ホンダがコンパクトSUV「WR-V」を日本に導入する。価格は200万円台前半から、発売は2024年春ごろの予定だ。このSUV、正体はインドで販売している「エレベイト」というクルマなのだが、なぜホンダは日本でも売ろうと考えたのか。事前撮影会で話を聞いた。

  • ホンダ「WR-V」

    ホンダが新型コンパクトSUV「WR-V」を発表! 日本投入の狙いは?

もともとはインド向けのクルマ?

ホンダは現在、「WR-V」というクルマをアジアで、「エレベイト」(ELEVATE)というクルマをインドで販売している。日本には「エレベイト」を「WR-V」の車名で導入する。

日本版WR-Vは全長4,325mm、全幅1,790mm、全高1,650mmのコンパクトSUV。パワートレインは1.5Lのガソリンエンジンのみで、グレードは「X」「Z」「Z+」の3種類となる。生産地はインドのラジャスタン州にあるHonda Cars India Ltd.の工場。2014年に生産を開始したホンダで最も新しい完成車工場だ。日本では「アコード」の納車前検査(PDI)を担当しているホンダオートボディが検査を行うという。

ちなみに、エレベイトをインド法人のHPで調べてみると、価格は109.99万インドルピー(約199万円)、トランスミッションはオートマ(AT)とマニュアル(MT)あり、燃費はATが16.92km/L、MTが15.31km/L、動力性能は最高出力121PS、最大トルク145Nmとなっていた。日本仕様にマニュアルはないそうだ。

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    写真は「WR-V」の「Z+」グレード。「Z」「Z+」は17インチアルミホイール、「X」は16インチスチールホイール+フルホイールキャップとなる。ボディカラーは新色の「イルミナスレッド・メタリック」

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  • 「MASCULINE & CONFIDENT」をコンセプトとするスクエアでアウトドア派のデザインは、ホンダのラインアップとしては珍しい存在となりそう

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    グレードによる外観の違い

開発責任者の金子宗嗣さんによると、WR-Vの開発が本格化したのは2021年のこと。開発自体はそれよりも前に始まっていたという。

開発陣に話を聞くと、WR-Vは開発当初から日本に導入しようと決めていたクルマではなかったそうだ。これを日本に持ってくることにしたのはナゼなのか。ホンダの説明は納得できすぎるものだった。

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  • こちらは「Z」グレード。ボディカラーは「メテオロイドグレー・メタリック」

成長市場で戦うための武器として導入?

まず、日本の自動車市場が縮小する一方でSUV市場は拡大傾向にある。SUVの販売台数は伸び続けており、SUVへの乗り換え意欲も高いというのが現状だ。

  • ホンダ「WR-V」説明資料

    過去10年の日本の自動車市場を見ると、足元ではコロナ禍と半導体不足の影響が和らいで持ち直しの兆しが見えているものの、全体としては規模縮小の傾向が続いている。そんな中、SUVはセグメントシェアを4倍まで伸ばしており、販売台数は年間100万台に迫る勢いを示している

伸びるSUV市場の中で最も勢いのあるジャンルが「スモール・コンパクト」だ。つまり、150~250万円の小さなSUVが大いに売れている。トヨタ自動車「ライズ」、ダイハツ工業「ロッキー」、トヨタ「ヤリスクロス」などのヒット商品が同市場の拡大を牽引したのだろう。

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    2019年以降は250万円以下のスモール・コンパクトSUV市場が急成長。トヨタ「ライズ」の発売は2019年11月、「ヤリスクロス」の発売は2020年8月だ。この価格帯ではガソリンエンジン車(ハイブリッド車ではない)の販売が7割を占める

この成長市場で戦うための武器をホンダは持っていたのか。コンパクトSUV「ヴェゼル」のガソリンエンジン搭載車(FF)は239.11万円で条件に合致するが、ヴェゼルの売れ筋はe:HEVを搭載する300万円前後のハイブリッド車であり、これだけでは商機をつかみきれなかった。そこで登場するのがWR-Vというわけだ。クーペスタイルの「都市型SUV」であるヴェゼルに加え、四角くてタフなイメージのWR-Vもラインアップに加わればホンダSUVの選択肢に広がりもでる。

  • ホンダ「WR-V」説明資料

    「WR-V」のターゲットユーザー。ボリュームとしては子離れ世代が多くなりそうだが、訴求のメインターゲットに据えるのはミレニアル世代だ

「フィット」からの乗り換えに最適?

商品企画を担当する佐藤大輔さんによると、「WR-V」の競合に対する「勝ち技」は「ダイナミックで塊感のある、SUVとしての力強いデザイン」 「コンパクトSUVトップクラスの広々として快適な空間(後席、荷室も広い)」「250万円以下の価格帯でありながらしっかりとした車格感(バリューフォーマネーが高い)」だ。ただ安いだけでなく、先進安全装備の「ホンダセンシング」をしっかりと装備しているところもポイントだという。

佐藤さんに聞くとホンダでは、保有台数の多い小型車「フィット」から他社のコンパクトSUVにユーザーが流出してしまっている現状を課題として捉えていたという。これも非常に納得できる話だ。例えばフィットや軽自動車「Nシリーズ」でホンダ車デビューを果たした人が、昇給するなり友達が増えるなり結婚するなりして、少し大きくて少し高いSUVに乗り換えたいと思った場合、ヴェゼルの売れ筋であるハイブリッド車までは手が届かず、ヤリスクロスやマツダ「CX-3」などに流れていくというケースは十分に想像できる。この状況に歯止めをかける役割をWR-Vが担う。

これでホンダSUVの国内向けラインアップは「WR-V」「ヴェゼル」「ZR-V」の3台体制になる。エントリーモデルのWR-Vが加わったことで、ホンダSUVの間口は大きく広がった印象だ。あとは3列シート7人乗りの大きなSUVが追加となればほぼ完成形に近い形となりそうだが……。

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  • 「WR-V」の内装。写真は「Zグレード」

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  • 「Z」「Z+」はプライムスムース×ファブリックのコンビシート、「X」はファブリックシートとなる。写真は「Zグレード」

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    「WR-V」の純正アクセサリー装着車

最後にライバルとWR-Vを簡単に比較しておこう。「小さくて」「ガソリンエンジンの」「250万円以下で買える」SUVがWR-Vの競合となるが、これらの条件を兼ね備えるコンパクトSUVといえばヤリスクロス、ライズ/ロッキー、CX-3などが思い浮かぶ。各モデルのガソリンエンジン搭載車とWR-Vを比べてみると下記の通りだ。

車名 WR-V ヤリスクロス ライズ CX-3(15S Touring、2WD)
価格(万円) 200万円台前半 189.6~236.7 171.7~204.9 227.92
全長/全幅/全高(mm) 4,325/1,790/1,650 4,180/1,765/1,590(Xグレード) 3,995/1,695/1,620 4,275/1,765/1,550
燃費(km/L) エレベイトは16.92 20.2(Xグレード、2WD) 20.7(Xグレード、2WD) 17
排気量 1.5L 1.5L 2WD:1.2L、4WD:1.0Lターボ 1.5L
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  • 左から「ヤリスクロス」「ライズ」「CX-3」