乗客数の少ない鉄道路線はコストがかかりすぎる。運行費用の安いバス路線に転換しよう。これがローカル線のバス転換の常識だった。しかし近年、バスの運転手不足が危惧され、鉄道路線のバス転換は難しいのではないかと言われるようになった。それがついに現実問題として突きつけられた。それも赤字ローカル線ではなく、かつての幹線鉄道、整備新幹線の並行在来線だった。

  • 北海道が提案した代替バスは長万部~小樽間を4区間に分ける(地理院地図を加工)

函館本線の函館~小樽間は、北海道新幹線の札幌延伸開業にともないJR北海道から分離される。このうち長万部~小樽間は沿線自治体がバス転換で合意した。しかし、運行委託予定のバス会社3社は道に対し、道が示したダイヤ案を困難と回答した。

■長万部~小樽間のバス転換に至る経緯は

整備新幹線の着工条件のひとつに「並行在来線のJRからの経営分離」がある。ほとんどの並行在来線はJRから経営分離された後、自治体が設立した第三セクター鉄道会社によって鉄道運行が継続されている。いままで例外は1つだけ。信越本線の横川~軽井沢間だけだった。JR線において最も急な勾配で運行経費がかかり、貨物列車も中央本線や上越線の迂回ルートがあったため、横川~軽井沢間は廃止となった。

長万部~小樽間の沿線自治体は当初、鉄道維持を期待していた。しかし、2012年から2022年にかけて検討を重ねた結果、鉄道維持を断念し、バス輸送に転換する方針となった。理由はおもに3点あり、「この区間はJR貨物列車のルートから外れており、線路使用料を得られず第三セクター鉄道会社の赤字負担が大きすぎる」「倶知安町が在来線線路を撤去して分断されたまちをまとめたい意向」「沿線全体で、北海道新幹線の長万部、倶知安、新小樽の各駅と、建設中の後志(しりべし)自動車道のインターチェンジを組み合わせた交通ネットワークをつくりたい」であった。

2022年11月6日の「第15回後志ブロック会議」で、事務局(道)からバスのルートとダイヤについて検討案が示された。2023年5月28日の「第16回後志ブロック会議」にて、沿線自治体からバス事業者に対して協力依頼する内容が確認された。その後、バス事業者へ協力を求め、随時、関係者と協議を重ねていく方針となっていた。

その第1段階で、バス事業者から「後志ブロック会議が要望するルート、ダイヤは実行困難」と言われた。あてにしていた相手から袖にされてしまった。代替バスが走らなければ、地域の公共交通は消えてしまうかもしれない。しかし、もう鉄道には戻れない。在来線撤去でまちづくりを検討している自治体もあり、JR北海道も赤字路線を残す体力がない。並行在来線問題は立ち止まってしまった。

良い材料があるとすれば、北海道新幹線札幌延伸開業が遅れる見込みであること。現在は2030年度(2031年春)開業予定となっているが、トンネル工事の遅れ、建設資材高騰、2024年から建設業界の残業規制が強化されるなどで4年以上の開業延期がささやかれている。7年後のバス運行が11年後になるわけで、少し時間が稼げたことになる。沿線自治体やバス会社の努力だけでなく、国や道の支援策を急ぐ必要がある。

■代替バスのルートとダイヤは

函館本線の長万部~小樽間を走る列車は合計42本(下り20本・上り22本)。このうち長万部~小樽間を直通する列車が下り3本・上り1本で、その他は区間運転となっている。倶知安~小樽間の列車は下り13本・上り12本、蘭越~倶知安間の列車は下り7本・上り7本、長万部~倶知安間の列車は下り4本・上り5本。俯瞰すると小樽駅発着が多く、長万部駅発着は少ない。

これらの列車を代替するバスのルートとして、長万部~黒松内間、黒松内~倶知安間、倶知安~余市間、余市~小樽間の4区間を想定している。このうち黒松内~蘭越間については、いままでバス路線がなかった。既存のバス路線のうち、ニセコ駅、銀山駅、塩谷駅を経由するバス路線もない。既存の列車を代替するだけでなく、生活に即した経由地と停留所の新設も検討されている。各ルートの検討案は次の通り。

●長万部~黒松内間(一部は熱郛駅へ)

  • 長万部温泉停留所を新設する。長万部高校は駅から徒歩20分だが、長万部温泉停留所から徒歩5分となる。
  • 黒松内駅前に交通結節点を新設。
  • 熱郛駅付近の「道の駅くろまつない」にバス停留所を新設する。
  • JR代替便の他に1往復の増便を検討する

●黒松内~倶知安間

  • 黒松内~蘭越間は新規バス路線となる。
  • 倶知安駅徒歩15分の倶知安厚生病院や倶知安高校前を経由するルートを検討する。
  • 通学時間帯は倶知安~蘭越間、倶知安~ニセコ間の便を設定の上、蘭越・昆布・ニセコを通過する便を設定する。
  • 高校始業時間、通院時間帯のダイヤを検討する。
  • 道路幅が狭い蘭越高校付近のバス停留所、蘭越発小樽行の高速バスを今後検討する。
  • 既存バス路線に列車代替便7往復、倶知安発黒松内行の便、黒松内発蘭越行の便を1本ずつ追加する。

●倶知安~余市間

  • 速達性の観点から、銀山駅、然別駅からは離れた停留所とし、町内公共交通で接続する。
  • 余市駅前にバス乗継ぎの交通結節点を検討する。
  • 列車代替便として、既存バス路線に下り12本・上り11本を追加する。

●余市~小樽間

  • 既存バスの塩谷~塩谷駅前の延伸を検討する。
  • 国道5号のルートではなく、塩谷駅経由の道道956号線(小樽環状線)ルートとする。
  • 通学時間帯は小樽築港駅まで延長し、小樽環状線沿線の高校通学を考慮する。
  • 余市から小樽環状線沿線の高校へ直行し、小樽駅乗換えを解消する。
  • 列車代替便として、既存バス路線に下り17本・上り20本を追加する

■代替バス運行を担う予定のバス会社は

現在、函館本線長万部~小樽間の周辺で運行しているバス会社は、北海道中央バス、ニセコバス、道南バス、ジェイ・アール北海道バス、函館バスの5社。その他に自治体コミュニティバスがあり、黒松内町、蘭越町、ニセコ町、倶知安町、仁木町、余市町が運行している。ジェイ・アール北海道バスは長万部と小樽から他の地域を結ぶ。函館バスは長万部以南を営業区域とする。

函館本線長万部~小樽間で競合する会社は北海道中央バスとニセコバスであり、最初はこの2社に協力を要請する方針だった。後に道南バスも加えて打診したが、「そのダイヤでは運行できない」となってしまった。

北海道中央バスは小樽市に本社を置き、小樽・札幌・空知方面の広範囲なエリアで路線バスを運行する。小樽駅前から余市駅前へ向かう路線も持っている。高速バスは道南・道東方面にも足を伸ばす。ただし、2023年12月1日のダイヤ改正にて、多くの路線で減便または廃止を予定している。

ニセコバスは北海道中央バスグループの会社であり、ニセコ駅前から小樽駅前、ニセコ駅前から蘭越出張所、黒松内温泉から長万部駅前などの路線がある。こちらも2023年10月1日のダイヤ改正で一部路線の減便を実施した。日曜祝日運休の路線もある。

道南バスはおもに室蘭・苫小牧を拠点とするバス会社。倶知安駅前から洞爺湖温泉など、倶知安駅前を発着する路線がある。8月1日に室蘭~新千歳空港間の「高速はやぶさ号」を減便し、10月1日に札幌~函館間で4社共同運行の「高速はこだて号」から撤退した。

各社とも減便や路線廃止のおもな理由は運転手不足だという。そんな状態で新たな路線の参入などできるわけがない。本来、新規路線の参入はビジネスチャンスだった。とくに鉄道代替バスは一定の乗客数が見込める上に、赤字についても自治体が面倒を見てくれる。それでも参入できない。バス会社にとって歯がゆい状況となった。

■「2024年問題」は全国的な傾向、ドライバーの待遇を上げるしかない

運転手不足は全国各地で問題になっている。大阪市の金剛自動車は自社の全15路線を12月20日に廃止すると発表した。現在、自治体が経費を負担するコミュニティバス方式で調整している。他にも帯広、広島、島根、福岡、北九州、沖縄などでバスの減便が報じられている。鉄道も例外ではなく、福井鉄道や島原鉄道が減便した。

京急電鉄は2023年7月、「京急バス『来年4月から運転手が不足します』職員大募集!!」と題したウェブページを公開した。2024年4月から適用される「改善基準告示(自動車運転者の労働時間等の改善のための基準)」に対応するために、現在はドライバーが足りていても、残業規制で乗務時間が減ってしまう。

改善基準によると、1年間の拘束時間は3,380時間から原則3,300時間に減り、1カ月の拘束時間は最大309時間から最大294時間になる。業務終了から次の業務開始までは現行の8時間から9時間に延びる。ただし原則は11時間。これがいわゆる「2024年問題」である。

貨物の場合はトラック輸送から鉄道、船舶へのシフトが急務として、国を挙げて検討を始めている。旅客輸送についても乗合タクシー、ライドシェア、パーソナルモビリティなどが検討されている。しかし決定的な解決策が見つからないまま、来年には運転手不足時代がやってくる。

筆者は何度か自動運転バスの試験運行を取材したが、本格的に導入できるほど成熟していない。不確定な技術をあてにすると、フリーゲージトレインのような手戻りを招くだろう。結局、バス運転手を他社あるいは他の地域から引き抜くという人材獲得競争が始まるのではないか。

函館本線に話を戻すと、バスの運転に必要な大型二種免許の受験資格は21歳だから、いまから7年後に21歳となる14歳の人々を大切に育てていくか、それが無理なら自治体も巻き込み、余所のドライバー引き抜くしか手はないだろう。きれい事では済まない段階になりそうだ。