幕張メッセで11月8~10日に開催された「第8回 鉄道技術展」に、大手車両メーカーの一角である総合車両製作所(J-TREC)も出展。同社の次世代車両ブランド「sustina」(サスティナ)に関連した展示を行った。
■ドーム型シアターでプレゼン、「sustina」のコンセプトは
総合車両製作所が2013年から世に送り出している「sustina」は、東急車輛時代から長い時間をかけて同社が積み重ねてきたステンレス車両をベースに、基本的な部分を共通化させたプラットフォーム。剛性、軽さ、リサイクル性を兼ね備えた低炭素ステンレス鋼を構体として使用する。台枠や屋根構体の材料、骨組みの適正配置化により、従来車両に比べて約0.5トンの軽量化も実現した。
東急電鉄の5050系5576号車が「sustina」車両の第1号として2013年に登場し、2015年に登場したJR東日本E235系0番代で「sustina」共通プラットフォームの概念を導入。以降、「車体長20m・片側4扉車両」「車体長20m・片側3扉車両」「車体長18m・片側3扉車両」の3シリーズに分けられ、2両から10両までさまざまな編成に対応している。
総合車両製作所のブースでは、30分に1回、ドーム型シアターを使用したプレゼンテーションが行われた。最初の7分で「sustina」車両などが走行する様子を投影。JR・東急電鉄はもちろん、京急電鉄1000形1890番代「Le Ciel」、静岡鉄道A3000形、しなの鉄道SR1系など、さまざまな車両の活躍風景が動画に盛り込まれていた。360度に映像投影されることで、自身の周囲に走行風景が展開するため、迫力満点で没入感も高い。
車両走行風景の再生が終わった後にプレゼンテーションがスタート。東急車輛時代からの沿革や、2023年5月に国土交通省が公表した「鉄道分野のカーボンニュートラルの目指すべき姿」に対する自社の取組みに触れた。「鉄道事業そのものの脱炭素化(鉄道の脱炭素)」「鉄道アセットを活用した脱炭素化(鉄道による脱炭素)」「環境優位性のある鉄道利用を通じた脱炭素化(鉄道が支える脱炭素)」のどの観点においても「サスティナブルな社会への貢献を続けてまいります」とのことだった。
ちなみに、鉄道の脱炭素化における最近の取組みとしては、先日の「JAPAN MOBILITY SHOW 2023」で展示された、日本初の水素燃料電池を搭載した水素ハイブリッド電車「HYBARI」(FV-E991系)の開発に総合車両製作所も参加している。車両の完成後、2022年3月から南武線・鶴見線で試験走行が行われている。
「sustina」についての解説も行われた。そのコンセプトは、共通プラットフォーム化によってイニシャルコストを低減すること。さらに、基本的な部分は共通化させつつも、ユニバーサルデザインを取り入れることで、すべての人が安心・安全に利用しやすい車両となるように工夫を凝らしている。車両を製造してから廃車までのサイクルの中で、「sustina」ユーザーである鉄道事業者と情報交換の場を設け、車両のライフサイクル全体でのコスト削減にも努めているという。この3点が、「sustina」ブランドのコンセプトとなっている。
2013年に「sustina」第1号として東急電鉄5050系5576号車が登場してから10年経過し、2023年10月末時点で「sustina」車両の製造数は24形式2,115両に及ぶ。今後は作業効率を上げるためのモジュール化、寸法が異なる部分のアジャスタブル化による、さらなるコスト低減に挑戦する。ワンマン運転・自動運転の拡大も想定し、さまざまなシステムにも対応できるように努めるという。これらを通して、「これまでの10年間に築き上げてきた共通プラットフォームを礎に、安全・安心・省エネルギー・省力化に更なる磨きをかけていく所存です」とのことだった。
■従来のステンレス構体と次世代「sustina」構体の違いを実物で見る
ドーム型シアターの反対側では、従来のステンレス構体と次世代「sustina」構体の見本が展示された。従来のステンレス車両は、上半分の外板にわずかな段差を設け、そこに下半分の外板を重ね、抵抗スポット溶接で固定する「セギリ構造」が採用されていた。裏側の骨組みと組み合わせる部分にも抵抗スポット溶接を行っており、溶接された部分には丸い模様が浮き出ている。
しかし、他の板や窓枠と接続する部分には段差が生じるため、その部分の水密性を確保するために樹脂シールが必要となり、メンテナンスに手間を要する。ブースの担当者も、内部への水の侵入は避けなければならないということを強調していた。
一方、「sustina」のステンレス構体は、水密レーザー溶接を採用したフルフラットな構造となっている。外板と窓枠との境目にも水密レーザー溶接を行うことで、水密性を確保しながら樹脂シールを大幅に削減できる。窓枠も含め、外観の凹凸が大幅に削減されるため、全面に塗装・ラッピングを行う際にも美しい仕上がりになる。
なお、現在の「sustina」車両では、外板と内部の骨組みを溶接する際に抵抗スポット溶接を行っているが、展示された次世代「sustina」プロトタイプでは、外板と骨組みの溶接にもレーザー溶接を使用している。スポット溶接に比べてレーザー溶接のほうが溶接痕が小さく、より美しい車体に仕上がるという。首都圏であれば、従来のステンレス車両も「sustina」車両も日常的に見ることができる。鉄道利用中や沿線を通るときなど、車両の外観・内装の違いに目を向けてみてほしい。
■情報提供や安全管理に関わる製品も
その他、車両の情報提供や安全管理に関わる製品のサンプルも展示された。まずは、車内のドア上に設置する広告ディスプレイ「TRAIN VIEWER+」。20インチの大型ディスプレイで、フルHDに対応した高解像度で映像を再生できる。17インチの画面サイズもあるという。薄型であるため、もともとディスプレイを設置していなかった車両に後から改造を行っても美観を損ねないデザインになっている。配布されたパンフレットによれば、車両に限らず駅などにも設置できるとのこと。
筆者がこれを最初に見たとき、E235系1000番代(横須賀線・総武快速線に導入された車両)の車内ディスプレイに似ているように見受けられた。しかし、E235系1000番代の車内ディスプレイは案内用・広告用で2基設置された21インチのディスプレイであるため、「TRAIN VIEWER+」とは異なっている。「TRAIN VIEWER+」は20インチまたは17インチのディスプレイが1基で、既存車両へ改造する場合にも向いている。導入例としては、新潟エリアのE129系やJR九州の車両が挙げられる。
次に、2種類の安全装置を紹介。中央に展示された装置は、ツインセンサ型脱線検知装置「TRAIN SAVER+」で、おもに私鉄の車両で採用されている。全台車の上部にセンサーが配置されているため、脱線等でセンサーが異常振動を検知すると、脱線検知信号により非常ブレーキを作動させ、重大事故を防ぐ機能を有している。センサーユニットと本体はそれぞれ独立しているので、取付け位置の制約が少ないこともメリットといえる。
その右隣に展示された装置は「安研型防護無線自動発報装置」。おもにJR型の車両に多く採用されている。「TRAIN SAVER+」とは異なり、こちらは両先頭車に配置するのに適しており、脱線等を検知すると脱線検知信号により自動的に防護無線を作動させ、二次被害の発生を抑える。万が一、乗務員が負傷・意識喪失または平静を失った場合も防護無線を作動させる。こちらは脱線・転覆の他に衝突も検知できるとのこと。
「TRAIN SAVER+」の左隣に展示されていた装置は、遠隔操作型ボールコック「AIRLEAD」で、妻部(中間連結面)の非常ドアコックなどに使用する。取付け元のハンドルとこの装置のハンドルが連動するので、もともとの高さでは操作しづらいドアコックも、「AIRLEAD」があれば遠隔で操作できる。とくに、ホームドアがある路線とその車両で、非常用ドアコックを移設または追加する場合に有用とのこと。
■マニラ南北通勤鉄道を例に、海外向け事業の紹介も
最後に、海外向けの事業にも触れておきたい。「sustina」ブランドの車両は、国内だけでなく海外向けにも製造されており、2015年には海外「sustina」車両として初めて、タイ・バンコクメトロのパープルライン向け車両を製造・納入した。最近の例では、フィリピン・マニラ南北通勤鉄道向けの車両も製造しており、その模型が会場に展示された。
同車両の現地向けの要素としては、日本より暑い気候に備えて冷房を2基搭載していること、より多くの利用者を輸送できるように、手すり・吊り革の3列配置としたこと、座席をモケットではなくFRP(繊維強化プラスチック)で製作したことが挙げられる。ただし、フルフラット構造などの基本的な要素は国内「sustina」車両と変わらない。
国内外問わず、「sustina」ブランドの車両は10年間で多岐にわたり、今後も拡大していくことが予想される。12月24日には、鶴見線の新型車両としてE131系が運行開始する予定。先日発表されたりんかい線の新型車両71-000形(2025年度下期に第1編成の営業運転を開始する予定)も、総合車両製作所が製造を担当する。「sustina」ブランドの新型車両が今後も導入されることで、その路線にどのような変化が訪れるだろうか。