忠犬ハチ公の生誕100年を記念した、さまざまな企画が進んでいる東京・渋谷。駅前では11月12日、なんと1日限りの”ハチ公の部屋”が出現した。一体、どのような経緯でこの大掛かりなインスタレーション作品は生まれたのだろう? 現場でアーティストに話を聞いた。
■作品の生まれた背景は?
ハチが秋田県大館市に生まれたのは1923年(大正12年)11月10日のこと。幼犬の頃から東京帝国大学の上野英三郎教授のもとで育てられ、教授が亡き後も、その帰りを出迎えるために渋谷駅に通い続けた、という逸話は今日まで語り継がれている。いま渋谷では、そんなハチ公の物語を伝える看板が出ている。
さて、そんなハチ公前広場に突如出現したのは、ピンクを基調とした壁紙が可愛らしいベッドルームだった。ゆっくり寛げそうなソファが置いてあり、おしゃれな照明が優しく照らすその小部屋でハチ公は、あたかもベットの上に行儀よく座っているかのような姿勢で街を歩く人たちをじっと見つめる。
このインスタレーション作品を手がけたのは、ドイツ在住の世界的なアーティストである西野達氏。同氏はパブリックなものをプライベートな空間に取り込むことで見慣れた風景をダイナミックに異化させる、逆転の発想で固定観念を覆す、そんなプロジェクトを数多く発表してきた人物だ。たとえばシンガポールでは「マーライオン像」を取り囲むホテルを建設し(2011年)、ベルギーでは中央駅に設置されている時計台を組み込んだホテルを企画(2012年)。ニューヨークのマンハッタンに立つ「コロンブス像」の周りにリビングルームを設置(2012年)した作品も現地で大きな話題を呼んだ。
そこで現地で西野氏に話を聞いた。今回のコンセプトについては「ハチ公が生まれてから100年。この銅像が建立されてからは90年近くが経つという話ですが、雨、風、雪などを全身に浴びながら、今日までお役目を果たしています。そこで『お疲れ様です』という気持ちを込めて、感謝と安らぎの温かい部屋を作ってみたかったんです」と説明する。なお今夏、渋谷区郷土博物館で開催されたハチ公 生誕100年記念の企画展にも足を運んでアイデアを練ったそうだ。
西野氏が作品づくりで心がけているテーマは『人間の想像力の拡張』。ハチ公の部屋においても「渋谷を訪れた皆さんの想像力を刺激したい。インスタレーションを前にして、ハチ公の思いを労いたいと思う人もいれば、『こんな作品は初めて見た』と困惑する人もいるでしょう。これを機会に、忠犬ハチ公について改めて調べようと思う人もいるかも知れない」とし、作品が色んな形で人々に影響を与えることを期待する。
そして最後は「作品が設置されるのは残念ながら1日のみとなりますが、たくさんの人に見てもらって、いろんなことを考えてもらえたらと思います」と話していた。