近畿日本鉄道は、高安山地域の魅力を発信するデコレーショントレイン「高安まなびやま」を11月18日から運行開始。同日に大阪上本町駅で出発式を開催した。大阪上本町駅発信貴山口行の臨時準急として運行された後、信貴線で営業運転を行った。
デコレーショントレイン「高安まなびやま」がおもに運行される信貴線は、大阪線の河内山本駅から信貴山口駅までを結ぶ全長2.8kmの支線である。終点の信貴山口駅で西信貴ケーブル(西信貴鋼索線)に接続しており、高安山や信貴山へのアクセス路線として機能している。
近鉄は今年、信貴線と西信貴ケーブルの沿線である大阪府八尾市と連携し、高安山地域の魅力創造に取り組んでいる。両者は今年10月、「地域の活性化に関する連携協定」を締結。デコレーショントレイン「高安まなびやま」も地域活性化の一環で導入された。デザインは一般公募で集まった応募作品から選出。八尾市在住の有識者らが委員を務めた。
デコレーショントレイン「高安まなびやま」は近鉄の1430系1編成(2両編成)を使用し、高安山地域の魅力を「見て、乗って、感じて、学ぶ」車両に。外観は一般公募で集まった高安山地域の生物や景観などの写真・イラストを使用した。
信貴山口方の車両は「高安山の自然を感じて、学ぶ」、河内山本方の車両は「高安山の観光を感じて、学ぶ」デザインとなっている。写真の中に西信貴ケーブルも含まれ、「寅」のイラストを描いた旧塗装時代の「ずいうん」の写真もあった。車内の中吊りは一般公募で集まったイラストを掲出。車内の掲示枠や扉周辺でも写真と装飾を楽しめる。
出発式は大阪上本町駅の9番ホームで行われた。挨拶した近畿日本鉄道取締役専務執行役員の芳野彰夫氏は、写真・イラストの一般公募において、八尾市民を中心に231点の応募があったことを報告。「高安まなびやま」を運行する目的として、「高安山地域の魅力をより広く発信する」ことを挙げた。八尾市長の大松桂右氏は、近鉄との連携協定による地域活性化に触れ、「大阪府で唯一の西信貴ケーブルなどの資源を活用しながら、八尾市の活性化につなげていく」と述べた。
10時16分、大阪上本町駅の駅長による合図とともに、デコレーショントレイン「高安まなびやま」は信貴山口駅へ向けて発車した。同列車は11月18日から当分の間、おもに信貴線で運行予定。一部、大阪線内も運行するとのこと。
■生活路線の信貴線、西信貴ケーブルから「寅のお寺」にも行ける
信貴線は1930(昭和5)年、近鉄の前身にあたる大阪電気軌道により開通。同時に信貴山口~高安山間の鋼索線、高安山~信貴山門間の山上鉄道線も信貴山電鉄により開通した。
この3路線が開通したことで、大阪市内から信貴山への足が確保され、人気を博した。しかし第二次世界大戦の影響で、信貴線以外の路線は休止に追い込まれた。戦後、鋼索線は復活したものの、高安山~信貴山門間は廃止された。
出発式の取材後、筆者も信貴線の電車に乗車。河内山本駅で大阪上本町駅から来た区間準急と接続するため、大阪市内から信貴山口駅へのアクセスはスムーズに感じられた。
偶然にも、乗車した信貴山口行の電車は「高安まなびやま」だった。筆者が乗車した日はあいにくの雨だったため、登山客の姿は見かけなかった。それでも、座席がそこそこ埋まるほどの乗車率で、生活路線として浸透していることを実感する。乗客や沿線の人々も「高安まなびやま」のデコレーションに関心を持った様子だった。信貴線の途中駅は服部川駅のみだが、予想していたよりも乗降客は多い。終着駅の信貴山口駅から、西信貴ケーブルへ容易に乗り継げる。
ところで、西信貴ケーブルの高安山駅からバスに乗り換え、約10分でたどり着く信貴山朝護孫子寺は「寅のお寺」として知られ、巨大な「張り子の寅」が迎える。これにちなみ、西信貴ケーブルの車両「ずいうん」「しょううん」も「寅」のヘッドマークとラッピングが施されている。関西では、「寅」といえば阪神タイガースと結び付ける人が多い。信貴山朝護孫子寺も阪神タイガースの日本一を記念し、期間限定で「優勝記念ご朱印」を発売したという。阪神タイガースにあやかって、信貴山を訪れるのも面白いかもしれない。