幕張メッセで11月8~10日に開催された「第8回 鉄道技術展」に近畿車輛が出展。同社が製造した車両を例にした構体の素材の違いや、現在開発中の車載式自動スロープ装置「スマートランプ」について展示を行った。

  • 「鉄道技術展」に近畿車輛が出展。展示用モックアップで「スマートランプ」の稼働を実演した

■車載式自動スロープ装置「スマートランプ」どこに導入する?

まずは車載式自動スロープ装置「スマートランプ」について見ていく。この装置は、車内に搭載したスロープを乗務員が遠隔操作で展開・格納し、乗降ドアとホームに掛けるしくみになっている。乗務員室にモニター、反対側のドア上部にカメラを設置した上で、乗務員がモニターで利用者の乗降りを確認し、タッチパネルでスロープの展開・格納を行う。これによってスロープが掛かったドアには段差がなくなるため、どの利用者も乗降しやすくなる。スロープは、ホームのほうが低い場合で最大173mmの段差に対応。列車の床のほうが低い場合は20mmの段差まで対応する。

  • 「スマートランプ」の展示用モックアップを設置した近畿車輛のブース

  • 乗降口と反対側のカメラで安全確認

  • 車いす利用者の乗降りと乗務員の操作のイメージ

会場では、「スマートランプ」を採用したスロープの実演も行われた。車内に見立てたモックアップの壁面にユニットが設置され、モニター操作でスロープを自動で展開。スロープが稼働している間は赤いランプが点滅し、利用者に注意を促す。完全にスロープが下がりきり、ホームに設置されると、赤色のランプが青色に変わり、上を通行できるようになる。乗降が終わってドアを閉める直前、遠隔操作でスロープが再び動き始め、自動でユニット内に収納される。

  • スロープを設置した箇所に注意喚起のステッカーが貼られている

  • 収納されていたスロープが自動で出てきた

  • 両端のランプが青になったら通行可能に

ちなみに、スロープがユニットから展開し、ホームに掛かり終わるまで16秒、乗降が終わった後にスロープを上げ、収納し終わるまでに15秒かかる。そのため、この状態で実用化されるとしたら、列車本数が過密でない線区への投入が見込まれるだろう。しかし、「スマートランプ」は側壁への設置を想定しており、新型車両はもちろん、既存の車両に改造する場合も小規模加工で済むとのこと。

これを外側から見ると、スロープを設置するドアの近くに案内表示も用意されており、文字と音声で利用者に案内を促すところも見ることができた。スロープの動き方によって、「スロープを出します」「ホームに向かって開きます」などの案内が表示される。万が一、スロープが開ききっていない状態で利用者が近くに立っている場合、稼働を止めつつ「スロープから離れてください」という音声が流れる。人のにぎわう声もあったからだと思うが、会場では音声が少々小さく聞こえていたので、案内音声の音量は今後に期待したい。

  • 外側から見た様子。赤・青のランプで知らせるほか、案内表示も設置できる

  • スロープの動かし方や注意喚起によって案内表示も変化する

では、「スマートランプ」をどこに導入するかというと、ローカル線を含む無人駅に停車する列車への設置を想定しているという。車いす利用者が列車に乗車する時、現在は駅員がスロープを用意して補助している。しかし、無人駅や駅係員不在時間帯の場合、他駅から駅員の手配が必要になるため、介助が困難になる可能性もある。

「スマートランプ」は車載式であるため、駅員の手配を行わずにバリアフリー対応のスロープを用意できる。それにより、車いす利用者が単独で列車に乗降できるようになる。既存車両への改造も比較的小規模であるため、取付け場所が捻出できれば既存車両への取付けも視野に入るだろう。最大で173mmの段差に対応できるため、ホームと車内に生じる段差を解消できる点も大きい。

一方で、「スマートランプ」を実際に導入した際、鉄道利用および「スマートランプ」利用の意志表示を利用者からどうやって汲み取るかも課題になるという。現在は開発段階のため、今後、実証実験などの実績を積むことや、そのための事業者からの協力の声も求められる。課題をどのように解決していくか、実証実験をどのように進めていくかは、協力する事業者との協議次第となる。

■耐候性鋼・ステンレス・アルミ合金、それぞれの特徴とは

近畿車輛のブースでは、鉄道車両の素材の違いに関する展示も行われていた。耐候性鋼、ステンレス鋼、アルミニウム合金の3種類について、最近の車両の外板を用意しつつ、パネルを交えて解説も行った。

耐候性鋼は、曲げや板金といった加工が容易という特徴を持つ。曲面を多用した造形や、ハイデッカー構造など、特殊な構造にも対応しやすい。この素材を使用して製造された車両の代表例が近畿日本鉄道の「ひのとり」(80000系)で、大型窓やハイデッカー構造などの特徴的な要素を実現させた。その他、JR西日本の「TWILIGHT EXPRESS 瑞風」(87系)とDEC741形、広島電鉄の「Greenmover APEX」(5200形)、エジプトNAT・カイロ地下鉄3号線車両などに実績がある。

  • 近鉄「ひのとり」などに採用されている耐候性鋼

ステンレス鋼も耐候性に優れており、保守の軽減が期待できるという。加工制約を熟知した造形にすることで、ステンレスの特徴を生かした構体を作り出せる。錆びにくいため、無塗装で仕上げることもできる。

首都圏では総合車両製作所によるステンレス製車両をよく見るが、近畿車輛の実績としては、JR西日本の225系などが挙げられる。225系の前面は耐候性鋼だが、側面にステンレスを使用しており、双方の強みを組み合わせた車両になっている。その他、南海電鉄の8300系、泉北高速鉄道の9300系、大阪市高速電気軌道(Osaka Metro)が中央線に導入した30000A系、北大阪急行電鉄の9000形、米国・LACMTAのP3010形にステンレス鋼が使用されている。

  • JR西日本225系の側面などに使用されているステンレス鋼(写真中央)

アルミニウム合金は軽量でリサイクル性に優れ、他の素材よりもやわらかいので、押し出し形材の利用や削り出しを行いやすく、緻密な造形に仕上げられる。ステンレス鋼と同じく錆びにくいため、無塗装で仕上げることもできる。

代表例は京都市交通局が烏丸線に導入した20系。加工がしやすい特徴を利用し、前照灯周りのシャープな造形を実現した。他にもJR西日本の北陸新幹線車両W7系、東京メトロ日比谷線の13000系、都営三田線の6500形、カタールQRC・ドーハメトロ車両などに使用されている。首都圏においては、東京メトロ日比谷線や都営三田線で近畿車輛が製造した車両を見かける機会が多いだろう。北陸新幹線のW7系も東京駅へ乗り入れる。

  • 京都市営地下鉄烏丸線20系などに使用されているアルミニウム合金

その他、インテリア・エクステリアデザイン、グラフィック・サインについてのパネル展示や、車両製造動画の放映も行われた。「スマートランプ」は、とくにローカル線と無人駅のバリアフリーに大きく貢献すると見受けられたが、現段階では開発途中とのことで、今後の展開に期待したい。