今年6月、性的マイノリティーに対する理解を広めるための「LGBT理解増進法」が施行されましたが、まだまだ課題は山積み。それは“ウエディング業界”においても同じことが言えそうです。
こういった現状を少しでも変えるべく、結婚情報サイト『マイナビウエディング』は来る11月22日(いいふうふの日)、ウエディング業界のLGBTQ+理解増進プロジェクト「OVER THE RAINBOW WEDDING」をスタートさせることを決定しました。
一体、どのような方法でLGBTQ+に関する理解を広げていくのか、そもそもウエディング業界にはどのような課題が残っているのか、マイナビウエディング編集部の部長・平田美和さんに話をお聞きしました!
LGBTQ+の結婚式は「前例がないので受け入れられない」というケースも
――まず、LGBTQ+カップルを取り巻くウエディング業界の現状について教えてください。
そもそも結婚式については、何か法律的な縛りがあるわけではないので、誰でも挙げることができます。しかし、ウエディング業界では従来「結婚式=婚姻を結ぶ男女が挙げるもの」と考えられており、サービスのほとんどが異性のカップルを対象としたものとなっているのです。
――具体的にはどういったサービスですか?
例えば、式場に提出する書類ひとつを見ても、「新郎」「新婦」「入籍日」など、LGBTQ+には当てはまらない質問項目が当然のように並んでいますし、選べる衣装も異性カップルの専用プランばかりで、「ドレスとドレス」「タキシードとタキシード」といった選択肢はほとんど存在しません。
中には「(LGBTQ+の結婚式は)前例がないので受け入れられません」と断られるケースもあるなど、LGBTQ+カップルたちにとって、式場を探すだけでもハードルが高い現状です。
――日本では同性婚が認められていないということも影響していそうですね……。
同性婚は認められていなくても、日本では約10人に1人がLGBTQ+層に該当するといわれていますから、世間で思われているよりずっと多いはずです。
今は各自治体が次々にパートナーシップ制度を導入し始め、今年5月末時点の登録件数は5171組にのぼっています。NPO法人「虹色ダイバーシティ」の調査では、同性婚が認められた場合、結婚するカップルは12万組以上いるとも見られています。
しかし、LGBTQ+カップルに適切なサービスを提供できているウエディング企業は現状かなり限られていて、6割くらいは「適切なサービスを提供できていない」と自覚しているようです。
――実際、結婚式について、当事者の方々からはどんな声が寄せられていますか?
例えば、「前撮りをしたいと思ってサイトを見ているときに、異性カップル(ドレス×タキシードなど)の料金しか載っていなかったので、問い合わせる際、必然的にカミングアウトまでしなければならなかった」(こてぃもか様)という話も聞きました。
また、「新婦/新婦の結婚式なのに、名前を記入する欄には新郎/新婦しかなかった。事前の打ち合わせでは、学生時代から仲のいい友達の名前を聞かれて、女友達の名前しか挙げなかったので変な空気になった」(あいたむ様)といった声も届いています。
――「結婚式=異性カップルが挙げるもの」という間違った前提があるせいで、LGBTQ+の方々はいろんな場面で傷ついているんですね。
もちろん逆のケースもあり、「LGBTQ+婚をしたことがない会場で披露宴を行ったが、何度も打ち合わせをしていただき、さまざまなご提案を頂けた。特にLGBTQ+のカップルだからという意識もなく、男女のカップルと同じように私たちがやりたいことをプロの目線で提案していただけた。当日もスタッフの方全員が同じように感動してくださったことも思い出に残っている」(ShoRyo channnel.様)といった感謝の言葉を耳にしたこともあります。
この方はもともと、「性的マイノリティを理由に断られても仕方がないな」と諦め半分だったようですが、会場に恵まれたことで、結果的に素晴らしい披露宴を開催できたと喜ばれていました。ウエディングサービスを提供する企業側の受け入れ態勢の整備がいかに重要かを示す一例でしょう。
プロジェクトの使命は「LGBTQ+フレンドリーな企業」を増やすこと
――今回、新たに「OVER THE RAINBOW WEDDING」プロジェクトを立ち上げたキッカケについて教えてください。
マイナビウエディングは、2015年から結婚式についてプロに無料相談できる「マイナビウエディングサロン」というサービスを提供していますが、サロンスタッフは業界初となる「LGBTウエディングコンシェルジュ研修」を受講するなど、LGBTQ+に対する取り組みを続けてきました。
サロンの活動中もLGBTQ+の皆さまから悩みの声が寄せられていて、「当事者が安心して結婚式場を探すには、もっとLGBTQ+フレンドリーなウエディング企業を増やさないといけない」と考え、プロジェクトを立ち上げることにしたんです。
――なぜ、マイナビウエディングはいち早くLGBTQ+問題に対する取り組みに力を入れられたのでしょう?
社内にLGBTQ+の子がいたことが大きいですね。当事者のリアルな意見を直接聞いたことで、社員みんなが「私たちもこの問題にちゃんと取り組んだほうがいい」と感じましたし、いろんな取り組みがスピーディーに実施できました。
私たちのLGBTQ+に関する活動はメディアにも取り上げられ、そのおかげで当事者からの相談もかなり増えましたね。
――新プロジェクトでは、具体的にどのような活動を行っていくんですか?
まずは『LGBTQ+フレンドリーハンドブック』を制作して、マイナビウエディングで公開し、これを業界内で広めていきたいと考えています。これはウエディング企業側に、LGBTQ+への理解を促進する内容となっていて、当事者の生の声なども反映しています。
また、「LGBTQ+のカップルが安心して結婚式場を探せること」をゴールに設定しているので、LGBTQ+フレンドリーなウエディング企業を広く募集し、応募要件を満たした企業を一覧にまとめて公開したいとも思っています。
「ここに掲載されている企業に相談すれば、どなたでも安心して結婚式を挙げられますよ」と提示することで、カップルたちの安心材料になるかと期待しています。
――「LGBTQ+フレンドリーなウエディング企業」の条件は決まっているんですか?
いくつかあって、例えば「OVER THE RAINBOW WEDDING」プロジェクトに賛同し、共に推進していくという志を持っていること、『LGBTQ+フレンドリーハンドブック』を読んで内容を深く理解していること、もしくはすでに関連する研修を受けたり、実績を積んでいたりすること……などを条件にしています。
――どれくらいの企業が集まりそうですか?
現在、マイナビウエディングには、トータルで800弱の挙式・披露宴会場を掲載していますが、現時点でLGBTQ+フレンドリーの条件を満たしている結婚式場は65会場、ジュエリーショップは20ブランドに留まっています。今後、この会場数をどれだけ増やしていけるかが最大のミッションですね。
今は、ウエディング業界向けに、LGBTQ+カップルに対応するための有料の研修プログラムなども準備しているところです。
「いろんなかたちの結婚があっていい」価値観のアップデートが課題!
――最後に、今後の長期的な目標などがあれば教えてください!
まず、ウエディング業界全体の問題として、婚姻数が年々減少しているという現状があります。しかも、婚姻するカップルがみんな結婚式を挙げるわけでもありませんから、業界が受ける影響もどんどん大きくなっています。
ウエディング業界がこれ以上衰退しないためには、従来のスタイルに囚われるのではなく、もっと視野を広げて、いろんなかたちでいろんなカップルをサポートしていかなければなりません。なぜカップルは一緒にいるのか、なぜ結婚式をするのか、という根本的なところから改めて見つめ直し、「もっといろんなかたちの結婚があっていいんだ」という価値観を根付かせたいと願っています。
「OVER THE RAINBOW WEDDING」プロジェクトが作成した『LGBTQ+フレンドリーハンドブック』は、マイナビウエディングのページ内で無料公開されるそうです。ウエディング業界の関係者でなくても、LGBTQ+への理解を深めるために一読しておくとよさそうですね。
取材協力:平田美和(ひらた・みわ)
2007年よりウエディング業界に従事し、2014年に株式会社マイナビに入社。マイナビウエディングのコンテンツマーケティング、プロモーション担当を経て、2021年5月現職に着任。固定観念にとらわれず、カスタマーが求める有益な情報を届けられるメディアづくりを目指す。