国語辞典などで知られる出版社・三省堂が、オタク用語を約1,600語収録した辞典「オタク用語辞典 大限界」を、11月21日に発売すると発表した。これが当初ネット上では「解像度が高すぎ」「興味深い!」などと好意的な注目を集めたのだが、公開された収録内容の一部記述から、一転、ネット上で物議をかもす事態に発展してしまった。
「オタク用語辞典 大限界」は、名古屋短期大学現代教養学科の学生12名が、自分たちの周りで使われているオタク用語約1,600項目を採集し、語釈と用例を付した辞典とされる。「実際にオタク用語を日常使用している学生たちの書いた『パッション』と『ユーモア』溢れる“生きた”解説をお楽しみください」と紹介されている。なお、タイトルの「大限界」は、不朽の国語辞典「大言海(言海)」と「限界オタク」を掛けたものだそうだ。
ページ数は288ページで、一般的なオタク用語はもちろん、「日本の男性アイドル」や、「K-POP」、「2.5次元」、「ポケモン」、「原神」、「BL」といった”界隈”ごとに全14章で構成される。
収録項目の例は以下の通り。
- 【オタク共通用語】 アクスタ/インターネットやめろ/産んだ記憶ある/推し/開封の儀/顔がいい/顔面国宝/供給過多/けしからん/限界オタク/後方腕組み彼氏面/古参/転ぶ/祭壇/しんどい/すこ/助かる/助けて/積む/強火/尊い/トゥンク/歯茎むき出し/箱推し/ビジュがいい/待って/リアコ/履修
- 【三次元共通用語】 遠征/現場/他担狩り/ファンサ/ペンラ/目が足りない
- 【日本の男性アイドル界隈用語】 コロペン/Jr.マンション/シンメ/制作開放席/デキジュ/トンチキ/干される/無所
- 【K-POP界隈用語】 愛嬌/イルデ/エンディング妖精/ケミ/センイルケーキ/チケッティング/モッパン
- 【2.5次元界隈用語】討ち死に/凱旋公演/マチソワ
- 【二次元共通用語】 中の人/ぬるぬる動く/無印/目パチ
- 【ゲーム共通用語】 エンカ/ガチャ石/縛りプレイ/舐めプ/ランクマ
- 【アークナイツ界隈用語】 ケルシー構文/真のドクター神拳
- 【スプラトゥーン界隈用語】 アマビ/ウンコ/ガチマ/養殖
- 【ファイアーエムブレム界隈用語】 アラン/イラナイツ/お助けパラディン
- 【プロセカ界隈用語】 豆腐/^^/!!!
- 【ポケモン界隈用語】 オシャボ/おんみょ~ん/まひるみ
- 【原神界隈用語】 俺が払うよ/けつみどり/パインアメ
- 【BL界隈用語】 オメガバース/薔薇/腐死鳥(フェニックス)/平成の攻め
オタク用語としての解説のほか、辞書的意味を持つ言葉は一般的な語義も紹介。また用例には、実在する作品などを用いた具体的な使い方まで掲載されているものもある。学生たちがハマっている”界隈”にまつわる用語を収集しているため、用語には偏りがあるともしている。
その「オタク用語辞典 大限界」だが、発売前にサンプルとして公開された内容を見たオタク界隈から、界隈の人間であれば踏まえているべき理解や配慮、暗黙のルールがわかっていないなど、批判的な声が挙がり騒動となってしまった。特に言及が目立ったのが、「顔カプ」や「公式カプ」の項目の用例部分で記述された、特定のキャラクター同士のカップリング例だった。
ネット上では、「三省堂が主観と偏見と蔑称のオタク用語辞典を出す事実にため息」「公式カプの例文に兎赤、顔カプの例文に甚虎が使われてる辺りで編集者の【思想】をムンムンに感じてしまって嫌じゃないですか?」「嫌いなCPを辞書の用例にされるのも、推しCPを用例にされるのも嫌と、なぜ誰も気づかない?」などの声が見られた。
こういった批判を受け三省堂は、「編者・版元より」とした報告をお願いを掲載。経緯説明や今後の方針、そして執筆した学生への中傷が起こってしまったことに触れ、批判は編集に向けて欲しい旨のお願いをしている。「皆様のご指摘を重く受け止め、編者・著者においては、各種記述を改めて精査いたしました。特に多数のご批判を頂戴した『顔カプ』『公式カプ』の用例は、読者の方々の心情を害することのないよう、表現を改めております。また、これら以外の項目に関しましても、可能な限り修訂を加えました」と刊行前の改訂を発表し、刊行後も改めて、読者の意見や批評を受け止め「大限界」を育てていく方針だとしている。
【謹告】11月刊行予定『#オタク用語辞典 #大限界』につきまして、弊社ウェブサイトにて、編者・版元によるご報告とお願いの文書を公開いたしました。詳細は、下記リンクよりご覧ください。(1/3)https://t.co/IDlEd180BC
— 三省堂辞書出版部 (@sanseido_dict) October 26, 2023
もともと同人で扱われるような千差万別な認識を、辞書の項目として定義することの難しさを感じるが、あくまで辞書なのであれば、客観性や普遍性まで掘り下げ、厳密に定義すべきといった批判だろう。一連の騒動は、三省堂の「辞典」という大看板を書籍名に冠してしまったがゆえに、「三省堂の辞典」への高い信頼の裏返しとして、反応が大きくなってしまった面が見られる。批判にあたる部分は確かにあるが、著者たちが本書をつくりあげた情熱の膨大さは、広範な情報収集が行われたと推測できる目次を見ただけでもうかがい知れる。
ネット上には「普通に欲しい笑」「オタクに対する解像度が高すぎる…!」「語を集める過程が気になり過ぎますねw」「ほー、これは興味深い!」「絶対に買います!」など、好意的な声も多く寄せられている。
「オタク用語辞典 大限界」の発売は11月21日、11月22日に電子書籍版も配信する。価格は1,540円。