付を行いましょう。

徴収した源泉所得税は、源泉徴収の対象となる所得を支払った月の翌月10日までに納めます(期限日が土日祝にあたる場合はその翌日)。ただし、従業員が10人未満の場合、毎月の納付ではなく年2回(1月、7月)の納付に変更可能です。

この特例を受けるには、「源泉所得税の納期の特例の承認に関する申請書」を提出し、所轄の税務署長から認可を受ける必要があります。申請に通った場合、1月から6月までの源泉所得税を7月10日までに、7月から12月までの源泉所得税を翌年1月10日までに納付します。

■源泉徴収の知識はフリーランスに欠かせない

フリーランスとして働いていると、会社員時代とは違い、自分で知識を得てこなさなければならない作業も多く発生します。源泉徴収に関連する税務もそのうちの1つでしょう。税金については複雑で分かりづらい部分も多いですが、フリーランスとして働く以上、源泉徴収の仕組みはしっかりと把握しておきたいものです。

源泉徴収されるものとされないもの、請求書への記載方法などを正しく認識し、確定申告では忘れずに源泉徴収税額を申告しましょう。