第82期A級順位戦(主催:朝日新聞社・毎日新聞社)は5回戦にあたる2局が11月8日(水)に各地の対局場で行われました。このうち、東京・将棋会館で行われた永瀬拓矢九段―広瀬章人八段戦は永瀬九段が109手で勝利。3勝2敗の白星先行として挑戦権争いに望みをつなぎました。

広瀬八段の秘策

永瀬九段2勝2敗、広瀬八段1勝3敗で迎えた本局はともに上位を目指すうえで負けられない戦い。先後があらかじめ決められている順位戦、後手となった広瀬八段の用意は角交換振り飛車でした。対する永瀬九段は地下鉄飛車で対抗します。

玉側の端を受けるために後手が角を手放したのを見た先手の永瀬九段は方針転換。歩の手筋を駆使して後手陣に馬を作ったのは好調の攻めに思われましたが、ここは広瀬八段の受けが上回りました。この馬に飛車をぶつけて交換を迫ったのが決断のさばきです。

終盤に事件発生

大駒交換を渋る永瀬九段にかまわず広瀬八段はなおも飛車を押し売り。このあと9筋を逆襲してと金を作った局面は玉の安全度の差が大きく振り飛車優勢は明らかです。しかし、広瀬八段の勝利目前と思われた最終盤に事件が待ち受けていました。

豊富な持ち駒を手にした広瀬八段は永瀬九段の玉に必死をかけて手番を渡しますが、この瞬間に勝敗が入れ替わりました。駒をたくさん渡したため広瀬八段の玉には長いながらも即詰みが生じています。終局時刻は23時57分、自玉の詰みを認めた広瀬八段が投了。

これで勝った永瀬九段は3勝2敗、敗れた広瀬八段は1勝4敗に。結果的に広瀬八段が先手玉に必死をかけにいったのが敗着とされました。次局6回戦で永瀬九段は渡辺明九段、広瀬八段は佐藤天彦九段との対局が予定されています。

  • 永瀬九段は公式戦4連勝と好調をキープ(未放映のテレビ対局を除く)(写真は第93期ヒューリック杯棋聖戦五番勝負第1局のもの 提供:日本将棋連盟)

    永瀬九段は公式戦4連勝と好調をキープ(未放映のテレビ対局を除く)(写真は第93期ヒューリック杯棋聖戦五番勝負第1局のもの 提供:日本将棋連盟)

水留 啓(将棋情報局)

この記事へのコメント、ご感想を、ぜひお聞かせください⇒コメント欄