クライミングをしてみませんか?
アウトドアブランド「Arc'teryx(以下、アークテリクス)」の担当者の方に誘われた筆者、最初は少し戸惑いました。
スノーボードが趣味でも、それ以外のアウトドア経験は少なく、ましてクライミングなど未経験。
そんなオジサンの背中を押したのは、開催場所が「湯河原」ということ。あわよくば温泉に入れる? そんな邪な考えを隠して、「仕事」ということで同社開催の体験会に参加してきたのです。
アークテリクスはクライミングが原点
アークテリクスといえば、街中でリュックやマウンテンパーカーをよく見かけますよね。
シンプルなデザイン、特徴的なブランドロゴが知られていますが、何度か発売されたBEAMSとのコラボレーションモデルなども印象が強いです。
アパレルのイメージが強いですが、実は創業の原点はクライミングにあるそう。
日本で同ブランドのマーケティングマネージャーを務める林さんは、「クライミングギアが創業の原点であり、カナダの本社では『自分たちはアウトドアギアブランド』とよく言っています」と社内エピソードを明かしてくれます。
その背景から、クライミングに関連するジャケットやパンツ、バックパック、シューズからハーネスと呼ばれるクライミング用のギアまで展開しているのです。
今回の体験会もクライミングの楽しさを同社の道具を通して味わうために企画されたそうですよ。
と前置きはここまで。早速クライミングに挑戦。
とは言え筆者も含め、参加者の多くが未経験者ということで、日本山岳ガイド協会のガイド資格を持つ3人の専門家の皆さんがギアの使い方や装着の仕方をレクチャーしてくれました。
たどたどしく自分のハーネスを腰に装着し、クライミングシューズを履いた筆者。いよいよクライミングに初挑戦。
ちなみにハーネスは腰に着用しロープを結び、クライミング時の安全を確保するための道具です。アークテリクスも登山用のハーネス開発からビジネスをスタートしているので、ブランドのDNAと位置付けられています。
それはさておき、この岩山、筆者のような素人が本当に登るのですか……。
今回は登るルートの最上部にあらかじめロープを掛け、最上部を支点としながら登る「トップロープクライミング」というクライミング方法。プロのガイドさんが設定した安全なプログラムのようですが、まさに岩壁そのものですよ。
「登山ガイドステージ2※2はローマ数字」を保有し、全国で活動しているガイドの井坂道彦さんにこの壁の難易度を聞いたところ、初中級者向けの岩場が多いですねと言います。
これで入門レベルですがー。と思って周囲を見渡すと、我々とは別で一般のクライミング愛好家の方々もかなりいて、さらに多くが高齢者だと気付いたのです。日本の高齢者スゲー。
人生初のクライミングに挑戦
それでは実際に登ってみましょう。井坂さんたち専門家のアドバイスに従うと、なるべく足は壁に対して縦に引っかける、手より足をうまく使うのが良いとのこと。
それ以外は難しいことはなく、登りながらルートを考えながらパズルのようにして登頂します。筆者の2本のルートに挑戦した筆者の感想ですが、思った以上に体力というよりは考える力と精神力が要求された気がします。
登っている途中で必ずルートに迷います。そこでどう攻めるかということ、さらに集中しているせいか周囲の声が耳に入らず、非常に孤独感を抱くのです。これ、けっこうツライ。
そこで心を折らず、諦めずにルートを探し続けることが登頂につながるのでした。その分、成功した時の達成感や充実感はかなりありますよ! あと、隣のルートを登る見知らぬ方が「頑張って!」と声をかけてくれるのが、また胸に染みるんだ……。
など、なんだかいっぱしのクライマーのようなコメントを出してみましたが、実情は全然違います。手足の適切な置き所は分からず、恐怖心から腰は引け、恐る恐る登っていたのが真の姿。終わった後は息も絶え絶えでした笑。
アークテリクスの強み
一通りクライミングを終え、アークテリクスのマーケティングを担当する三原淳也さんに同社の製品について、少しお話を聞くことができました。まず出たのが「耐久性」というワードです。
――アークテリクスの強みとは
「弊社の製品には必ず『耐久性』という言葉が登場します。例えば、クライミング中にロープで擦れても摩耗しづらく破れにくい、さらにウェアの寿命という2つの意味での耐久性があり、それがアークテリクスの強みでもあります」
とは言え、単に耐久性を重視するなら生地を厚くしたり、ステッチの糸を太くしたりすれば良いということでもなく、そうすると重さの問題が発生します。
「ここまでの重さが欲しい、でも強度もこれだけ必要というバランスの見極めがあり、その上で各プロダクトに最適な生地の強さと軽さを備えているのがアークテリクスの特徴と言えます」
と聞いたところで素朴な疑問を持つ筆者。そのバランスを取るため、どのような検証がなされているのでしょう。三原さんに聞いてみました。
――製品開発での検証プロセスをお教えください
「フィールドテストをかなり行っていて、それがアークテリクスのユニークな点でもあります。カナダのノース・バンクーバーに本社とデザインセンターがあり、そこから車で30分の場所に本社工場『ARC'One(アークワン)』が位置。さらに車で1時間程度の場所でフィールドテストを行う、この距離感の近さがアークテリクスの強みでしょう」
デザインセンターで試作されたプロトタイプをアークワンに持ち込み、そこでエンジニアや職人から製品化に向けたフィードバックを得るフローができているようですね。
例えば何かの製品を実際に使い、改善点が出たら持ち帰って修正。翌日、再度同じ環境で使って検証できるブランドは多くはないのでしょう。
では、ここまで速い製造サイクルが確立しているのなら、新製品も頻繁に登場するのでしょうか?
――新製品のリリースサイクルは速いのでしょうか
「実はそうでもありません。と言うのも、改良を重ねて完成した製品がリリースされていますので、次のシーズンに『そのアップデートモデルが~』となる訳ではなく、生産技術や素材、裁断パターンの研究と進化があって変わるものです。ただ開発までのスピード感、完成度を高めるための時間は速いでしょう」
なおプロダクトによりデザインの変化の度合が違うそうですが、新素材が採用される時は大きく変わることが多いとも明かしてくれました。
例えば発売されて今年25年のハードシェル、最新モデルでは「初代と比較し200g以上の軽量化」「表面生地はリサイクル素材」「摩耗の激しい裾や袖口は素材とラミネーションの改良により耐久性が向上」などが特徴となっています。
アークテリクス本社では、氷河や岩盤地域でのアルパインアカデミー、クライミングアカデミー、バックカントリーアカデミーという3つのコアとするスポーツのプログラムを提供しており、そこで使え、過酷な環境でも機能するという点を常に意識して開発されていると話す三原さん。
筆者が抱いていたファッションブランドのイメージはあくまで一面だと気付けた体験会でした。
余談ですが、現地での解散後、秒で湯河原の温泉街を目指したのはここだけの話……おっと誰か来たようだ。