「働きやすい職場」と聞くと、どのような会社を思い浮かべるでしょうか。みんなが楽しそうに働いているとか、出産などのライフイベントに柔軟に対応してくれるとか、人それぞれに抱くイメージはさまざまでしょう。
また、ダイバーシティやインクルージョンなどの考え方も当たり前となり、性別や国籍、障がいの有無などに関わらずに多様な人材を受け入れ、能力を発揮できる体制の整備も企業に求められています。
人材確保のためにも働きやすい職場づくりに向き合う企業は増えているものの、社員一人ひとりの要望や社会的使命のすべてに応えるには課題も多いのが現状でしょう。
そんな中、1977年の創業当時から「社員第一主義」を掲げている札幌のソフトウェア開発企業SOCが、外国籍や障がいのある方、未経験者、女性の採用に積極的に取り組んでいると知り、具体的な方策や背景、今後目指していることなどを聞いてきました。
出産や育児で辞める社員はゼロ!
インタビューに答えてくれたのは、2016年に社長就任した朝倉由紀子さん。
半世紀近くにわたり、社員を大切する姿勢を貫いている背景を尋ねると「システム開発は、お客さまの声、ご要望を聞いて作り上げていく仕事です。お客さまを大事にするのはもちろん、社員にも長く働いてもらわなければ企業として成長はできません。ですから、人が財産という信念は自然に生まれ、育まれてきました」と、柔らかな表情で語ってくれました。
「創業者であり現会長は、私の父です。私が子どもの頃、お正月には社員みんながうちに集い、とてもにぎやかに過ごしていたのを覚えています。当時は、まるで家族のようにどのような時も一丸となってまとまっていたのでしょう」
事業の拡大とともに社員数が増えるに連れて、アットホームなつながりだけではなく人事上の制度も整え、実践してきたと言います。
「社員それぞれに仕事に対する思いや事情が違いますから、働き方を個人が選択できて気持ちよく働いてもらえる会社にしたいんです」
そんな一例として教えてくれたのは、産休・育休制度を初めて導入したときのエピソード。
今から20年ほど前。出産や育児をしながら女性が仕事をするのは結構難しいという時代に、同社では出産を控えた女性社員にどうにか続けてもらうために何ができるかを考えたそうです。
そして、本人の希望をしっかり聞きながら、産休・育休と時短勤務の制度を導入し、子育てしながらも働きやすい環境を整えていきました。
本人からは「こんな会社はない!」と喜ばれ、制度を利用する女性社員が後に続きました。今では、出産で辞める社員はゼロとのことです。
「創業当時から、働きがいを感じてもらうために何ができるのかを試行錯誤してきました。社員一人ひとりに寄り添う姿勢を何よりも大切にしています」
外国籍や障がいのある人も活躍
SOCでは、外国籍の方や障がいのある方の採用にも積極的に取り組んでいます。
ダイバーシティ推進に力を入れ始めたきっかけなどはあったのでしょうか。
「特に意識して取り組んできたわけではないんです。当社は、やる気がある人、能力・スキルがある人を条件で区別することなく採用するという方針をずっと貫いてきました。ですから、採用を決めた方の中に、たまたま障がいのある方、外国籍の方がいたというだけです」
まさにダイバーシティの考え方を昭和の時代から実践してきたというわけですね。
もちろん、採用するだけではなく、より働きやすい環境や施設の整備にも力を入れています。
例えば、外国籍の方たちの文化や習慣を知り、お互いの理解を促進するために月に1回ほどのペースで「交流会」を開催。外国籍の社員と日本人社員・役員が参加して、日本で働く上での質問や相談などに応え、情報交換する場になっています。
各国の風習や宗教も尊重し、2021年には社屋2カ所に礼拝室を設置しました。外国籍の社員からは「落ち着いて礼拝できるようになり、時間的にも精神的にも余裕ができて仕事にも良い影響が出ています。とてもありがたいです」と、立派な礼拝室に感動の声が上がっています。
また、障がいの特性に合わせて対応するためにはどうしたらいいかというプロジェクトを15年前に立ち上げて、社員みんなで議論を重ねてきました。マニュアルを作成して相互理解に努めるとともに、車椅子用のスロープやトイレ、屋根付きの駐車場の整備、手話の習得などに取り組んでいます。
「数年前に、車椅子を使っている社員の結婚式に出席させてもらいました。晴れの姿を見るだけで私は感動して涙、涙……。ありがとうございますと言われましたが、私の方こそありがとうで一杯でした。これからも社員みんなにとって働きやすい職場づくりを続けていこうと、気持ちをあらたにしました」
働き方改革の基本は人を大切にする想い
朝倉さんに、今後さらに取り組んでいきたいこと、目標なども聞きました。
「子育て中の方、出産を機に仕事を辞めた方、障がいのある方でもチャレンジする気持ちさえあれば働ける場があることを広く伝え、社会とつながる喜びを一人でも多くの人に体験してほしいです」
ITと聞くだけで抵抗感がある人向けに、習いごと感覚で楽しくITを学べる教室を開きたいそうです。
また、オフィスの雰囲気づくりにも力を入れて、ゆったりとしたラウンジを創るなど、よりリラックスして仕事ができる環境を整えていきたい、と語る社長の頭の中にはあれこれ構想がめぐっているようでした。
コロナ禍前から導入してきたテレワークについても、より多くの社員が利用しやすいように新しい仕組みづくりに着手。できるだけ残業を減らして家族や自分の時間を大切にしてもらいたいという想いから、社員一人ひとりの状況を把握して作業の計画を見直したりしています。
最近では、男性の育休利用者も増えているそうです。
「新卒者はもちろん年齢や条件を問わずに当社とご縁をいただいた方々が長く働いてくれるよう制度や環境を整えていきます。社員にしっかり寄り添うことでどんな対応が求められるか、次に何をしたらいいかが見えてくるので真摯に向き合っていきます」
社員みんなと人間的にも成長しながら仕事をしていけたら、お互いに幸せですね、と言う朝倉社長の笑顔が印象的でした。
「ダイバーシティ」や「働き方改革」という言葉が生まれる前から、独自にさまざまな改革に取り組んできたSOC。
その根底にあるのは、人を大切にするという、創業以来変わらない想いであることに静かに感銘しました。
自身も子育てを経験した女性ならではの感覚・視点で、さらに働きがいのある会社づくりに向かう朝倉さん。きっと、他の企業でも参考にしたくなるような仕組みや環境が1つずつカタチになっていくことでしょう。