山梨県甲府市にある日本遺産「昇仙峡」に、IoTスマートごみ箱「SmaGO(スマゴ)」が設置された。ごみ収集作業の効率化を進めるとともに、ポイ捨て対策と環境保全の効果が期待されている。10月18日の式典の様子をお伝えしたい。
■コロナ禍を経て観光客が再び集まる昇仙峡
新型コロナウイルス感染症が5類に移行したことを受け、国内観光は回復の兆しを見せている。また、昨今の急激な円安の進行によりインバウンドも活況だ。だが一方で、キャパシティを超える観光客の増加、いわゆるオーバーツーリズムに悩む観光地も増えている。山梨県甲府市にある日本遺産「昇仙峡」も、そんな課題を抱える観光地のひとつと言える。
昇仙峡は、日本一の渓谷美にも選出された観光名所。長瀞橋から仙娥滝まで約5キロの渓谷で、その間にさまざまな断崖や奇岩・奇石があり、水晶やアメジストなどの加工が盛んだ。渓谷と松林が作り出す紅葉の風景はとくに優美で、シーズン中は多くの観光客が訪れる。2023年はちょうど名勝指定100年、特別名勝指定70年を迎える特別な節目となった。
このような状況の中、甲府市、甲府観光開発、日本観光振興協会(以下、日観振)、JT、JTBは、観光客受入環境整備およびSDGs推進を目的として、FORCETEC(フォーステック)の開発するIoTスマートごみ箱「SmaGO(スマゴ)」の導入を決めた。
■SmaGOが実現するごみ・手間・コストの削減
「SmaGO」には大きな特徴は3つある。1つ目は、ごみが溜まると自動で圧縮し、容積に対し約5倍の量のごみを収容できること。ごみを回収する頻度を減らすことで、ごみ箱からごみが溢れる問題や回収の手間への対策となる。
2つ目は、ごみの蓄積状況を管理できること。ごみを分析してクラウドに情報をアップロードし、スマホやタブレットからリアルタイムにごみの量を知ることができる。ごみ箱がいっぱいになりそうなときに必要に応じて回収すれば良くなるため、業務効率の改善に繋がるだろう。
3つ目は、ごみ箱の天面にソーラーパネルを備え、太陽光発電で必要な電力を賄えること。電源がいらないため設置場所を選ばず、また悪天候にも強い。自然を活かした観光施設においては、環境保全の一助となりそうだ。
昇仙峡での設置期間は10月18日から12月17日までを予定。ロープウェイ乗り場、山頂、仙娥滝上の3カ所に、1セット2台ずつ、計3セット6台が設置される。
甲府市は設置の意義を「世界的に持続可能な活動が求められる中、そういった要求を満たすゴミ圧縮機能や通信機能、電力を賄うソーラーパネルなどを備え、これからの持続可能な観光地整備のモデルケースとなるような高機能なツールであり、観光地の環境美化に有用であると考えている」と説明する。
■昇仙峡ロープウェイで開催されたセレモニー
10月18日に行われたセレモニーには、甲府市長の樋口雄一氏を始めとした各社の代表らが出席。「SmaGo」の設置に際する祝辞を述べるとともに、その意義と目的について語った。
甲府市長の樋口氏は、「昇仙峡は、長い年月と自然の奇跡が生み出した日本一の渓谷美を誇る、甲府市随一の観光地です。本日設置のSmaGOは、観光地の環境美化に寄与し、自然に優しく、また持続可能な観光地作りに繋がると考えています。昇仙峡はこれから紅葉の最盛期を迎え、本格的な観光シーズンに突入をしますので、受け入れ環境の充実とともにみなさまをお迎えできますことを大変うれしく思います」とその効果に期待を寄せる。
日観振の常務理事 皆見薫氏は「コロナ禍が収束を見せたことにより、国内観光は回復軌道に乗りましたが、一方で多くの観光客が持ち込むごみによる環境問題が深刻化しています。景観の悪化や安全性の観点から『ごみ箱』の撤去が進む傾向にあり、観光客がごみを放置するケースも見受けられています。回復基調にある観光をより一層盛り上げていくために、本プロジェクトを推進することになりました」と経緯を述べる。
また、「日観振は、各地域の自治体、観光協会、観光産業で組織され、日本の観光振興のナショナルセンターとしての役割を担っています。今後は観光による人流促進と地域経済の活性化を目的とした新たなツーリズムの推進、観光素材の磨き上げとともに、一方では旅行需要の平準化や効率性を高める『旅の提案』を推し進め、各観光分野が抱える人材不足の解消に取り組んで行きたいと考えています」と、これからの国内観光における展望を話した。
■現地が期待するSmaGoの役割
昇仙峡にも従来はごみ箱があった。だが、ごみをあさる野生鳥獣が増加し、5年ほど前に撤去してしまったという事情がある。現在は各店舗がそれぞれごみを管理しているが、外国人観光客が増加する中で「ごみを捨てにくい」という声が挙がるようになった。甲府観光開発の芦澤卓夫氏は、こういった鳥獣被害の軽減を実現と観光客の利便性向上をSmaGoに期待する。
「今回のSmaGO導入によって、外国人を始めとした観光客のみなさんが気軽にごみを捨てられるようになればと思っています。私どもは、密閉型でごみを圧縮できることが一番の強みだと感じています。紅葉シーズンにはごみの回収が間に合わないことが多いのですが、SmaGOなら5回分の交換が一回で済みますから」(甲府観光開発 芦澤氏)
とはいえ、人口減少が続く地方の観光地では労働力の限界もある。芦澤氏は「みなさんが高速道路などでPAを利用する際、車内のごみも一緒に捨てたりしますよね。ロープウェー乗り場も駐車場の近くなので車内ごみが多いのですが、ここでは昇仙峡で消費したごみだけを捨ててもらって、車内のごみはそのまま持って帰っていただければ大変ありがたいです」と、環境維持に向けたメッセージを送った。
■Rethink PROJECTが目指す社会貢献
今回のSmaGO導入に全面的な協賛を行っているのがJTだ。JTは地域社会への貢献活動として「Rethink PROJECT」を推し進めており、重点課題として環境問題も挙げている同社のビジョンに合致した形と言える。
JT 山梨支社で支社長を務める奈良忠克氏は、「観光地のごみ問題は私たちも聞いており、何かお手伝いができないかなと考えておりました。とくに昇仙峡のような観光地はオンシーズンとオフシーズンで観光客数が大きく異なり、働く人たちの数も調整しなくてはなりません。SmaGOは、そういった地域のオペレーション課題をIoT技術で解決しつつ、環境に対する意識にも訴えかけるものです。JTBさんからお話を伺って、ぜひタッグを組みたいと思いました」と、その経緯について語る。
「私どもはたばこを取り扱っており、吸う人も吸わない人も気持ちよく過ごしていただく環境作りを目指しています。地域に暮らす人、訪れる人、さまざまな方の多様性を尊重することが大切だと考えています。観光地においても訪れた人がまた来たいと思ってもらえるように、地域の方と連携して課題解決をお手伝いし、多様な人たちが共存共栄できる社会を実現することこそ、JTの社会貢献だと考えています」(JT 奈良氏)
昇仙峡に設置された「SmaGO」の本体はクリーム色で、動植物や環境に関する色とりどりのアイコンがデザインされている。SmaGOは都市圏でも導入事例があるが、そういったエリアに比べ、環境に調和しつつもごみ箱であることに気づきやすいデザインと言える。これも関係各社が伝えたいメッセージの表れと言えそうだ。
「堅苦しくなってしまいましたが、昇仙峡を訪れるみなさんには、ぜひ楽しみながらごみを捨ててもらいたいですね。ごみを捨てるのはとても日常的な行動ですが、そこで出会うちょっとした変化で気づくこともあるのではないかと思っています」(JT 奈良氏)